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夜光伝記  作者: 古河新後
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記第三十二説 剣士

 青ヶ島。沖合三十キロキロ地点。


 夜の海は荒れていた。


 だが、風や雨が海を掻き乱しているのではない。それよりも恐ろしい太古より住むモノ達によって青ヶ島付近は近ずく事さえ出来なくなっていた。


 ゴォォォォォォ!


 海面を揺らし、その余波で船が揺れる。咆哮は海上からでなく海中からだ。


 「探知機に反応! さっきの奴らです!」


 「――――また来るか! 取舵一杯! 同時に五番カノン砲を準備!」


 皆それぞれの持場に慌しく移動する。


 甲板に取り付けられているカノン砲が左に主砲を向けた。


 探知機には、徐々に浮上してくる影が映っている。


 次の瞬間、水を引きながら巨大な姿が現れた。


 白く濁った眼。泳ぐのに特化している鱗とヒレ。鰻のような肌付きに、極太の体―――だが、全長は五十メートル程あるだろう。甲板を食いちぎる事が出来そうな口には、針のような細く長い牙が、隙間なく生えている。


 少しだけ開かれた牙の間から、冷気のような白い息が吐き出た。


 「カノン砲、撃――――」


 指示を出そうとした時、船が大きく揺れる。


 「なんだ!?」


 その時、船の左側にもう一匹の海竜が現れた。


 「同時に浮上して来ていたのか!?」


 海竜は水弾を口から放つ。圧縮された弾は、カノン砲を粉々に破壊する。


 もう一匹の海竜は、甲板に突っ込むと、そのまま船を突き破った。





 「少し遅かったようだな」


 遠くで残骸となって浮いている船の破片を見て、灰原は言った。


 「――――生存者は居るようですよ。助けに行きますか?」


 隣に現れた、アンドロイドが言った。


 「行け。この船は私が守る。海竜を仕留めろ」


 「・・・良いんですか? 海竜は、希少保護種として登録されているんじゃ―――――」


 浅倉が尋ねる。


 「――――非常時だ。それに我々の前に立ちふさがモノは、個々の判断で排除しても良い事になっている」


 「了解」


 「分かりました」


 浅倉は隣のアンドロイドに乗る。


 「よし。行け! 真川」


 「俺はタクシーか」


 なんだかんだ言いつつ、真川は、浅倉を担ぎながら海を滑ると、残骸の場所に向かった。


 そこには、二つに分かれて浮いている船に生存者が上がっていた。


 「おーっす。大丈夫か?」


 浅倉は新川から降りながら尋ねる。


 「浅倉さん! それに真川さんも」


 調査団の一人が声を出した。彼らとは、持ちつ持たれつの関係であるため、特にこの二人は顔見知りが多かった。


 「浅倉。俺は向こうを見て来る」


 真川はそう言うと、隣に浮いている残骸に向かって飛んで行った。


 「おう。――――さてと、そんじゃ攻撃を始めるか」


 海に向かって視線を向ける。


 「・・・・浅倉さん。何するつもりですか?」


 「―――ん? 何って、海竜を仕留めるんだよ。いつ出てくるか分からずに身構えるより、いぶり出した方が手っ取り早いだろ?」


 その時、勢いよく海竜が姿を現す。


 ゴォォォォォォォ!


 「出たー!」


 調査団の面子は驚いたが、浅倉は不敵な笑みを浮かべていた。


 「手間が省けたぜ――――――」


 正面に意識を集中した次の瞬間、海竜は殴られたように横に吹き飛ぶ。仕掛けたのは真川である。


 「真川さん!」


 「――――あ、テメー!」


 海竜は倒れながら海中に姿を消した。


 「真川! そいつはオレの獲物だぞ!」


 空中で停滞している真川に怒鳴りながら指をさして言う。


 「お前は水中戦が出来ないだろ。俺がやる」


 そう言うと、潜って行った。


 「あの野郎・・・・」


 獲物を横取りされてわなわなと震える。その時、反対側からもう一匹の海竜が現れた。


 「また出た!」


 即座に長い牙が生えた顎を開き、喰らいかかってくる。


 ゴガァァァァァァ!


 「うるせぇ! これでも喰ってろ!!」


 浅倉は投げるような動きを海竜に向けると、何か細長い物が口の中に入って行った。


 次の瞬間、時間を置いて爆発。頭部は粉々に飛び散ると、辺りに血の雨が降る。


 頭を無くした身体は海の上に死体となって浮く。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・遅い」


 そして、何事も無かったかのように海を見ていた浅倉はぽつりと言った。


 「・・・手間をかけすぎたあの野郎。しょうが無い。魚雷で援護でもしてやるか――――――」


 その時、海中が盛り上がり海竜の首を持った真川が姿を現した。


 「―――これ、魚拓出来るか?」


 「オレが知るか」


 真川は首を持った状態で灰原に通信を入れた。





 『隊長。こっちは終わりました』


 背後で待機している船に乗っていた灰原は簡説な報告を受ける。


 「ご苦労」


 『それともう一つ――――』


 「なんだ?」


 『海中で見たんですが、夜なんで良くは確認出来ませんでしたけど―――――』


 「要点だけでいい。はっきり言え」


 『はい。海竜は―――――』


 その時、背後の海から三匹目の海竜が姿を現す。


 「!? ―――全員! 急いで持場に付け!」


 慌ただしく指示が飛び合う。灰原も体を横にして目で海竜を見る。


 『――――三匹居たようです』


 ゴォォォォォォォ!


 海竜は威嚇すると、顎を開き襲いかかって来た。


 だが、次の瞬間、縦に切り込みが入ると、船には当たらずに左右に別れて海上で絶命する。


 「――――そうか。だが、終わった。そちらの生存者の救出が完了次第、青ヶ島に上陸する」


 手に持っている鞘に僅かに見えている刀身を納めながら淡々とした口調でそう言った。





 「三だ」


 古びた木造建築の家が並んでいる道。錆びた街灯に寄りかかっている男は指を折り曲げながら声を出した。


 肩より少し長い長髪を無造作に後ろに流し、薄青の着物と黒い袴を着ている。腰には、普通のよりも少しだけ長い刀を掛けていた。


 「奇遇だな。某も三だ」


 近くの車に腰を掛けている男は古い言葉遣いで返すように答える。


 こちらは、薄赤の着物に茶色い袴。邪魔にならないように短く切られた髪に長髪の男よりも筋肉が付いている腕。腰には刀と小太刀を同じ位置に固めて吊り下げていた。


 二人とも出てくる時代が間違っている服装と雰囲気を纏っている。


 「なんだぁ? また同じか?」


 詰まらなそうに息を吐きながら長髪の男は言う。


 「そう言うな小次郎。戦はまだ始まったばかり、これからどうなるか分かるモノではない」


 腰の刀に手を添えながら短髪の男は答える。


 「だがなぁ武蔵。結局は前と同じだったなんてオチは、面白くなさすぎる冗談だぞ?」


 「うむ。確かに・・・・・このまま終われば次の戦まで更に日が空くやもしれんな」


 「貴様と俺のどちらが強いか。さっさとはっきりさせたいものだ」


 「某も同意見だ。しかし、我々と同等、もしくはそれ以上の実力の持ち主がそうそう居るとも思えぬ―――――――」


 と、武蔵は小次郎の視線が自分とは別の方向に向いているのに気がつく。


 自身も無言でそちらの方に向けると、二人の人間がこちらに向かって歩いて来ていた。





 「おい。あれじゃねぇか? 安東」


 男が隣に居る相方に尋ねる。


 「――――本当だ。当たりだぜ周」


 探知機を細かく拡大して、自身の周りを探知しながら答えた。


 「点数は?」


 「えーっと。ちょっと待て」


 探知機のモードを切り替えると、縦に向けて画面に武蔵と小次郎を映す。


 「――――おい。あいつら七十点だぞ!」


 「マジかよ。やりぃ!」


 意気揚々と武蔵と小次郎に近づく二人。


 「武蔵。斬るか?」


 「ああ。斬ろう」


 と、武蔵は車から降り、小次郎は寄りかかっていた街灯から離れると刀の位置を直しながら歩み出す。


 「―――安東何で殺る?」


 「――――勿、剣だろ。一度でいいからマジの斬り合いをしてみたかったんだぜ」


 二人は背中にある剣を鞘から抜く。


 「こいやァ! 二刀流!」


 安東は、剣を構えながら武蔵に言った。


 「・・・最後の言葉を聞こうか・・・・」


 「―――はぁ? 何言ってんだ? 死ぬのはてめーだろ」


 安東は身を少しだけ揺らすように下げると、瞬時に剣の間合いに武蔵を入れ、斜め下に振り抜く。それと同時に武蔵も刀を抜いた。


 「・・・・・一撃必殺」


 安東は振り抜いた状態で硬直しながら、悟るように言う。


 その時、服が僅かに切れ下に落ちる。


 「おおっ。危ねーじゃん」


 落ちた服を見ながら、結果を見た。


 だが、徐々に服が落ちると、体に切れ込みが入り、胴体部が二つに分かれる。


 「―――――え?」


 次の瞬間、上半身と下半身が分かれると、考える間もなく絶命した。





 武蔵は、仕留めたのを確認すると、小次郎の方に目を移した。


 彼は相変わらず遊んでいるようだ。


 刀が体に触れるスレスレを通り抜けて行く。


 周は、ギリギリの所で小次郎の高速で襲いかかって来る刀を避け続けていた。


 下から襲ってくる斬撃を最小限の動きで回避する。だが、二、三と振り下ろし、袈裟がけ、と反撃する事が出来ない。


 僅かに敵が大ぶりになったのを見極めると剣を切り上げた。


 しかし、余裕の動きで小次郎はそれを回避する。剣は、その際に遅れた僅かな髪を切るだけだった。


 「――ハァ・・ハァ・・・」


 なんて奴だ。こっちは普通の二倍近くの身体能力を持っているんだぞ? 今までの奴らは楽勝だった。こいつはそれ以上だってのか・・・・・?


 息が上がっている様子を見た小次郎は、長い刀を腰の鞘におさめた。


 「――――てめぇ・・・・」


 「ククク――――弱い弱い」


 小馬鹿にするような笑みを浮かべながら周を見る。


 「―――おらぁ!」


 剣を振るう。しかし、小次郎は余裕の動きでそれら全ての斬撃を回避する。


 そして余裕の動作で刀を抜くと、それは周の腕を通り抜けた。


 間を置いて切断されると、剣を持っている腕が宙を舞う。


 周は、飛んだ腕から剣を取ると、再び小次郎に振るった。


 小次郎はそれを避わすと、顔を狙った突きを繰り出す。周はギリギリで直撃を避けるが触れていた耳が断ち切られる。


 「――――ま、待て!」


 周の声に次の攻撃に入ろうとしていた小次郎の動きが止まった。


 「――――負けだ。負け。降参・・・・」


 剣を捨て両手を上げながら意思表示する。


 小次郎は刀を納めると、背を向けて武蔵に歩む。


 それを確認した周は残っている手で銃を抜くと、小次郎に向けた。


 その時、もう片方の腕も飛ぶと体が三分割に分かれ絶命する。


 「――――ツバメ返し」


 後ろを見ずに歩みながら小次郎は、ぽつりとそう言った。





 「これで某は四だ」


 「俺も四。決着は次に持ち越しか?」


 敵と遭遇する前の状態になっている二人は、何事も無かったかのように話していた。


 「――――ん?」


 今度は武蔵が、気がついた。男達とは反対側の道から、一人の少女が正面ではなく辺りに視線を彷徨わせながら歩いてくる。





 「―――まったく。全然分かりませんよ。ここはどこですかー。―――――ん?」


 リオは正面を見ると二人の剣士の姿を捉えた。

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