表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Butterfly Vampire  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

永遠の愛の囁き



 きっと、あたしは死ぬ運命だった。

 ヴァンパイアに救われた奇跡が起きて、死が先伸ばしになった。

 ヴァンパイアとの甘い日々は、あたしの最後の幸福だった。


 もう、奇跡は起きないだろう。


 蠢く闇の塊のようなグールは、3体はいた。シーソーの上、緑の葉を垂らす桜の木の元、砂場の上に着地。

 口であろう穴を大きく開くグールは、雄叫びのようなものを上げるけれど、くぐもったようによく聞こえない。まるで壁の向こう側から声を上げているようだ。

 でも、モンスターとあたしの間には、見えない壁なんてない。現に、あたしの腹は裂かれた。

 不思議だ。

 身体から血が奪われ、冷たさを感じる。ネリオラに吸われた時は、熱さを感じたのに。

 ネリオラは血の代わりに、あたしに熱を与えていたみたい。

 あたたかい、愛。


 あなたの全てが欲しい。


 ネリオラの言葉が、視界を歪ませた。出血で、視界が霞む。

 グールに食い殺されるのが先か。出血死が先か。

どちらでも、構わない。

 ただ、死を迎えるこの時、ネリオラの名を呼びたかった。唇は動かない。だから、氷の中の心で、彼を何度も呼んだ。

 命が尽きる、その時まで――。


 グールが飛び掛かったのかと思った。

 でも目の前に、別の黒い塊が現れる。霧が集まるように、みるみるうちに大きくなったそれが、弾けた。

 黒い揚羽蝶の大群のようにも見える。でも、見間違いかも。羽は鋭く、素早く広がって飛ぶそれは、蝙蝠だったかもしれない。

 その中心に、彼がいた。後ろ姿だったけれど、ブロンドと深緑のベスト。間違いない。ネリオラだ。


「――――私のものだ」


 グールに向けられたであろうネリオラの声は、すごく低く鋭利で、初めて聞いた。

 またあたしを助けに来てくれた?

 まだあたしを、求めてくれるの?

 ネリオラに振り向いてほしくて、手を伸ばそうとした。でも、彼には届かない。地面に力なく落ちる。

 蝙蝠が蠢き、グールに向かうけれど、あたしの耳にはもうなにも聞こえなくなった。

 薄暗い公園に、蝙蝠が飛び交い、黒が激しく飛び散る。彼の背中を見つめながら、意識は黒に呑まれた。




 ――――目を開くと、ペリドット。

 瞼は重く、視線も定まらない。でも見つめていたくって、目を開く努力をした。

 オリーブグリーンの色。あたしを惹き付ける瞳。ネリオラが、あたしを優しく見つめている。


「……申し訳ありません。私の匂いが染み付いてしまったせいで、あなたは狙われてしまったのです」


 視線が定まると、ネリオラがあたしの頬を撫でてそっと優しく言った。

 生きているんだ。

 それを自覚して、あたしは腹部に手を当てた。痛い。


「大怪我したのですから、動かない方がいいです」


 ネリオラに従い、あたしは起き上がることを諦めた。

 あたしは、ソファーに横たわっているみたい。でもあたしの家ではなかった。赤いクッションのソファー。へこんだ天井は高く、三角屋根を連想をさせる。色はブラウンだ。恐らくここは、ネリオラの住んでいる館。


「こんなことにならないように、この館に住むことを提案しようとした矢先……あなたが子どものようなことをするのがいけないのですよ?」


 床に座っているネリオラは、あたしにも非があると意地悪なことを言って微笑んだ。

 同居を、考えていた?


「……あなた……バカなの?」


 言葉を発するのはしんどかったけれど、ぽろっと思ったことを掠れた声が伝えた。


「おやおや。命の恩人をバカ呼ばわりですか?」


 ネリオラは、おかしそうに笑う。


「まだ信じられないのですか? 絵子さん。この私の想いを」


 涙が込み上げてきて、視界が揺らいだ。ネリオラには、見られたくないから、精一杯堪えた。


「私は、あなたが好きです。絵子さん。冷徹の瞳に、見つめてほしいと願うのです。絵子さんには、愚かなヴァンパイアに見えてしまうのですか? こんなヴァンパイアなど……嫌いですか?」


 あたしの右手を握り締めて、ネリオラが静かに問いかける。


「人間を……好いて、どうするのよ。永遠に生きるヴァンパイアでしょ」


 どんなに好いていても、あたしはすぐに老いて死ぬ。ヴァンパイアは、いつまでも生きる。

 数年だけ、関係を保っても、別れることになるんだ。求めないでほしい。


「終わりの心配をして、悲しんでいるのですか? だから、私を避けるのですね。全く、可愛らしい人だ」


 ふっ、と笑うと、ネリオラは緩ませた唇を、私の耳に近付けた。


「……私を信じて。あなたと、永遠に生きたいと思っているのです」


 一緒に、永遠に、生きたい。

 一時の関係ではない。

 ペリドットの瞳を見つめて、告げられた意味を考えようとした。

 でも、ネリオラが捨てるつもりがないと言ってくれたから、涙が溢れそうになり、瞼を閉じる。

 ギュ、とネリオラの手を握り返す。そのあたしの手に、1つ、キスされた。


「考えたのです。あなたの心に氷の壁があるならば、とかしてしまおう……って」


 ネリオラの指先が、髪を撫でる。


「届くように、何度でも愛を囁きましょう」


 目を開けば、美しい顔が、触れてしまいそうなほどの近く。ペリドットの瞳が、あたしを見つめていた。


「愛しております、絵子さん」


 胸の奥が、燃え上がるように熱くなる。

 堪えていたのに、涙は溢れ落ちてしまった。頬を伝うそれを、ネリオラの指が拭う。


「ほら……氷がとけ始めました」


 そう言って、微笑んだ。

 次から次へと、涙が落ちる。袖で拭って隠そうとしたけれど、ネリオラが手首を掴んで退かした。


「絵子さん」


 ネリオラが額を重ねて、熱く見つめる。熱を増すかのように。

 キスの許可を待っている。

 あたしは同じ言葉を返そうとしたけれど、泣いてしまっているから、上手く言えそうにもない。

 だから、あたしから、キスをした。

 解放された両手で、ネリオラを包み込んで抱き締める。

とろけるようなフレンチキス。

 ネリオラの愛の返事のつもりだったけれど。

 だめだ。溺れてはいけないと、自分を止めようとした。


「心から、愛しております」


 ネリオラが熱い愛を囁いて、冷たさを奪い去っていく。

 このヴァンパイアが、どうしようもなく、あたしを虜にしてしまう。

 このヴァンパイアに、身を任せてもいいのだと、自分に言い聞かせた。

 彼のブロンドに指を滑らせて握り締めて、吐息を吐く。とろとろにするキスは、止めさせて、見つめ合う。


「愛してるわ……ネリオラ」


 このヴァンパイアを、愛してもいい。

 愛したい。

 とけていく氷の中の心で、強く願い、そして決意した。


「知っていますよ、絵子さん」


 お見通しだと、ネリオラは微笑んだ。本当に意地悪なヴァンパイア。

 そんなヴァンパイアを愛している。少しサドで、気品がある紳士で、見目麗しい魅惑的なこの人を、愛している。

 また、唇を重ねた。唇の柔らかさを味わうような、フレンチキス。


「絵子さん」


 その合間に、ネリオラが口を開く。


「今日はお休みですよね? 私はずっと……1日中あなたを抱きたいと思っていたのです」


 ちゅ。と唇が離れる。

 ネリオラが休日を一緒にいなかった理由を言うから、あたしは目を瞬く。


「お預けされた分……夜まで、あなたにどんなに愛しているかを囁いて、抱かせていただきます。いいですよね?」


 ちゅう。と吸い付くように押し付けられた唇が離される。

 ネリオラは、にっこりと微笑んであたしの答えを待つ。

 い、1日中は……ちょっと。


「あっ……でも……あたし、怪我、してるし」


 そう、怪我人だ。内臓が出てしまうくらいの大怪我をした。断る理由がそれしか思い付かなかったけれど、十分のはず。


「おや? 話しませんでしたか? ヴァンパイアの血は、治癒力があるのですよ」


 ソファーに横たわったままのあたしを、ネリオラは軽々と起き上がらせた。

 自分を見ると、ネリオラのものであろうYシャツを着ていて、ズボンは穿いていない。Yシャツを捲ると、痛みがほんの少し残る腹部には、なにもなかった。


「血を飲むために、噛んだ傷も、私の血で治したのですよ」

「あっ! だから痕がないのねっ」


 2回目もネリオラの噛み痕がなかったことを思い出す。気に止めないほど盲目に恋していたあたしは、やはりバカだ。

 だから、あたしは今生きている。


「人間にはそれなりに負担がかかりますが、僅かに痛みが残る程度です。さぁ、怪我もありませんよ?」

「……あなた、わざと言わないで、話をしたんでしょ」

「はて……なんのことやら」


 怪我を治したことを言わなかったのは、わざとだ。あたしが話を聞かずに家に帰らないため。

 ネリオラは笑ったまま首を傾げると、ソファーに座るあたしに身体を密着させた。


「絵子さんの全てが欲しいと、言ったはずですよ? 血も、身体も、心も……」


 ペリドットの瞳を細めて、魅惑的に囁きながら、顔を近付ける。


「……あなたって、本当にあたしを誘惑するのが上手」


 クス、とネリオラは笑った。


「いいえ、あなたの方が、私を誘惑するのがお上手ですよ。花が蝶を虜にしたように、私を魅了したのですから」


 あたしと唇を重ねる。

 濃厚なキスをしながら、ネリオラはあたしの着ているYシャツのボタンを外した。


「絵子さん。どうしてほしいのか……言ってください?」


 ほくそえんで、ネリオラはまた意地悪なことを問う。

 愛していることも、抱いてほしいことも、お見通しのくせに。

 あたしだって、会っていなかった分、ネリオラが欲しい。


「……愛してるわ……ネリー」


 時折呼ぶ名で、ネリオラを呼んで、吐息まじりに囁く。

背中に回した腕で、引き寄せて、答えた。


「愛して、ネリー」


 とろけるように熱く、あたしを抱いて、愛してほしい。


「永久に……あなたを愛します」


 ネリオラは、そう囁き返す。

 熱が冷めないように、何度でも何度でも、愛を囁かれた。



end



人間と永久に生きる方法をネリーは知っているのですが、それはまた別のお話に。



恋に盲目的になることは、我に返ると怖かったり。

そんな経験から氷を纏ってしまった絵子に、

魅惑的なヴァンパイアが愛を囁き続けてとかし、

美味しくいただくお話でした。笑


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!



20150520

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ