記第三十一説 捕者
「・・・・。またか・・・・」
森を歩いていた天月は目の前の傷の付いた木を見て落胆した。
「・・・心理的なトラップか何かか・・・・・」
木を見ながら神妙な面持ちで考える。死人と交戦後、天月は町に向かっていた。創造者がこの島のルールを指摘した場所ならば、街の時と同じように異空間に隠れている可能性が高い。恐らくは映像などではなく、魂の様子を感じ、状況などを認識しているのだろう。それも天啓のように細かく認識できるモノならば、自分の事などは既にばれている。しかし、絶えずの襲撃がない事から、まだ相手側には認知されていないと言う事だ。それならば、こちら側から先制攻撃を仕掛けられる。その為、町を目指して道を歩いていたのだが、途中道が途切れており、錆びた看板には、獣道を通る事が必要だったため森に入ったのだが、どうも同じところをグルグル回っているだけらしい。
「今度は反対方向に行くか」
見間違わないように五個目の傷を付けると、反対方向に向かって歩き出した。
十分後・・・・・
「・・・・・・・」
再び神妙な表情で傷の付いた木の前に居た。
「ふむ・・・・・既に北と南が潰れたな。後は東と西か・・・・」
と、傷を付けると木に背を向けて歩き出す。
更に十分後・・・・・
「・・・・・・・貴様・・・なぜ私の前にこうも立ちふさがる・・・・・」
天月は歩みを止めていた。目の前には何度も見覚えのある傷の付いた木。
「・・・・はぁ・・何をやっているんだ私は・・・・・・」
冷静に考えると、後は一方向しか残っていない。もう迷う事は無いはずだ。
残った東に足を進める。
しばらく進むと、何やら開けた場所が森の向こうにあった。
「おっ! 出口だな」
自然と歩みが早くなる。木々の間をを抜けると、そこは町ではなく、海岸に面した崖だった。
「・・・・・・・・」
ザザーンッと、波が切り立った岩肌にぶつかり、塩水を空中に散らす。
「・・・・私は・・・・今まで一体何をしていたんだ・・・・・・」
全く見当違いの所に出た為、うなだれる天月。
「だが・・・・・」
途端にスクッと立ち上がると、上から海を見下ろせる先端側に移動する。下を見ると、波が絶えず岩肌にぶつかり一秒と無く違った雰囲気を醸し出していた。
「・・・・・・・。和む・・・」
先端側に座ると下の景色を見ながら、酔う様な声を出した。
育ててもらった親に似たのか、任務と言わずに、どんな時でも自分は気が休まる事がない。未だに初対面の者には昔の様な眼で見られる。その為、昔常に気を張っていた所為もあり出張任務だと、正直疲れると言うのが本音だ。リオからも、よくその事で指摘される。
そして、数年前に見かねたおじさんが、私を旅行に連れて行ってくれた。寡黙なおじさんは、こちらから話しかけないと、ほとんど話してこない。しかし、私は隣におじさんが要るだけで心休まった。だが、その旅行でそれ以上に衝撃を受けた。
最後は、エッフェル塔の観光だった。その時、最上階から見下ろした景色を見た私は、何かを感じた。
遊具の様に小さくなった車や、更にそれよりも小さい人々。それが絶えず動き回っている景色は、まさに壮観だった。
その後、疲れた時などは資料室に行って、高所の写真を眺めるのが決まりとなった。写真は動かないが、現地に行くには忙しすぎる毎日である為、ある程度心を休めるには十分だった。
それからは、出張任務などに赴いた時、暇があれば一番と言える高所を捜すために色々と模索している。
そして、まさかこんな所があるとは・・・・まさに想像していなかった。この景色は凄い。私の中のベスト5に入りそうな勢いだ。
現状を忘れて、自分の世界に入り込む天月。その顔は聖職者ではなく、完全に趣味を満悦する乙女だ。
「何か見えますか?」
次の瞬間、天月は弾かれたように後ろを振り向くと、即座にウィンチェスターを取り出し、声のした背後に向けた。そこには、着物を着た女が立っている。
相手を睨むように視線を送る。
「『ハンター』ですか・・・・」
相手の言葉を聞いて天月は確信した。『ハンター』と言う単語を使うのは、異端者だけだ。任務では、ほとんど聖職者と呼ばれるからである。
「――――丁度良かったです。貴方達に言いたい事と確認したい事がありましたから」
「―――――言いたい事だと?」
「はい。どうやら、今この島では、大変な事が起こっているようですね」
「そんな事は百も承知だ」
「貴女も、ある程度情報は掴んでいると思いますが、この事は確実にハッキリさせておかなくては、お互いに危険でしょう」
「・・・・勿体つけずにさっさと言え」
「―――では。私と、私の協力者『円卓の騎士』は、貴女方ハンターに敵対意識はありません」
「・・・・・・・」
「言いたい事はその事です」
「―――信用できないな」
「はい。証拠となるモノは何もないどころか、彼らとも連絡さえも出来ませんから」
と、白士は笑顔で言う。
「―――ですが、『円卓の騎士』も戦うべき相手を見定めています。貴方達が仕掛けてこない限りは、こちらから手を出す事は、まずありません。―――――もちろん私もです」
「・・・・・・・」
天月は銃身を上に上げた。
「―――信用したわけじゃない。だが、私も話が分からない訳ではないからな」
「良かったです。貴女の事は、トラウスさんから聞いていましたから・・・・・」
「・・・・・・色々と知られているんだな」
「――――はい。貴女が人間ではない事も」
その言葉を聞いて天月は心臓を掴まれた様な顔をした。
「少なくとも、その事は私自身が、今気づいた事ですけど」
「・・・・・私は人間だ。こうやって一年ごとに年もとる。何時になるかは分からないが、来るべき時が来るまで、私は人間だ」
いつもの真面目な表情で白士を見て言う。
「・・・・――――そうですね。出過ぎた発言をしました。すみません」
丁寧に頭を下げる。
天月は軽く息を吐き出すと、
「それより、言いたい事は聞いたが、確認したい事は何だ?」
と、白士は思い出したように、
「―――そうでした。貴女は、町にどのようしたら行けるか知っていますか?」
「・・・・・・・・」
天月は、白士の顔を無言で見ていた。
銃声が轟く。
「こいつで終わりだな」
煙草を口にくわえた男は、持っているショットガンで男の頭を撃ち抜いた。その頭が踏まれたトマトの様に弾け飛ぶ。
「―――終わったか?」
そこに銃を持った、複数の男達が駆け寄ってくる。
「おう。終わったぜ。んなことより、こいつらは一体何なんだ? こいつを何度叩き込んでも平気な顔して近づいてきやがる」
ひらひらと拳銃を見せながら頭部が破裂している死体を見る。
「さぁな。これが、最初に支配者らしき男が言っていた、『敵』である事に間違いはないんだが・・・・・・」
「普通、頭を撃ち抜かれて生きている人間なんて居ねぇだろ?」
煙草をくわえた男は立ち上がる。
「ん? 安東と周が居ないみたいだが・・・・・・・」
「――――あいつらなら、別れて行動するってよ」
「・・・・ま、大丈夫だろ。既にあいつらは三百点以上取ってる。こんな化け物以上の化け物が居るとは考えにくいからな」
と、再び死体を見ると、塵となって消え失せている最中だった。
「・・・・・・死体も残らないみたいだな。一体何なんだ?」
「正体が分からない以上殺って行くしかないだろ」
「だな」
男達は移動を始める。その様子を視野ではなく、熱源で捉えているモノが居た。
・・・・・・・・・
「これからどうするんだ?」
煙草をくわえた男は、前を歩く男に聞く。
「敵を追い詰めて確実に仕留める。だいぶルールも分かって来たからな」
男は、くわえている煙草を捨てると、少し遅れて歩き出す。
「―――――ん?」
その時、男の身体を何かが貫いた。何が起こったか分からずに男は前に倒れ絶命した。
「――――遅いぞ、何をして――――!?」
血の池を広げながら倒れている男を見て他の仲間が目を見開く。
次の瞬間、何かが放たれ、他の仲間の頭を撃ち抜いた。
「敵が居るぞ! あそこだ!」
一つの木に向かって集中して放火される。だが、何かが木から跳び離れた。
何なんだ?
何か居るのは確実だ。しかし、その姿が見えないのである。
「撃て撃てー!」
耳を塞ぎたくなるような発射音が辺りに鳴り響く。
その時、隣にいる仲間に何かが発射され、壁に固定された。
「何だ! こりゃ!?」
飛んできたのは網のようなモノであった。固定してある部分に高速で網を巻き取られ、徐々に締まってくる。
「まて、今切ってやる」
他の仲間が、ナイフで網を切ろうとするが、逆にナイフが欠けた。
「!?」
「拘束具を壁から外せ!」
見えない敵に対して銃を撃ちながら後退した男が的確な指示を出す。
ドン。
と、何かが、男と仲間の間に降りてきた。すると、音を立てて現れた鋭利な何かが仲間を切り裂く。網にかかった仲間も、締まってくる網に身体を細切れにされて絶命していた。
後ろに向かって発砲するが、鋭利な何かによって銃先が切り落とされる。
「くそっ!」
腰から拳銃を抜くと、目の前にいる何かに向かって発砲する。
二、三当たった次の瞬間、波打つように何かが解除されると、その姿が現れた。
正面を向いた顔は、鋼鉄の仮面のようなモノで表情は無い。肩に小型の銃の様な物や、腕に機械のようなモノをつけていおり、背中には槍を背負っている。そして身体の至る所にアーマーのような装備を身に着けていた。
「なんだ・・・お前は?」
男が目の前に現れた何かに問いかける。
「・・・・・・」
次の瞬間、男の首が飛んだ。
そして、その者は、腕に付いている機械のボタンを押すと再び姿が消える。
その場には無数の死体だけが夜の中に放置されていた。




