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夜光伝記  作者: 古河新後
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記第三十七説 殺人

 もし自分が他人より優れていたらどうだろう?

 

 一を聞いて百を知る思考。

 

 どんなスポーツでも主役となってしまう身体。

 

 他の者にはない特別な力。

 

 この中でどれか一つを自分が持っていたら人生に、さほど苦労はしないだろう。

 

 だが、一つだけ人には慣れなければ克服できない事がある。

 

 人の死だ。


 目の前で人が死ぬ。葬儀で身内が死ぬ。生き物が死ぬ。


 どの場面に対面しても、最初から平常心では居られないだろう。


 しかし、生きている者で唯一、『死』と言う存在を最初から受け入れられる者達がいる。


 その人種に『死人』『人外』の二つの種が恐れ、共闘し排除した存在。


 それが、処刑人と呼ばれる夜を支配していた存在だった。





 長槍が唸る。


 一度、突き出したかと思えば既に後ろに引かれていた。そして凄まじい速度で再び、突き出されてくる。


 「―――ハッ」


 天啓はそれを避けると、ランスロットに突進する。槍の弱点は懐に入られると何も対処が出来ないと言うところだ。


 向かって来る天啓に対し、一瞬でやりを引くと、無数の突きを繰り出す。


 しかし、まるでどこに来るか分かっているかのように全て回避すると、天啓はランスロットにナイフを突き立てた。


 ランスロットは槍から手を離すと、腰の何もない部分から引き抜くように剣を取り出し、ナイフを受ける。


 ナイフの切っ先が剣の刃と、数ミリもずれずに力のバランスを保つ。


 その時、ランスロットは天啓を蹴とばした。咄嗟の攻撃に片腕を曲げ直撃を防ぐと、後ろに下がった。


 「―――やるねぇ〜」


 ゆっくりと曲げた腕を戻しながらランスロットを見る。


 「・・・・・・・」


 ランスロットは言葉を発しなかった。会話は無意味だ。戦いはただ相手を倒す事に集中する。――――その時、ある気配に気が付いた。


 転がっている槍を足で器用に上げると掴み、天啓に勢いよく投擲する。


 「そんなもん無意味だ!」


 体を逸らし避けた次の瞬間、気配を感じ横を見ると牙を開いた狼が眼前に迫っていた。


 「うおっ!」


 下に屈み、食らいつく牙を回避する。狼は滑りながら着地すると、再び襲いかかって来た。


 「ちぃ!」


 ナイフを振る。しかし、人とは違い体制が低いため、中々攻撃を当てる事が出来ない。


 そこにランスロットも加わり、攻撃は激しくなる。


 このままでは殺られるな・・・・・・


 そう判断し、一瞬の隙を突くと、瓦礫の山に退避した。


 「運が良かったな! また相手してやるぜ!」


 そう言うと反対側に姿を消す。狼は追いかけようと走りだす。


 「待て、パーシバル」


 「―――――・・・・・」


 パーシバルは爪を立てて止まると、人に変身する。


 「―――――今は白士達を捜すことが優先だ」


 「・・・・・・分かりました」


 ランスロットは槍を回収すると、闇の中に入れた。





 船は青ヶ島――南海岸の浜辺に速度を落とさずに突っ込んだ。大きく揺れる。


 「全員! 機材を設置し、『守護結界陣』を展開!」


 数秒の揺れが収まると、船長は乗組員に指示を出した。船の前方が開き、観測用ジープや、機材を積んだトラックが慌ただしく浜辺にタイヤ痕を付ける。


 「船長」


 灰原が後ろから声をかけた。


 「海岸側に陣は張った方が良い。後、森にはまだ入るなと指示を――――――」


 その時、ダダダダダ! と何かが走って来て船長の胸座を掴んだ。


 「テメぇか!? 船を急停止させやがった野郎は!?」


 浅倉である。頭にはワカメやかまぼこ等がついており、何故か濡れていた。


 「た、ただ海岸に乗り上げただけですよ。浅倉さんもこの船が水陸両用って知っているでしょ?」


 あまりの剣幕に怯みながら説明する。


 「だったら海岸に乗り上げる時は何かアナウンスをしろよ!」


 「――――――その辺にして、風呂にでも入ってこい。出てきたら仕事だ」


 灰原の言葉に制止され、仕方なさそうに腕を離す。


 「〜〜〜〜・・・・分かりました」


 納得いかなそうに船室から出て行く。


 「・・・・・・助かりましたよ」


 浅倉が出て言ってから船長は安堵の息をもらす。


 「―――優秀なんだが、短気なのが玉に傷だ」


 話していると、扉の向こうから声が聞こえた。


 『浅倉。お前、さっきの停止で頭から、うどん被っただろ?』


 『なっ!? 真川!?』


 『俺が急停止したらそうなるって言ったのに、どこまで単純なんだ?』


 『・・・・上等だぁ! 覚悟しやがれぇ! このアイアンマン!』


 『テメ! 人が気にしている事をっ!』


 ドカ、バキ、と破壊音が聞こえる。


 「・・・・・・・修理代は奴らの給料から引いておく」


 「は、はは・・別にいいですよ・・・・」


 船長は苦笑いを浮かべた。

 




 「・・・・・・いつもすまないな」


 天月は腕の感覚を確かめながらリオに礼を言った。


 「このくらいどうってことありませんよ。感覚はどうです?」


 「―――――問題ない。元どうりだ」


 指を閉じたり開いたりする運動を繰り返しながら状態を確認する。


 「―――合流出来て良かったですよ。正直、不安でした〜」


 と、天月に抱きつくリオ。


 「―――動きが鈍る。わざとらしい。離れろ」


 的確な単語を聞いて仕方なく離れる。


 「―――親友を慰めようとは思わないんですか〜?」


 「天啓にしてもらえ。私よりもあいつの方が適任だろ?」


 「・・・・・だって、天啓君。そう言うので抱きつくと嫌そうに離れようとするんですよっ!」


 「・・・・・・それは嫌がっているんじゃなくて恥ずかしいんじゃないか?」


 「!? 彼女が抱きついて恥ずかしい人間がいるんですか!?」


 「詰め寄るな。分かったから・・・・・それよりもなんで制服なんだ? 他に何か無かったのか?」


 「――――まともな服が無かったんですよ。スズちんから受け取った鞄には制服しか入っていませんでしたから」


 「――――まあ・・・悪い事は無いな。敵を欺ける」


 天月はリオを見ながらそう言った。どんな状況でも自分を見失わない事は良い事だ。彼女のそんな性格に何度も助けられてきた。


 「・・・・・・・」


 微笑を浮かべると、本題に切り替える。


 「―――リオ。お前は敵と交戦したか?」


 「―――あ、はい。数人の死人と、本人達は言いませんでしたから分かりませんでしたけど、上呪と思える死人を二人倒しました。スズちんは?」


 「・・・・・。私は適当に。これ程、派手に動いていると言うのに『創造者』は何も手を打たない?」


 おかしい。どれほどの人間が生き残っているかは知らないが、死人が減っている事は奴も気づいているはずだ。それなのに私達には何も牽制がない。もしかすればまだ気付かれていないのか・・・・・?


 「これからどうします?」


 「・・・・まずは、海砂を探そう。彼女なら、私達の居場所は分かるはずだ」


 とりあえず相手に感知される前にそれを迎え撃てる戦力を集結させなければ・・・・・・個々では危険だ。


 「分かりました」


 「別れて探すぞ。片方、合流出来ればもう片方とも合流出来る」


 「はい」


 そう言うと、リオは南へ、天月は北へ、お互いの無事を願うと、別れて行動を始めた。

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