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氷炎護リ人  作者: 有麻環
二章 フォレイグン屋敷編
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2章 11 鏡合わせの痛覚

「……ベルク=ジャック。何故ここにいる」

 

「オレが聞きたい」


 頭をさすりながら起き上がるベルク。ガルと呼ばれたソラそっくりの男が声をかけた。それにしても…………シアンは思わずソラを見る。


「何あいつ。隠し子?」

 

「んな訳なくない?…………ん?」

 

「それどっち?」

 

「ありえない」


 ガルはあまりにソラに似ていた。幼馴染のシアンをもってしても、双子と呼ばれて正直疑わないレベル。しかし、あれが外見通りの年齢ならばソラと兄弟はありえない。


「それはまぁ冗談としても……なんでサラ姉と同じ魔力なんだよ。魔力ってのは千差万別、全く同じは聞いた事ねぇけど」


 ソラはしばらく考え込んだ。その後、真顔で答えた。

 

「知らん」

 

「お前に聞いた私が悪かった」


 分からないことを今考えても仕方がない。シアンとソラは敵に向き合う。敵は二人。こちらも二人。相手がどう出るかは分からないが、こちらにはこちらの考えがあった。


「ソラ、連携は?」

 

「今日は無しだ。相手がよろしくねえ」

 

「へぇ。強いのか」

 

「まあ、な。シアンの方は」

 

「わかんねぇ。初手でこっち来たから」


 自然と口角が上がる。バルフィレム国軍やその他含めても、シアンの知る中でソラより強い人間はいない。その彼が他を気にする余裕が無いほど強いと言った。勿論その外見も原因の一つだろうが。

 これは、油断禁物だ。シアンとソラは互いを見合わせ、同時に飛び出した。


「待たせて悪ぃな不審者ぁ!!」


 振り下ろした剣は、ガルによって防がれた。ベルクを庇うように互いの剣がかち合う。


「立て、ベルク。お前の好きな強者だろう」

 

「あっは!言われなくともぉ〜」

 

「悠長なこと言ってんなよクソ野郎。テメェの相手は私じゃないぜ」

 

「チッ」


 シアンが下がり、舌打ちと共にガルが吹っ飛ぶ。目の前に残ったのはソラの足。蹴り飛ばしたようだ。


「いやぁ、流石護リ人、『凍結の魔人』。噂に違わぬ一直線!パワータイプってのは本当なんだなぁ」

 

「どんな噂されてんのか知らねぇけどよ、お前には聞きたいことが幾つかあるんだ」


 ガルがソラと戦っている今、ベルクを守る者はいない。正真正銘、一騎打ち。

 シアンは再び剣を構える。


「だから……さっさと構えろクソ野郎」

 

「言われなくてもぉ〜」


 ベルクも()()()()()剣を構えた。持っているものこそ異なるものの、その構えはシアンと全く同じもの……否、鏡合わせの構えだ。


「始める前に聞かせてくれよぉ、お前のそれってなんかの流派?」

 

「悪ぃな、我流だ」


 そっかそっかそれは何より、とにこにこ笑うベルク。何が嬉しいのかさっぱり分からない。怪訝そうな顔をするシアン。それを察したかのように語り始めた。


「オレさぁ、人の真似するの好きなんだよねぇ〜。もちろん殺すのも好きだけど!真似出来ない動きがあるとなんでか気になって、とりあえず中見て見たくなるんだ」


 とんでもないことを饒舌に語るベルク。この時点で既にシアンは眉間に皺を寄せ、青筋を浮かべていた。


「そんでよぉ!中を見るには断面を綺麗にしないとよく見えねぇ。だからもっと殺すんだ。たくさん練習しないとな!」


 落ち着け。ここで怒ったとて、あの手の野郎は何も分からないという顔をするだけだ。シアンは必死に怒りを抑える。昔ライアが言っていた。


 『ほらそこで深呼吸〜。そして6秒カウント。はーい6〜5〜4〜3〜2〜1。どうよ』

 

 『その程度でこの怒りが収まる訳ねぇだろ!余計腹立つわ!!』

 

 『シアンには逆効果っと』

 

 俗に言う、アンガーマネジメントとかいうやつだ。――3、2、1。


「テメェクソ野郎!黙って聞いてりゃあふざけた事抜かしやがって!!」


 たかが6秒で怒りが収まる訳もなく。むしろ6秒かけて丁寧に凝縮されただけだった。実際、一説によると6秒待った後に怒りの対象が目の前にいると効果は薄く、むしろ重要なのは距離だとか。いずれにせよシアンにはあまり効果の期待ができないが。


「人を殺すだぁ?それも、恨みつらみも特になく、練習のためとかほざきやがったか…………」


 シアンにとって最も許せないこと。それが殺人だ。彼女が掲げるは『不殺の誓い』。何があっても()()()殺さない。本人曰く「四肢がもげようが、臓腑が潰れようが、心が折れようが、生きているなら問題ねぇ」とのこと。つまりは、生きてさえいるのなら何でもやる、ということでもある。それを聞いたライアは『問題しかね〜』と笑っていた。

 剣を握る手に力が篭もる。

 

「私の前で二度とそれを口にするな、虫酸が走る」


 シアンが土を蹴った。狙うは目。基本的に人は、目に何かが迫ると反射的に目を閉じる。その隙に背後から魔法を畳み掛けよう、と。――が、ベルクは基本にあてはまらない。むしろ目を見開き、嬉々として飛び込んでくる。

 ぐじゃっ……と、嫌な感触が伝わった。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ああぁぁっははははは!!」


 ベルクの左目に剣が刺さる。刺さった本人は悲鳴と笑いの混ざった叫びを上げた。

 剣を引き抜くシアン。顔が引き攣るのが自分でもわかる。


「うわっ、おま、お前さぁ!避けるだろ普通。うえぇ、変な感触……」

 

「あっは!痛ってぇぇぇぇ……あはは!」

 

「やばコイツ。ライアより頭イカれてる」


 痛い痛い、と左目を押えながらも笑い続けるベルク。それはピタッと動きを止め、潰れていないもう片方でシアンを見た。


「言ったよなぁ〜。オレは誰かの真似が好きなんだ。そして、誰かに真似をされるのも好き!!

 

 だからぁ――『お前もオレの真似をして!』」


 何かが破裂する音が聞こえた。右側が暗くて、熱い。シアンの()()が弾けた。


「ッ――――――――!!」


 突然の痛みに声を食いしばる。右の眼孔からダラダラと血が流れるのが分かる。やられた。シアンは吹き出る汗を落ち着かせるように深呼吸と舌打ちをする。


「これは……アレか。同じ怪我を人に押し付ける的なやつか」

 

「まぁ!だいたいそんなとこ。痛いだろぉ〜?オレも痛い!」

 

「その痛みがわかってどうして殺人鬼なんぞに成り下がるのか……わっかんねぇな!!」


 相手に怪我を負わせれば、自身にもそれが反映される。――だからどうした。シアンにとってそんなことは些事だった。そんなことより目の前の男に腹が立つ。己の信念と相反する嗜好。ここで殴らねば必ず後悔すると確信があった。


「悪ぃなクソ野郎。こちとら体力には自信があるんだ。お前が先にぶっ倒れるか、私が耐えられなくなるか。勝負といこうぜ。――大丈夫!剣に誓って、絶対()()()しないから」

 

☆。.:*

 

 ――バルフィレム国軍四番(カノ)隊作戦室。

 

「スザク隊長、何故あの三人に流したのです?元は我等カノ隊に来たものでしょう」


 朱毛の真面目そうな女が声を出した。彼女の名はエルム=ラルージュ。現在進行形で山のように積まれた書類の束を片付けているカノ隊副隊長であり、軍務きっての苦労人。スザクと共に葉に戦いを教える師でもある。紙の山の向こうには彼女の朱よりも暗い真紅色の髪を持つ男。元迷イ人、現四番(カノ)隊隊長のカケル・スザク。

 スザクは紙を明かりに透かすように眺め、こう答えた。

 

「リュウガから連絡があった。フォレイグン辺境伯の様子がおかしい、と言うか多分何かとすり変わっている。俺を呼んだのは、恐らく二番の海斗が不在だからだとな」

 

「通常防衛戦、迷イ人――伊猟蓮夜を守る為に戦力が必要ならば、防衛特化の二番(エギルラーク)隊に申請を通すはず。わざわざスザク隊長を名指ししたのは不自然だ、と?」


 作業の手を止めてスザクを見つめるエルム。当の本人は資料が足りない、と山を崩そうとしている。

 

「その通り。いくら副隊長、海斗が不在とはいえ要のヴォダさんはいるのに、だ」


「目的は俺、つまり迷イ人だったんだろうとな」とボヤくスザク。せっかく日付順にした資料を全てひっくり返した。誰が直すと思っているのだろう。

 

「あ、あった…………だからあの三人にも話を通しておけと頼まれたんだ」


 目的の紙を見つけたらしいスザク。つまり、今回の緊急要請を護リ人達に流したのは、リュウガの指示だった。と、彼は言いたいわけだ。

 しかし、それはそれとしてもなにか納得がいかない。紙束をひっくり返された恨みも込めて、少し語気が荒くなる。

 

「それはわかるのですが、何故丸投げしたんですか、と聞いているんです」

 

「……………………つい」

 

「………………」


 溜息をつきたくなるが、必死にこらえる。スザクは普段表情が豊かとは言えないのもあり、一見すると物凄く厳格な、軍人の鏡のようにも見える。しかしその実、これである。案外何も考えていないことが常だった。

 

「百歩譲って受け入れたとして、そこに迷イ人の風希葉を連れていったら本末転倒でしょう」


 敵――すり替わったクロウド=フォレイグンが迷イ人を狙っているのなら、そこに戦えもしない葉を連れていくのはあまりに悪手。エルムはスザクの真意を確かめようと、わざと責めるように問いかけた。

 

「あの三人が揃っていくんだ、それは問題ない。それに、オレとしてもそろそろ葉に魔法の危険な部分を、迷イ人がどれだけ狙われるかを見せるべきだと思ったからな」

 

「それは…………確かにそうですけれど」

 

「お前は案外過保護だな」


「迷イ人を護る」のは護リ人のプライドでもあると豪語する、例の三人。彼女らが自分達よりもはるかに強いことはエルムもよく知っている。しかし、妙に落ち着かない。それは、葉がエルムにとっての初めての弟子でもあり、一ヶ月と短い期間ではあるが妹分のように可愛がっているからか。それとは全く違うなにかか。何も出来ない自分に歯痒さを抱いた。

 

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