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ストーカーに襲われる


「あなたの恋人は他の病院に通院してますか? 医師には守秘義務がありますから、恋人と言えども本人の許可なしには、お話することが出来ません。彼女から何か聞かされてませんか?」


 鋭い眼光に圧倒されてしまう。


「はい? 先生どういうことです?」


「本当に恋人です? 取り会えず点滴しましたので、明日には少し安定するはずです。では、私は……」


 ぼんやりとした頭に、アキと医者の声が聞こえる。ここは病室で、ベッドに寝かされている。そうだった。救急車で運ばれたんだ。ガチャと音がして、医者は部屋から出ていき。そして足音が近づいてくる。手がそっと握られた。


「起きてるんでしょ?」


 唐突に彼が声を発した。なんでわかった? こんな状況で照れくさくて目を開けられない。ゆっくりと瞼を開けるとそこには青白い顔をして心配そうに見つめるアキが椅子に座っていた。


「体調はどう?」


 バレたんだ。まあ、関係ない。私たちは恋人でもないのだから。


「明日には退院できそうね。先生の話聞こえてた。今日はデートなのに迷惑かけちゃったね」


「ううん。大丈夫」


「それと、彼女には早めに連絡しなよ。きっと上手くいくからさあ」


 そうあの女は先生というフレーズに目を輝かせていた。でもさ、そこから始まる恋もいいじゃないの。色んな恋の形があってもいいと思うし。


「そうだね。それより君は……いやなんでもない。何か僕にできることある?」


「なんも無いかな」


 彼はコンクリートの床に視線を落とし寂しそうな顔をしてくる。なんなの。


「それじゃあ、カバンからメモ帳とボールペンとって、少しアドバイス書いとく」


 彼がベッドの横の棚からカバンを取り出そうとすると、ボタンが空いていて、ひっくり返してしまった。そして私のアパートの鍵が床にコロりと落ちた。


 すぐに、彼は拾ってくれて、ハッとして私の顔を見る彼。鍵に付いたカエルのキーホルダーをつまみ何やら考え事をしている。やばい……。しばし沈黙の中、彼が口を開いた。


「これ、どこで?」


「私のアパートの鍵だけど、それより、何か自販機で飲み物買ってきて」


「ああ、うん」


 彼は何も言わずに部屋から出ていった。





アキ視点


 えっ! 嘘だろ。びっくりした。まさかこんなとこで初恋の相手に遭遇するなんて。子供の時からどれほどこの時を待ち望んでいたのか。


 あのキーホルダーのカエルの足裏にAと掘られていた。昔、カッターで削ったあとが確かにあった。ちなみに僕のカエルがki。二つ合わせると僕の名前アキになる。間違いようがない。


――あの少女は琴音だった……。


 手がかりひとつないこの世界で諦めるしかなかったのに、まさかこんなに離れた愛知県にいたなんて。


 見つけたのに、あの医者の物言いからすると琴音は難しい病気にかかっているのかもしれない。ひょっとしたら、いや待てそんなことあるはずないだろ。


 自販機の前で項垂れる。どんな顔して接したらいいんだよ。


 くだらない。僕の学校の出来事が、たわいのない事のように思われる。俺が責任もって助けないと……。


 琴音は時間が無いと言ってた。少女の琴音と、今の琴音で何も変わっちゃいない。二人が重なり合う。優香さんの顔が浮かぶ。心が揺れてくる。


 限りある命で、僕のことを助けてくれてたのか? デートの練習をしたり。まてまて、その前。大人になった琴音と初めてあった公園。あの時落ち込んでた彼女。今までの全ての出来事が流れ駆け巡る。



 それから数日後


 それから体調が戻らず、家に帰れたのは入院から数日後となってしまった。アキはあの子とうまくいっていると、昨日お見舞いに来た時に教えてくれた。


 ピンポーン。


 アパートのチャイムが鳴った。誰? アキにはもう来ちゃダメだからと念をおしておいたのに。


 扉を開けると、隙間から手が伸びてきて強引に扉が強い力で引かれ、


「やっぱり俺、お前じゃないとダメなんだ」


 翔が懲りずにまた来てしまった。


「なんであなたがいるのよ。出てって。」


「やり直さないか」


「私はあなたのこと嫌いなの」


「どうされました」


 たまたま隣の住人が袋を持ってゴミ出しに行こうとしてるところで声をかけてくれた。


「いえ彼女が騒いでしまって」


「違うんです。ストーカーです」


「何言ってるんだよ!」


「あの、警察呼んだ方がいいです? 僕がかけましょうか?」


「テメー何してんだよ」


 翔はそう言うと、隣人のスマホを取り上げようと扉から手を離した。その隙にドアをしめて、スマホを開ける。


 え! なんでアキの番号があるの? 


 私は気づけばアキに電話してた。


「助けて」

「どこ?」

「アパート、あいつが来てるの」

「すぐ行く」


「おーい、早く開けろおおおおー!」


 外が騒がしい。隣人はこのキチガイから逃げてしまった。


 恐怖でガタガタ震えてくる。私はダメだ。彼女がいるのになんで呼んだの。


 アキは学校で仕事してたのに、十五分後には来てくれた。その間。翔は私のアパートのドアをガンガン蹴飛ばし殴って騒いでいた。 


「そこで何をしてるんです?」


 外からアキの声がした。


「テメー、あの時の、俺と琴音の間にあれほど入るなって言ってただろ! テメー付き合ってんのかよ」


「……」


 言えるわけない。他に女がいるのに。呼んだ私も馬鹿だけどさ。人を利用して本当に、最低だ。


「僕はっ、恋人ですよ。もうすぐ結婚するんです。琴音さんと」



 嘘ついてる。


「ふざけるな」


 玄関先でフェンスに身体を打ち付ける誰かの音がする。殴り合う音が聞こえてくる。


 扉を開けると、ボコボコにされて地面にはいつくばるアキの姿があった。


 サイレンが近ずいてくる。隣人が呼んでくれた。


「二度と来ないでください。彼女は助からない病気なんです。お願いですから、そっとしといてもらえませんか」


「やめてよ! お願いだから、やめてっ」


 殴られるアキと翔の間に入るが、翔はそんな私を蹴飛ばそうと脚を空に浮かせた。そして、アキは私を庇おうと前に出る。


「は? もういいわ。お前ら馬鹿すぎるわ」



 唾をアキに吐きつけて、帰ろうとする。アキは向かっていき、翔の肩を掴み、右ストレートを打った。


 避けられるような弱いパンチなのに顔に受けた翔。振り返るとその目からは涙が流れていた。


「もう、俺やめとくわ。お幸せに」


 警察がバタバタとこちらに向かってくる。翔はフェンスから下の階にジャンプするとそのまま走り去っていった。

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