5章 16 感情の力
「ほら、お望み通り来たみたいだ」
ライアがそう言い終わった直後、屋敷全体が悲鳴をあげるように振動した。
震源は二つ。そのへ繋がる扉の向こうと、手も届かぬほど高い天井の更に上。
先に蹴破られたのは扉の方だった。
「リぃぃザぁぁあああああああ!!」
少年の叫び声とともに竜巻のような衝撃が部屋の中へ穿たれる。紫黒の羽が突風と共に舞い込み、淀んだ陰謀に風穴を開けたかのようだ。
言葉を挟む間もない勢いにディリシアの呼吸が止まったように見えた。彼女の視線の先には息を切らした蓮夜と、彼に抱えられたシャナ。そして音も立てず彼らの速度に着いてきたサヴ。
「正義のヒーローが子供達の声援で立ち上がる。様式美とも言えるテンプレートだが、案外ご都合主義でもなんでもないんだぜ。なんたって、この世の神さえ人の願いによって誕生してる。古来より万民の感情は世界の理をも覆すってことだ」
リザイアを助けるためには中から本人に開けてもらうか、規格外の力でこじ開ける他ない。
その前者を担う一番の適任達が今しがた到着した彼らである。
そして、後者を担うべき神殺しの刃が怒りを込めて天を切り裂く。
「神の気配がする…………あぁぁあクソ!どこまでも神ってのは存在からして腹が立つ!!それを人に降ろすとするテメェらにも!!」
聞きなれた怒号が響くと同時に天井が崩落した。
ぼんやりしていたジオーネも、流石に上を向かざるおえなかったらしい。薄暗い部屋に光が差した。
バラバラに切り落とされた破片が床を叩く中、氷のような剣が一直線に繭を切り開く。
その一太刀は惜しくも繭を覆う何かに弾き返されたものの、ライアではなし得なかった傷を確かに与えていた。
『神殺しのシアン』、その到来である。
彼女は床に着地した後、落ちてくるアミナを抱き抱え、さらに上から落ちてくる葉をアミナの操る機械の手が受け止めた。
「どうよカルヴィテリアのご家族様、及び雇われ研究者。これにてリザイア救出隊勢揃い、ってな!」
ライアは演説のように腕を広げ声をあげる。正面には呆気にとられるディリシアとジオーネ。周囲には代償様々な傷あれど、無事合流できた仲間達。
後手に回っていた形勢は、漸くここから覆される。
「聞きたいことは山ほどあるだろうけど、現状時間はそんなに無い。リザ本体を取り返すのはこっちに任せて、物理的な外郭破壊はシアンに任せる。いいな?」
葉を始め、何人かの視線は例の繭に釘付けになっていたが、彼女らの理解を待つ余裕は既にない。
ライアは一番戦況がわかっているであろう片割れに即座に、簡潔に指示を飛ばした。
「珍しい。お前が自分から動くなんて。信頼していいってことだ」
「あはは!そう言われると裏切りたくなるな〜。けどまー、コレに関しては流石の私も巫山戯てられない……ってこと!わかるだろ?」
「……あっそ」
シアンは一瞬こちらを疑う素振りを見せたが、次の言葉で全てを納得したようだった。
そしてライアの意図を組み、前線を担う指示役として次の一手を挙げた。
「サヴ、アミナ!お前ら二人はまだ元気だろ、こっちに手を貸せ。あの繭を囲ってる野郎をぶっ潰す!!」
「満身創痍なシャナ、蓮夜、葉姉はこっちで私に続け〜。リザイアお嬢様に思いの丈を届けましょ〜なんてな!」
自然と二手に役を割り振ったシアンとライア。
その呼吸は正しく阿吽。必要最低限の会話で互いの意図と適材適所を全て掴んだ故の最効率。
リュウガの暴走も、葉の持ち得る魔弾の全放出も。あれらがあったから今この瞬間、ディアスタシアが姉妹揃って万全の状態で立っている。世界を見てもその実力に並び立つものはそう多くない、護リ人の双子が。
「さーてリザイア。お目覚めの時間だぜ」
「さて天使ども。テメェらの神話、ここで幕を下ろそうか」
ライアの決意が、シアンの憤怒が。二つ同時に火蓋を切った。




