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氷炎護リ人  作者: 有麻環
三章 フォリアーテ教会編
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3章 2 予言の予感

 マリーシャは何枚かの書類を取り出し、ライア達へと差し出した。


「スザク隊長から話は聞いています。大まかに言うと、今回要請をした時点でフォレイグン辺境伯は人形に入れ替わっていた。本人は謎の大規模魔法陣の中心に置かれていた……」


 ここに来る前、既にリュウガが事の全容をスザクに託したと言っていた。託された彼はしっかり話を通してくれていたようだ。

 しかし……。ライアとシアンは怒りで震えていた。黒幕のフィブルに対してでもなく、スザクが伝えたという内容に不備があった訳でもない。その怒りは「そういえば」と追加の情報をさらっとこぼしたソラに対してだった。


「ソラの話を加えると、敵組織――フィブルの目的は迷イ人だけでは無く、神降ろしだ……ということですね?」

 

「そうなるな」

 

「待って。ちょっと待てぇ!!」


 シアンが椅子を蹴飛ばし、勢いよく立ち上がった。葉が小さく悲鳴を零し、ライアが頭を抱える。当のソラは「なんだいきなり」と半目で眺めた。


「何その情報、初めて聞いたんだけど!もっかい言って、あの魔法陣がなんだって?」

 

「だから、屋敷中に巡らされてたウェヌリス()の魔法陣は人間に神の残滓を降ろすためのものだったんだと」

 

「ソラくんさー、私らそれ聞いてねーんだけど?」

 

「ふざっけんな、そんなヤベェやつだったのかよ早く言え」

 

「……言ってなかったか?」

 

「「言ってねぇ!!」」


 ついに耐えきれずにライアもシアンと共に吠えた。

 ソラが重要な情報を言ったつもりになって忘れているのはよくある事だが、今回のは重要度が普段の倍はある。本人曰く、「リュウガには言ったが、その時には既に神降ろし魔法陣の効果が切れてたらしく、もういいやと忘れてた」らしい。何もよくない。報連相、大切に。


「ごめんマリーシャ、ちょっと待って。私の中でまとめさせて?」

 

「それはいいけど、ライアまで慌てるなんて珍しいのね」

 

「そりゃあお前、神を人に降ろす事のヤバさを知らないから言えるんだ」


 ライアは紙の裏側に要点を書き出した。

 

「一、魔法陣の効果は陣の内側にいる人間に、神の残滓を集めること。即ち、擬似的な神降ろし」

 

「正直これが起動してたら普通にバルフィレムごとぶっ飛んでたぜ」


 ソラが補足を入れた。実際、大昔にも小さな村でそれが行われた。結果、初めからなにも無かったかのように儀式を行った村は辺りを巻き込んで焦土と化したのだ。

 

「二、発動には眷属の力が必要。また、眷属が魔法陣の中心一定範囲内に入ると起動。この場合の狙いは恐らく勇敢(ソーン)の眷属をルーツに持つリュウガだろーな」

 

「あいつが入れ替わりに気づいて、本物クロウドを探す所までセットで計画が練られてたんだろう。実際はその前にシアンが陣を壊した訳だが」

 

「私の神壊(しんかい)術がこんな所で役に立つとはなぁ」

 

「神壊術?」


 知らないワードに葉が首を傾げた。その問いにマリーシャがこっそり答える。


「シアンの異名の一つ、『神殺し』の由来ね。あの人は世界で唯一『神の魔力』、及びそれに類するものと反発する力を使えるの。それも、自力で編み出したそうよ」

 

「やっぱりすごい人なんだ……」

 

「ふふ、あれでもあの三人は世界トップクラスの実力者ですもの」


 上品に笑いながら話すマリーシャ。その話が一段落着いたのを見計らってライアが続ける。


「そんでラスト、人の器が神に耐えられるとは思えねー。そこは魔力を多く貯める性質をもつ花、ウェヌリスで補完した……らしいけど詳しい理屈はわからない、と」


 カンっとペンを置いた。迷イ人、神降ろし、ソラにそっくりの謎の男ガル。ライアの頭の中で情報が散乱していた。点と点が繋がらない。

 

「肝心のフィブルの野郎共が神降ろしをする目的がわかんねーな。ソラ、そこまでは聞いてねーの?」

 

「知らん」

 

「さいですか」


 頼みの綱が無慈悲に切れた。

 机に突っ伏したライア。それを見たマリーシャが「とりあえず」と、声をかけた。


「一連の流れは把握しました。フィブルの動向はバルフィレムにも悪影響を及ぼす可能性が高いでしょう。こちらでも引き続き情報を集めておきますね」

 

「そうしてくれるとマジで助かるぜ」

 

「じゃあ、この話終わり!は〜ずっと座ってるの疲れた〜」


 と、マリーシャが大きく伸びをした。まるで王族とは思えない庶民的感想に葉が目を丸くして「デスクワークのOL」と呟いた。シアンが呆れた顔でそれを眺める。


「疲れたって、そんなに座ってなかったろ……。あ、そういえば葉姉、転送前になんか言った?」

 

「え?…………あ〜、迷い人って三人しかいないんじゃないの?って聞こうとしてた、かも」

 

「あ〜転送陣の出口の話しね」


 ライアが答えた。確かに転送用の魔法陣は出口側に護リ人がいないといけないとは言ったが、以前に護リ人は3人しかいない、とも言った。そこの矛盾が気になったらしい。


「それはほら、この人だよ。マリーシャ」

 

「え?」

 

「うふふ、そうね!言ってなかったものね。あんまり知ってる人も多くないんだけれど、私も護リ人の血筋なのよ」

 

「えっ?!あたしてっきり、護リ人ってもうライアたち3人存在しないのかと思ってた」


 突然のカミングアウトに驚く葉。そう勘違いするのも無理はない。というより、あながち間違ってはいないのだ。


「直系、異世界との門を開けられるのは私達三人だけ……のはず!マリーシャは単にその子孫ってことだから、空間魔法は使えないんだったよな?」

 

「ええ。魔法陣として予め空間術式が組まれていれば承認はできるって程度ね」

 

「はぁ、なるほど……」


 魔法陣のいい所は完璧に使いこなせない者でも、魔力を流せば使えるところだ。プログラムが分からなくてもスイッチひとつで機械が動くのと同じこと。

 空間魔法のような特殊なものは、魔力に混ざる特徴か何かを判断して、使用権限があるかどうかを見定められているらしい。


(この辺りの理論が解明出来れば実用化できるんだけどな〜)


 と、考えるライア。上手く行けば自分の方向音痴もどうにかできると期待したい。直接飛ぶのだから、迷う余地が無くなるはずだ。

 

「ま、とりあえずマリーシャに報告は終わったんだから解散しようぜ。オレは腹が減った」

 

「嘘だろお前、来る直前に食パン一斤食ってたよな」

 

「あれはおやつ」

 

「信じらんねぇ」


 停滞した空気を換気するようにソラが動いた。その動機は耳を疑う内容だったが。

 彼に続くように部屋を去ろうとする三人と、慌ててマリーシャに頭を下げる葉。しかし、マリーシャが「ちょっと待って!」と四人を制した。


「なんだよ、お前暇じゃないんだろ?書類の山が見えてるぜ」

 

「うっ。あれは、まだ、大丈夫なやつです。それより!そんなにセカセカしなくてもいいでしょう。久しぶりに会ったんですから……。マリンが会いたがってたんです。顔だけでも見せてあげて欲しくって」


 シアンの指摘に言葉を詰まらせるマリーシャ。確かに彼女の執務机には今にも雪崩そうな紙の山ができている。以前ライア達が来た時もあったが、その時は「今はやりたくないので暇です」と言い張った。一国の長がそれでいいのかと不安になるが、一応期限までには終わらせているらしいので何とかなっているのだろう。

 

「マリンって?」

 

「マリーシャの娘。正真正銘お姫様だな」


 葉の問いにソラがそう言った直後、ドアをノックする音が聞こえた。マリーシャが「どうぞ」と声をかける。


「失礼します。軍務ベルナイース隊、隊長トラリア=ラルジィです。マリン様をお連れ致しました」

 

「おつれいたされました!」


 入ってきたのは軍隊らしくピッチリと敬礼したトラリア。足元にはその真似をし、謎の言葉を発した子供がいた。


「おっつートラリア、マリン」

 

「おっつ〜」

 

「あぁ!ライアちゃんたちも来てたんだねぇ。葉ちゃんもお久しぶりですよぅ」

 

「お、お久しぶりです。以前は大変お世話になりました」

「いいのいいの〜仕事だし。ほぼカケルくんに任せたちゃったようなものだしね」


 扉を閉めた瞬間、いつもの緩い話し方に戻ったトラリア。彼女は迷イ人の保護とその後しばらくの生活を補助する役割を持つ。葉と会うのは最初の住民登録以来だったらしい。

 そして、ライアの挨拶を真似したのがマリン。今年で4歳になる、子供が最も騒がしい時期に突入した我らが姫君だ。マリンは()()()()と、ソラに近づき腕を伸ばした。彼女は何故かソラに懐いていた。


「お母様ただいまもどりました!マリンです!」

 

「はい、おかえりなさい。ごめんねソラ、いつも肩車してもらって」

 

「いいよ別に。なんでこんなに懐かれてんのかね、オレは」


 マリーシャが「どうして?」と聞くと、今1番目線が高いお姫様はドヤ顔でこう言い放った。


「大きいから」


 つまり高さ。高さこそが全て。高いところは良いところ。そう教わったらしい。


「誰だそんな変な教えをしたの」

 

「ヒビキくん」

 

「あいつか……」


 ヒビキ。本名を(かたり)響。この場にいない彼もまた、迷イ人の一人で、おそらくは日本人。しかし、産まれたばかりの時にエインスカイに来たためほぼ現地人と言っても過言ではない。

 マリンは続いて葉に気づき、「マリン=バルファーニャです。4歳です」と自信満々に指を三本立てていた。

 ライアが笑いながらそれを眺めていると、トラリアに声をかけられた。


「話はざっくりカケルくんから聞いてるよぅ。一応貴女たちが倒したって言うベルク=ジャックと、ロカ=サルベティアの二名は軍務で拘束中。詳しくは彼等に尋問する予定だけど、色々複雑なんだってね」

 

「そうなんだよ……。放置するにはちょっ〜と狙いが物騒すぎるっつーか」

 

「まぁ、神の力の被害が尋常じゃないってのはわたしも身を持って知ってるからねぇ、そこは同意だよぅ」


 粗方の事情はスザクから他隊の隊長にも通っているらしい。奴らフィブルが迷イ人を狙う限り、迷イ人を積極的に保護しているこの国が狙われるのは時間の問題だからだろう。


「それでなんだけど、情報足りないなら教会に言ってみればいいんじゃないかな」


 と、トラリアが言った。


「確かに…………ありだな。あのおチビなら何か言い情報くれそうだ」

 

「でしょ!それにちょうどさっきまでマリン様がリモートで会話してたんだけど、あの子何かライアちゃんたち……と葉ちゃんにもかな。言いたい事があるらしいんだよぅ」

 

「おっとタイムリー。つーかそうか、マリンとチビは同い年か。もうちょっと距離が近ければ実際に遊べてたんだけどな〜」


「情報サンキュー」と告げ、ライアはマリンで遊ぶシアン達に午後の予定を提案した。

 シアンもソラも「その手があったか」と目からウロコの様子。よくわかっていない葉にシアンが説明している。

 とりあえずこれで次の手を打つことが出来る。


 目指すは『フォリアーテ教会』。少し治安の悪い地域を通ることになるがそれはそれ。全て倒せば問題なし。

 ライアは「善は急げ、とりあえず連絡だけ入れておくわ」と、通信デバイスを取り出した。

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