明日へ
まるで西部開拓時代のような幌馬車に次々に荷物を積み込んでいく
寝る時に利用する為の寝具、途中で水が確保出来なくても良いように、余っても売る事が出来るとワインを一樽、食料には黒パンとも呼ばれるライ麦パンに干し肉、これまた干した野菜や果物を一週間分は載せた
「カナ、そっちは大丈夫?」
「ああ、問題ない。余裕を持って載せたから、不測の事態が起きてもある程度は大丈夫な筈だ」
そうして荷物を並べ終えた辺りで瑠璃から声を掛けられる、そう、この馬車は俺達が借りたものなのだ
「私は元からポーチに色々入れてたから大丈夫だけど、改めて見てみると大変よね」
「それもこれも、ろくに説明して来ない女神のせいだけどな」
では何故このような準備をしているのか、それは三日前に起きた《魔の行軍》を防いだ後、自分達のステータスを確認していた時の事だ
事後処理、そして生き残った探索者達と共に生還を祝して宴が行われた後、部屋に戻って何気なくステータスを確認したところ、俺のステータスだけ一部変化していた
◆
名前:ネメシス
職業:聖騎士王
◆
一部、名前と職業という本当に一部だけでありながら、その影響は大きかった
名前はまだしも、職業が変化した事によりそれまでの職業で使えていた傭兵操者でのスキル、その全てが使用不可能となったのだ
辛うじて使えたのは《アイテムインベントリ》くらいであり、そこに収められていた武器弾薬などは使う事が出来ると分かった
しかしAFやそのハンガーを兼ねたトレーラー、各種武器弾薬を手に入れる為のショップ機能など、その辺りが使えなくなっていたのだ
聖騎士王としての能力があるからある程度の戦闘は出来る、だが今後どのような敵が立ちはだかるか分からない中で、能力が使えないままというのは不安になる
そして調べた限りではこのようなイレギュラーとも言える事態は他にも例が無かった為に、ならばシステムに詳しい者に、女神に直接確かめるという結論に至ったのだ
あの日、聖騎士王となる直前に言葉を交わした女神マルヴィナもこの国の首都たる皇都エクレニウスの神殿に来れば色々と話してやると言っていたのもあり、俺と瑠璃が皇都まで向かう事を決めるのに時間は掛からなかった
そんな訳でこれまでの旅であればトレーラーで移動していた為に利用した事もない幌馬車を用意して旅の支度をしていたという訳である
当然、俺達だけで不慣れな旅をする訳でもなく、この借り物の馬車も操作は別で御者がやる事になっている
そしてその御者の雇い主も、実は俺達ではない
「騎士様、そろそろお時間ですがよろしいでしょうか?」
「此方は問題ありません。それに雇い主は貴方なのですから、此方に配慮せずとも結構ですよ、メーテルリンク商会長」
旅をするにしても野営の仕方から皇都までの道のり等、俺達は知らない事が多すぎる
その為、探索者として護衛の依頼を請けてこうして皇都まで向かう商人に、隊商と呼ばれる商人達の集まりに同行して旅をするのだ
今俺に話し掛けて来たのも隊商の中でもそれなりの規模を持つメーテルリンク商会という商店のトップであるルカ・メーテルリンクという男性だ
探索者組合で皇都行きの隊商の護衛依頼を探していた時に組合の方から信頼出来る商店だと聞き、それを信じて話しを聞きに行ったのだが、どうやら俺達が、というより俺が聖騎士王という事を把握していたらしく、その時から騎士様と呼ばれ、丁寧に応対されている
護衛依頼に関しては喜ばれるどころか乗客として扱われそうになったり、その他色々と便宜を図って来ようとしたので全てお断りしておいた、あくまで一組の探索者として扱うよう伝えたら、何故か謙虚だのなんだのと余計に尊敬されてしまったが
「流石に騎士様にそのような真似は……いえ、そういう契約内容でしたね。はい、はい、契約である以上は商人として全力を尽くしますとも。では、これより出発となります。まず南進して四日後にドルトフォーヘンという街に着く予定です。そこから一日休憩となり、再び南進、そして西進して少し南進、全部で五つ程の街を通って皇都になります。よろしいですね?」
「進路に関しては多くの隊商が通る道だと聞いてますから、問題ありません。道中の魔物、野盗の相手はお任せ下さい」
「はい、よろしくお願い致します」
そんな雇い主なのだが、仕方がないので護衛依頼の契約時に必要以上に畏まる必要はないと記載する必要があった、雇い主の方が上なのに何故一番良い馬車の席を譲ろうとするのか、最優先の護衛対象だからその馬車を確認の為に一度見に行ったが、聖杯騎士団の絵本が幾つも置かれていたのは見なかった事にしておいた
「期待されるのも大変ね、騎士様」
「勘弁してくれ……」
「ふふ、良いじゃない。カナが私の騎士である事に変わりはないもの」
そうして幾つか確認を終えた後、順次隊商の荷馬車達が移動を始めた
朝の早い時間、都市を護る防壁、その巨大な門の内側にある広場に集まった何両もの馬車達、それが列を為してゆっくりと歩みを進めていく
隊商に付いて行くのは何も商人だけではない、一般人が街から街へ移動するのにも隊商は利用される
そんな中、街の通りに探索者達の一団が見えた、これからダンジョンにでも向かうのかと思ったが、見覚えのある面々が此方に、というか俺達に向けて手を振っている
「《四つ葉》に、フェデリコに、あの日一緒にダンジョンで戦った奴等か」
「見送りって事みたいね」
この街で出会った探索者達、それが集まって此方に手を振っていたので俺もそれを返す
やがてそれも門を潜る頃には見えなくなる、南門から出た隊商は綺麗に並んでいて上から見れば一つの生き物のように見えるだろう
それを東側から昇ったばかりの太陽が明るく照らしている
「綺麗な朝焼けね」
「その言葉を言うのが吸血鬼っていうのが違和感あるけどな」
「もう」
その景色は確かに美しいと感じるが、それを本来なら日光を弱点とする筈の吸血鬼である瑠璃が言うのがおかしかった
瑠璃も同じ様に思ったのか、文句を漏らすも声が笑っている
「けど、この世界に来なかったらこの景色も見れなかったのよね」
「そうだな。けど、朝日はまた明日も昇るんだ。元の世界でも、同じ様に見ようと思えば見られるからな」
そう、太陽はいつも昇るのだ、例え暗闇に呑まれたとしても必ず朝がやってくる
だからこの世界で俺達は生きて行く、帰る為の方法を探しながら、今より良い未来を掴む為に
そう思っていると、何やら隊商の先頭の方が騒がしくなってきた
それと、頭上に明らかに鳥よりも巨大な存在が飛んでいるのが見える
「ワ、ワイバーンだあっ!?」
「都市の近くにってのは珍しいな。何か理由があるのか?」
腕の代わりに翼が大きく発達し飛ぶ事に特化したドラゴンの一種、ワイバーン
普段は岩山に棲息しており滅多に人里を狙う事はない、人が卵から孵化させて手懐けた個体も居るが、鞍が着けられたりしている様子もない事から野生のワイバーンだと分かる
「取り敢えず迎撃しないといけないわね。どうするの?」
「まずは一撃、槍をお見舞いしてみるさ」
御者や周囲の人々が騒ぐが、まだ距離がある為に俺は聖槍を手に取り馬車から降りる
それから投擲の体勢を取り、詠唱を開始する
「――――――《貫き破れ我が魔槍》」
投じた槍は違わずワイバーンの頭蓋を貫き、力を失ったその体が隊商の通る街道から少し離れた位置に墜落していく
一撃で仕留める事が出来たからか、周囲からは歓声が湧き起こるが、これをどうするかが問題だな
解体するにしても大きいし、瑠璃なら一瞬だが目立つし、そもそも護衛中に倒した魔物の扱いは時と場合によってまちまちだ
「取り敢えず雇い主殿にどう扱うか、聞いてくるか」
「出発早々トラブル発生ね」
「仕方ないだろう、運が悪かったと諦めるしかない」
いきなり問題が起きた、とはいえ大事ない、怪我人が出たとかの取り返しのつかない話ではないのだから早々に解決出来るだろう
そうやって何かあれば対処していくしかないのだ、それが生きるという事なのだから
そうやって俺達は生きていくと決めたのだから
あとがき
此処まで異世界召喚の傭兵操者をご覧いただき、ありがとうございました。
唐突で申し訳ございませんが、一先ずはこれにて本作は完結とさせて頂きます。
応援して頂いた皆様には誠に感謝しております。
では何故完結にしたのかというと、正直に言いましてロボット物として書いていた筈なのに騎士物になったりと、作品のコンセプトがブレブレになってしまったからです。
今回の反省を活かしまして、別の作品を書く際はしっかりとコンセプトを定め、行きあたりばったりではなくプロットを少しは練るなど、しっかりとした創作活動を行いたいと思います。
とはいえ現状、書こうと思っている物が色々ありまして、どれもこれもと迷っている状態です。
次に書き始めるのがいつかは分かりませんが、また新たに書く事だけはお約束致します。
その際はまた拙い文章ながらも、よろしくお願い致します。
では、またどこかでお会い出来る日を楽しみに待っております。
RABE




