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氷炎護リ人  作者: 有麻環
幕間
39/95

幕間 2 葉、はじめての武器商店 前半

 風希(かざき)(よう)は決意した。

 異世界であるこのエインスカイに来て、早ニヶ月。ずっと行こうと思ってはいたものの、なかなか時間が取れず、勇気も出なかったあの場所へ。

 カーテンを開け、パシッと頬を叩く。今日を逃せばきっとまた先延ばしにする。それはいけない。

 葉は誰もいない部屋の中、眩しい朝日にこう宣言した。

 

 「今日こそ、武器屋に行くんだ!」


 ☆

 

 武器屋。ファンタジー系のゲームや漫画でお馴染みの、文字通り武器を売る店。葉の故郷たる令和の日本ではそうそう見ることは無い場所である。

 しかしここは剣と魔法が基本のエインスカイ。今の葉は仮の稼ぎとして国の軍隊の雑用をしつつ、基礎の戦術を叩き込まれる毎日。そして、師匠の勧めで再来月の入隊試験を経て、正式に軍属になることを目標とする現在。自分に合う武器を一つ買うように言われて今に至る。

 

 そこらの店より一回り大きい木造の簡素な造り。一見普通に見える外観の中には、きっと顔に傷がついたゴツイ大男か、大人しく見えるがふとした眼光が鋭い老人がいるのだろうと葉は一人戦いた。完全な偏見である。

 いつまでも店の前で立ち尽くしても仕方がないと意を決した。ドアノブに手をかけ、少し重い戸を開く。来客に気づいた入店ベルがカランカランと音を響かせ、店員だろう男の声がした。


「らっしゃーせー」


 店の中にいたのは質実剛健を体する大男でも、老齢のなかに熟練の風格を隠す老人でもなく、ヘッドホンをつけて背もたれに寄りかかって座る青年だった。やる気のないラーメン屋のような挨拶をした青年は、見たところ葉と同年代。日本で言うところの高校生か大学生くらいに見える。

 

「おやっさん客ー!」

 

「はーい。ちょっと待ってね〜」


 彼は葉を一瞥した後、店の奥に繋がる暖簾へ声をかけた。どうやら受付係のようだ。


(あれ、この人どこかで見たことあるような……)


 青年はこの世界に来てから見る機会が減った黒髪。日本に住んでいた頃は極一般的な色合いに、懐かしさを覚える。その郷愁につられたのか、葉はこの青年と初対面ではないように思えた。

 どこであったのかと思い返そうと記憶を掘り返す直前、暖簾がゆらりと退けられた。


「いらっしゃい。61(ロクワン)工房へようこそ。何をお探しかな?」

 

「ひぇ」


 奥から現れたのは二メートル、否、三メートル近い大男。柔らかな声とは裏腹に、布作面で目元を隠し、不気味さが漂っている。

 葉は思わず小さな悲鳴を漏らした。


「嗚呼ごめんね、なかなか不審だろうけど怪しいものじゃないんだ。取って食いやしない。僕はこの店の現店主だ」

 

「いえ。こちらこそ初対面で失礼しました!」


 彼は葉を安心させるように背を丸め、壁際にあった椅子へ腰掛けた。


「さて。お嬢さんは軍務の関係者――葉さんで合っているかな?エルムさんから話は聞いているよ。自分の武器を探してるって。剣、槍、杖、銃……色々あるけれど今までは何を使っていたの?」


 どうやら武器の師匠であるエルムがあらかじめ連絡を入れておいてくれたらしい。スザクといい彼女といい、どこまでも手を貸してくれる彼ら。葉は足を向けて寝られまい。

 店主から尋ねられたことを考えながら、武器を指さす彼に釣られて店を見渡すと、壁から棚から様々な種類の武器が丁寧に保管されていた。東洋風の刀から、その手のオタクが喜ぶだろう銃火器、果ては分厚い本や杖まで。ありとあらゆる武器が陳列している。

 それらを見ながら葉は今ままでの戦いや訓練を思い返していた。

 

「そうですね、今までは魔力を銃とか弓とかに形作って、暴風を飛ばしてました。武器そのものはまだあまり……」

 

「そうかそうか。ならやはり銃がオススメだよ。言い方は少し悪いけれど、力として一番簡単だからね。引き金を引くだけだ」


 それは以前ライアにも言われた言葉だった。銃は剣の持ち方から学ぶよりも簡単で、且つ敵を傷つけた時の感触が直接伝わらない分精神ダメージが少ない。初めて戦いに身を投じる迷イ人にはオススメなのだそうだ。

 事実葉も銃の手軽さと、それゆえの「人を傷つける意味」の薄れを感じたことがあった。しかしそれは、フォリアーテ教会のルインに告解したことで覚悟を決めることが出来ていた。

 

「お気に召したものはあるかな?気になるものがあれば試し打ちもできるから言ってくれ」


 店主に促され、銃火器コーナーへ足を向ける途中。一際厳重に保管されたショーケースに目が止まった。

 それは銃と言うよりも、いくつもの輪が重なってできた地球儀のようななにか。生き物のように絶えず回り、形を変えている。

 摩訶不思議な物体を見た瞬間、何故だか急に妙な懐かしさを覚えた。「()()()()()()()」、と。こんな奇っ怪な物体は初めて見たというのに。

 葉の様子に気づいた店主が嬉しそうに声を上げた。

 

「おお、お嬢さんお目が高いね。それは前オーナーが最後に作った最高傑作で、この店で一番価値が高いんだ。未だ使える者はいないけどね」

 

「使える者がいないって……」


 我が子を慈しむようにショーケースを撫でる店主。「使える者がいないとはどういうことか」と問おうとした時、店のドアが吹き飛ぶように勢いよく開かれた。


「たのもー!一つ目ぇ、武器返却に来たぜ〜」


 犯人は溌剌とした金髪の少女。葉の恩人の一人、ライア=ディアスタシアだ。

 彼女の姿を見た受付の青年は、心底めんどくさそうな顔をした後、渋々と対応に当たる。

 

「相変わらずうるせぇ人だな…………で、どうだった?」

 

「耐久はバッチリ。ただ人によっては持ちにくいかもだ」

 

「だそうです」


 ――と言っても、青年が対応したのはほんの一言。すぐさま店主へ話を投げ渡し、ヘッドホンを深く被った。

 店主はその様子に苦笑いし、「少し待っててね」と言い残し立ち上がる。そしてライアが虚空から取り出した大量の剣や銃など、統一性の無い武器の数々を受け取り、傷があるかどうか確認を始めた。


(前から思ってたけど、あの何でも出てくる謎空間はなんなんだろう……)


 不思議に思うのは葉だけらしく、受付の青年も店主も当たり前のようにその光景に口を出さない。

 ただ、思い返してみればシアンやソラが使うことも多々あった。きっと護リ人特有の魔法なのだろう。

 

「うん、傷はないね。ライアが本気で使えるなら大抵の人が無茶な使い方しても平気だろう。はいお駄賃」

 

「はい、まいど〜。ってあれ、葉姉じゃん。こんなとこでなにしてんの?」


 葉が思考を巡らせているうちに、店主のチェックは住んだようで、ずっしりとした袋をライアに手渡した。その後彼女は葉の姿に気がついた。


「えっと、スザク先生達に自分の武器を選んで来いって言われて……。ライアこそどうしたの?手伝い的な?」

 

「ま、そんなとこ。一つ目……店主達が作った武器の耐久チェックとか使い心地テストしてるんだよ。自慢じゃねーが、私はなんの武器でも人並み以上には扱える自信があるからな!アルバイトってやつ」

 

「ライアには毎回助かっているよ。魔道具から化学兵器から本当、なんでも使えるからね」


 と、感謝を述べた店主。大男が自分と同じくらいの女性に頭を下げている様子は、なかなか物珍しいというか、アンバランスな光景だった。否、感謝を伝えることにバランスも何もないのだが。

 加えて、先日訪れた教会でライア達護リ人三人は700年を生きる不老不死だと告げられた今ならば、店主の彼女を敬う態度は納得がいく。


「そんで葉姉は武器選びだって?お金足りんの?そんなに稼いだ?」


 武器達を抱えた店主が店の奥へと姿を消したのを確認し、ライアが話の軌道を戻した。

 そう疑問に思うのも頷ける。葉がこの世界に来てまだ二ヶ月しか経っていない。実際、迷イ人用の援助があって漸く成り立っている生活だ。

 

「スザク先生とエルム先生から餞別に頂いたのと、迷イ人は三番隊からの援助が少し入るからそれ使えって」

 

「なーるほど。愛されてんね〜。スザクとエルムがそこまでするとは、投資してでも欲しい原石ってことだ。頑張れよ〜?」

 

「うっ、プレッシャーがのしかかる……」


 ライアの言う通りスザクとエルムに関して、彼らが葉の師匠といえど、たかが雑用の葉にここまで手を焼いてくれるとは思わなかった。

 この世界(エインスカイ)の常識から、魔法の使い方、戦い方、果てには文字の読み書きまで。自惚れではなく、妹のように可愛がられている自覚がある。

 本人たち曰く、「弟子は愛でるもの」だそう。そして、「素質があるから育てるのが楽しい」とも言っていた。自分では素質など分からないが、そう言われて嫌な気はしない。

 愛情を受ける責任に、胃を抑える葉。その背をライアがバシバシと叩いた。

 

「あっはは!わりーわりー。でもマジな話、アンタは魔力量と環境への適応能力がずば抜けてる。慣れれば副隊長クラスにはなれるはずだぜ?なー、大地」

 

「なー、と言われてもな……僕はこの人が戦ってるとこ見た事ないからなんとも言えねぇよ」


 急に話に巻き込まれたのは受付の青年。彼は話しかけられたならば仕方がない、とヘッドホンを外し、そう答えた。

 話の流れ的に、大地と呼ばれた彼も軍務の一員なのだろう。どこかで会ったことがある気がしたのは、軍の施設内だったのかもしれない。

 話が一段落つき、再び武器選びを始めようと視線を逸らした瞬間、またも扉が吹き飛んだ。見事なデジャヴ――と言うよりも二番煎じである。

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