1. 聖女の何かが切れました
コメントなどで食わせてあげてとのお声をいただきまして、ぬるっと連載化してみました。短めの予定です。
「聖女は許しても、僕たちが許さない」
王太子殿下のそのお言葉で、何かがブチッと切れた音がしました。
舞踏会にて、侯爵令嬢のイザベル様は聖女である私への度を過ぎた虐めを理由に婚約を破棄され、王太子殿下の名において国外追放の刑となりました。
私が新たな婚約者となるらしく、会場内に波紋が広がります。
拝啓 創造主たる女神、私に癒しの力を与えてくださったお方へ
……ずっと、空気を読んで生きてきました。
『そこのお前、癒しの力を持っているな?』
王都の孤児として育ち、ゴミ漁りをしていた時に癒しの力を理由に教会に拾われました。
『聖女様、我が国をお守りになる聖女様!』
将来国を救うとの神託を受け、幼くして聖女としての期待を受ける生活が始まりました。教会内では様々な悪意を向けられながらも戒律を厳しく叩き込まれ、日々限界まで癒しの力を訓練しました。
『何が聖女よ、生意気なっ!』
最下層の身分のまま貴族学園へ入学し、身分や育ちの差、特別扱いを理由に高位のお嬢様方からいじめられても、どれだけ痛く苦しくとも、勤勉に学びました。
『聖女様、お救い下さい聖女様!』
朝早く起きて、神に祈りを捧げ、少量のパンと薄いスープを摂り、清らかさとは程遠い教皇様の悪行に気づいていないように控えめに笑い、王太子殿下の言うことを聞き、他者を癒し、休日は奉仕活動をしました。
なぜなら、清貧で美しい聖女様はそうするものだからです。そうすることが求められていたからです。
……ですが、もう、いいですよね?
国の危機は未だ感じられません。今この瞬間も腹が立っています。減ってもいます。寒いし眠いです。望んでもいないし、貴族として生まれた責務でもないのに、一生言うことを聞かなきゃいけない相手と結婚なんて、理不尽です。そして、何より……。
「いや、私、許すなんて一言も言ってないですけどね?」
聖女は許しても、僕たちが許さない? 勝手に決めつけないでください。
聖女だろうがなんだろうが、私は人間です。令嬢方に囲まれ、殴られ、熱い紅茶をかけられたことを許すわけがありません。
「正直、殴られたら殴り返したいんですよ! 私は!」
ペタペタと裸足で会場を闊歩し、いっときも顔を忘れることのなかった殴ってきた令嬢の前へ。脇は締め、足の位置は肩幅程度。拳に力を込めて。勢いよく下から。
「こんな風にっ!」
ゴッといい音がしました。令嬢は吹っ飛びましたが、尻餅をついたようなので大丈夫です。パーにグーで返しただけマシだと思ってください。ビンタし返していたら、貴女様は今頃口が切れていたことでしょう。
「罪を憎んで人を憎まず? ハッ、罪を犯したのは人間ですよ?」




