三十四話 向き合う決意
あの一件から数日がたったある日、ココレットの庭はまたにぎわいを見せていた。
魔法使い達は集まり、植物の採集に夢中になっている。
そんな様子をココレットは見つめながら小さくため息をついた。
ドラゴニアとの一件がどうなったのかを教えてもらえず、決着がつくまでは屋敷で大人しくしていてほしいとローワンに釘を刺されてしまった。
ココレットはあの一件以来、ヴィシアンドルの事が気になっていた。
自分は聖女様として死に、新しく生を受けた事で前世の事柄は終わったものと考えていた。けれどヴィシアンドルの中では終わってなどいなかった。
今でも、聖女様を守れなかったことに彼は苦しみ、そしてドラゴニアに対して良い感情を抱いていなかった。
それもそうだろう。
ヴィシアンドルにとっては身近にいた人が毒で死んだのだ。
幼かった頃のヴィシアンドルにとっては相当な衝撃だっただろう。
ココレットは自分の周りにいた人達の事など、自分が全く考えていなかったのだという事に気付き、自己嫌悪に陥っていた。
「私も・・・そのままにせずに、向き合うべきなのかもしれない・・・」
ずっと、見ないふりをしていた。
どうせ前世の事だと、終わった事だと、そう思っていた。
けれど、それではいけなかったのだ。
ココレットは大きくため息をつくと、庭のさらに奥、屋敷の裏手へと回った。そこには野草は生えておらず、一本の若木が生えている。
若木にだけ、多様の光がきらきらと降り注いでいる。
ココレットは小さく息を吐くと、その若木にそっと触れた。
「・・・いるんでしょう?出てきて。」
すると、若木が小さく揺れ、その場にシシリーが現れた。
シシリーの姿にココレットは大きくため息をつくと、苦笑を浮かべた。
「なんだ・・ずっと・・一緒にいたのね。シシリー。いえ、精霊システィリーネ。そうなんでしょう?」
その言葉に、シシリーは微笑むと光を纏い、その姿を老婆の精霊姿から輝かしい光を纏った美しい姿へと変化させる。
ココレットは聖女様として暮らしていた時、仲の良かったその精霊に笑みを向けた。
「その姿では、久しぶりね。」
「えぇ。お嬢様。・・・でも・・どうして今更呼んだのです?私はシシリーとして傍に居られればそれで良かったのに。」
ココレットはその言葉に悲しそうに目を伏せると言った。
「結局・・私は守られていたのね・・シシリーにも、ヴィアンにも。」
その言葉にシシリーは首を横に振った。
「私達が勝手にした事よ。他の精霊達も貴方の傍にいたがったけれど、人型に慣れるのが私だけだったから、私が貴方の一番の傍にいた。まぁ、庭にも屋敷にも貴方には見つからないようにかなりの数の精霊が住みついているけれど。」
ココレットはその言葉に大きくため息をつくと、皆に聞こえるように声を上げた。
「もう、隠れていなくていいわ。姿を見せて頂戴。みんな・・・ごめんね。」
そう言った瞬間、ココレットの周りに光が集まり始め、精霊達が次々に姿を現し始める。
精霊達はココレットにすり寄り、嬉しそうに歌を歌っている者もいる。
「皆、久しぶり。ごめんね・・私・・貴方達に遠慮させていたのね?・・私は以前のように見えなくなったのだと思っていたけれど・・違ったのね?私の事を想って・・距離を置いてくれていたのね。」
その言葉に精霊達は何とも言えない表情を浮かべている。
ココレットは小さく息をつくと言った。
「ありがとう。でも、私・・覚悟を決めたわ。このままじゃあいつまでたっても、ヴィアンも私も結局前に進めていない。だから、ちゃんと前世と向き合うわ。皆も、協力してくれる?
その言葉に精霊達は嬉しそうに体を輝かせた。
ココレットは微笑、そしてふと気になっていたことをシシリーに尋ねた。
「ねぇシシリー。あなた、腰が痛いとか体調が悪いとかいつも言って居たけれど、あれってさぼりたかっただけでしょう?」
シシリーはそっと目を反らした。
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