第13話「分担」
黒が、ゆっくりと動き出す。
止まっていた世界が、再び軋み始める。
空の亀裂が、わずかに広がった。
「……来るな」
クロノが小さく呟く。
「うん」
ミナも空を見上げる。
「ミナ」
「ん?」
「さっきの、もう一度できるか」
一瞬だけ考えて。
「……いけると思う」
軽い返事。
けれど。
その意味は軽くない。
「でもさ」
ミナが続ける。
「やりすぎると、やばいんでしょ?」
「……ああ」
「じゃあ」
少し笑う。
「ちゃんと考えないとね」
クロノは小さく頷いた。
「……分担する」
黒を見据えたまま言う。
「俺が前へ出る」
「お前は止めろ」
短く。
それだけ。
「タイミングは任せる」
一拍置いて。
「無理だと思ったら、やめろ」
ミナは少しだけ黙る。
そして。
「……まかせて」
笑った。
軽くない。
覚悟を決めた声だった。
クロノが踏み出す。
黒が脈打つ。
空間が歪む。
視界が揺れる。
重力がねじれる。
それでも。
止まらない。
前へ。
さらに前へ。
「ミナ!」
叫ぶ。
「——止まって!」
世界が歪む。
黒の動きが鈍る。
完全じゃない。
それでも。
十分だった。
(いける)
一気に距離を詰める。
だが。
負荷が跳ね上がる。
視界が軋む。
思考が削られる。
(まだ足りない)
「もう一度!」
一瞬。
沈黙。
「……っ、止まって!!」
さらに空間が歪む。
黒が押し返される。
道が開く。
その代わり。
「……っ、は……っ」
ミナの呼吸が乱れた。
(まずい)
限界が近い。
それでも。
今しかない。
クロノは踏み込む。
さらに奥へ。
手を伸ばす。
届く。
その瞬間。
黒が大きく脈打った。
ドクン。
止まりきらない。
押し返す力と。
進もうとする力。
二つがぶつかる。
「……っ!」
空間が軋む。
均衡が崩れる。
「クロノ!」
ミナの声。
もう限界だった。
(……ここまでだ)
迷わない。
手を引く。
後ろへ跳ぶ。
次の瞬間。
黒が弾けた。
衝撃が空間を飲み込む。
世界が揺れる。
それでも。
崩壊は始まらない。
途中で止まる。
歪んだまま。
未完成のまま。
「……はぁ……っ」
振り返る。
ミナが膝をついていた。
肩で大きく息をしている。
「……大丈夫か」
「……ギリ」
苦笑い。
それでも。
立とうとしていた。
クロノは再び黒を見る。
少しだけ。
違って見えた。
ほんの少しだけ。
奥が見える。
(……届いてる)
まだ足りない。
それでも。
確かに近づいていた。
「……いけそう?」
ミナが尋ねる。
クロノは少し黙って。
「……ああ」
静かに頷く。
「このやり方でいい」
黒が。
再びゆっくりと動き出す。
止めきれてはいない。
終わってもいない。
それでも。
クロノはもう。
前だけを見ていた。
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