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氷炎護リ人  作者: 有麻環
幕間
37/95

幕間1 本日の釣果 前半

 初夏。春の終わり、夏のはじまり。温かい上着は役目を終え、タンスの中に引きこもる時期。急に訪れた夏の兆しに、人々は衣替えを強要されていた。

 しかしその例に当てはまらない人間がいる――シアンだ。

 年がら年中同じように肩のない薄手のシャツを着る彼女にとって、替える衣は存在しない。風が吹こうが雪が降ろうが、常に猛暑を想定したかのような薄着だった。

 そしてもう一人。

 ほぼ一年通して半袖かつビーチサンダルを足にかけた男がいる。


「海斗こんなとこでなにしてんの」

 

「お、シアンか。見ての通り、釣りだ」


 城下町からバルフィレム城へ行くまでの橋に腰掛け、堀に釣竿を垂らす男――速舞(はやま)海斗。彼は葉やスザク達と同様、異世界から来訪した元迷イ人。そして現在はバルフィレム国の軍務、二番(エギルラーク)隊の副隊長を務めている。


「ここ釣り禁止じゃなかったか?」

 

「キャッチアンドリリースだ、心配するな」

 

「それって魚に対する拷問……」


 シアンは橋を渡る前に見た看板を思い出した。確かそこには『釣り禁止。捕獲禁止。落下注意、手すりに座るな』と書かれていたはずだ。

 目の前の男は捕獲こそしていないものの、橋の手すりに乗り、釣竿を振っている。禁止行為にリーチがかかっていた。

 かと言って、それを咎めるシアンではない。海斗もそれをわかって続けているのだろう。再び水面に向き合い、続行の姿勢を見せる。

 

「ま、今のところ蛇しか釣れんが」

 

「蛇多すぎなんだよなぁここの堀。つか何でこんな場所で釣りしてんだよ、海は歩いてすぐだろ」

 

「レア物枠で龍がいるらしいのでな?見てみたくて!」

 

「いやさすがに龍はいねぇだろ、聞いた事ねぇよ」


 プラプラとビーサンを揺らす海斗。つられて堀を見ると、水の上からでも大量の蛇が蠢いているのが見える。集団恐怖症は発狂ものだろう。

 今では城の防衛策の一つであるアレらも一応迷イ人――人ではないので迷イ獣に当たる。人間同様異世界から来た蛇が、何故かこの堀に集まるのだ。妖怪や陰陽術に詳しい連夜曰く、動物と言うよりも式神に近い何かだそうだが実体はある。

 いくら保護すべき迷イ獣といえども、何度住処を移しても気がつくと大量にいるため困り果てていた。そしてそのうち、いっその事罠として住まわせようと進言があったのだ。尚、言葉の主は海斗直属の上司だった。

 その中に龍がいるとは、風の噂でも聞いたことがない。ましてやそれが釣れるなどと……。万が一居たとして、どれだけ知恵があるかは知らないが、龍ともあろうものが釣り針にかかるほど間抜けではないだろう。

 と、シアンは視線を水から空に向けた。今日は天気がとてもいい。

 その時だった。

 

「――――ッ!きたぁ!!」

 

「いるんかい」


 海斗が突然手すりの上に立ち上がり竿を引く。糸がピンと張り、今にも引きちぎれそうだ。

 ずり落ちる海斗を慌てて掴むシアン。彼はビーサンなので石橋の上では踏ん張りが効かないのだ。

 一進一退の攻防を経て、勝利の栄光は海斗に授けられた。

 

 高々とあげられた水しぶき。太陽を背に釣り上げられた何かが宙を舞う。逆光で良く認識できないが、蛇にしては太いように見える。

 勢い余って陸へ飛び出した魚の如くベチリと音を立てて橋に落ちたそれは、水色の鱗に鯉のような髭、体は長く蛇のようだが、頭は鰐のよう。何より目を引くのは豚のような潰れた鼻。目を回しているが、どこから見ても絵本などでよく見る龍だった。

 

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