地味すぎる聖魔力持ち
「よし、なんか面白い話をしろ」
「無茶ぶりが過ぎませんか? この暴君め……」
脈略が無さすぎるわ。
唐突に雑な振りをされたカリーナは心底嫌そうに呟いた。この皇帝様、どうやら平和な道行きに早くも飽きてきたらしい。平穏なことに越したことはないはずなのに、何を刺激を求めているのか。
宝石店に行くだのなんだのと話をした、その直後に腹が減ったからとパン屋に寄ってしまうような人物なので、今更そんなに驚きも何もしないが。
(面白い話、ねぇ……?)
本当に無茶ぶりだ。何を期待しているのか知らないが、こちとら平々凡々な生活しか送ってこなかったただの村人である。そんな際立って面白い話が出てくると思わないで欲しいものだ。
カリーナはううん、と唸り、記憶の中で目立つものがないかを探る。結論から言ってしまえば、無い。
無いが、やんごとなき皇帝様がご所望なので捻り出すしかない。
どうにかこうにか絞り出したそれらは、到底、魔力外向者には負けてしまうだろうエピソードでしかなかった。
しかし、他に思いつくネタがないので、諦めることにした。
「面白くなくても文句言わないでくださいよ」
そう前置きをして、カリーナはしぶしぶ口を開いた。
「ええと、崖からうっかり落ちたけど、身体強化のおかげで無傷だったり、魔物に襲われたけど、自己治癒性が強くて傷が残らなかったり、丹精込めて育てた植物が聖魔力の影響で稀に見る高品質になったりとか……」
「は?」
「うん、それくらいです」
信じられないとでも言うような目を向けられたカリーナは、やはりインパクトの足りない話だったか、と肩を竦めた。
(そりゃ、外向者がやるような派手さはないに決まってるって)
この世界では、人々は多少なりとも魔力を持っている。時折魔力のない者も産まれるが、それは一旦置いておこう。量が多い少ないに関わらず、魔力持ちは2パターンに分けられる。
「外向者」と「内向者」だ。
外に放出する形で魔力行使を行うのが、外向者。
自身の体に巡らせる形で魔力行使をするのが、内向者。
どちらかと言えば、内向者よりも外向者の方が世の中では活躍が多い。分かりやすいので、注目が集まりやすいのだ。このことから、両者のバランスは推して知るべし、と言ったところである。
そう。己が持つ魔力を外に向けて行使できる外向者と、内側に向けてしか使えない内向者では色々と訳が違ってくる。
魔法行使時の派手さは断然外向者の方が上であり、内向者はどれだけ魔力があれども体内に巡らせるだけしかできない──つまり自分の体にしか使えないので、圧倒的にエピソード性には欠ける。
そして、カリーナは残念なことに、魔力内向者だった。
「私、聖魔力持ちで、多分それなりに魔力量も多い方なんですけど、内向者なので地味なんですよね」
アストラの反応を、やっぱりつまらなかったらしいと解釈したカリーナ。一方、アストラの内心は全く違っていた。
真逆である。
つまらないだとか、スケールが小さいとは微塵も思っておらず、逆に異様すぎて信じられなかったのだ。
なにせ、一般人とは到底思えない話が飛び出てきたので。
今の話といい、聖木を強化した行為といい、どの辺が地味なんだ? とアストラは思ったが、話を遮るのはひとまず見送った。
実はアストラは、カリーナがラツェド帝国に入る前に聖木を強化していたことを知っていた。
妙な魔力流動を感じたので、いつもの如く一人で見に行っていたのである。その時目にしたのが、絶体絶命の平民らしき人間が聖木を強化している図である。
彼女の状況的に不可抗力とも言えなくないが、そんなことをする人間はまずいないし、なんなら強化出来る人間がいるのも初めて知った。
思わず助けに入るのをすんでのところでやめたほどである。
そして、しれっとした顔で(若干青ざめているようだったが)その場を去る姿に興味をそそられた。
不思議な面白い人間がいると、カリーナはもう既にアストラに認知されていたのである。アストラは気配を消して忍んでいたので、本人は知らないが。
が、まさかここまで訳の分からない話がくるとは。内容が想像していたよりも遥かにぶっ飛んでいる。
どこに突っ込んだらいいのか分からないのもそうだが、何より、このトンチキな話がまだ続くようだったので、全て聞き終わってから精査しようと考えた。
精査できる気は微塵もしなかったが。
「まぁ、そんな感じで至って普通に過ごしてましたよ。平凡な村人なんてこんなものです」
「お前の普通はどうなっている」
「今話したのは特筆できるようなものを引っ張り出してきただけで、他はもう本当に普通すぎて話せることないんで」
今の話だけでもう既に十分おかしいが? とアストラは心の中で突っ込んだ。
「あっ、ちなみに成長した今はもっとレベルの高い身体強化ができるので、馬車に轢かれても無傷でいけます。大丈夫です」
どう考えても普通ではない。
どの辺が地味で平凡なんだ? と、アストラは再び問いたい気持ちに駆られたが、恐らく何も分かっていない反応を返されるのが目に見えていたので、疑問は飲み込んだ。
「安心してくださいね、ちゃんと実証済みなので!」
「は??」
アストラは自分の耳を疑った。このペッカペカの笑顔を浮かべる人物から今恐ろしい言葉が聞こえなかったか。
いよいよもっておかしい。
アストラはなんでもいいから面白い話をしろと振った数刻前の己を張り倒したい気持ちになっていた。こんな訳の分からないことになると分かっていたら、最初から話など振らなかったものを。
傍若無人と称されることも少なくないアストラだが、今この時になって初めて、人に無茶振りをしたことを後悔していた。
アストラは一応、無茶振りである自覚くらいはしていた。それを分かっている上で無茶振りするのを止めない辺りが、傍若無人と称される由縁でもある。
が、この時ばかりはその自分の悪癖を後悔した。
ある意味快挙であったが、両者の間にある温度差に気が付いていないカリーナがそれを知る由もない。
「内向者って、本当に地味になりがちなんですよ。活躍してる方もいますけど、私に至っては何の役にも立たないというか」
「どこを取ってその発言をしている???」
アストラはついに突っ込んでしまった。気がついたら口から飛び出ていたのだ。残念ながら飲み込めなかった。
ここまでの流れからして突っ込むだけ無駄なのは予想できる。が、カリーナの発言があんまりにもだったので我慢出来なかった。
ここまでの短時間で異様な経歴を話しておいて、役に立たないとはこれ如何に?
自己肯定感の低さも垣間見えるが、一番の問題は自分の能力の異常さを微塵も自覚していないところである。
一種の爆弾を目の前に置かれたような心地だ。アストラは即座に匙を投げることにした。もうどうにもならない、というか、なんか色々と面倒くさくなったので。
いつか誰かが彼女の認識を正せるだろう。....多分。
アストラはそう結論付け、この議題について考えるのをやめた。
未来の誰かに丸投げ。顔も知らぬ、現れるかすら怪しい認識を正せる人物に、無責任にエールを送り付け、アストラは取り敢えず目的地へと足を向けた。




