表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/31

第28話 本当に許せないこと

 side:イヴ


「何故貴方が……っ!?」


「少し静かにしてください」


 手で口を閉じられる。

 私が魔法を使うよりも早く。


「いい場所ですね。ターンクス領より発展はしていませんが未来がある。借金もいつかは返せそうです」


「何が言いたいのですか、ローエン」


「単刀直入に言いましょう。イヴ様が欲しいんですよ」


 その目が赤く染まる。

 体色を変化させ、背中から異形の翼や角を出す。

 彼が”魔族”である事を証明するおぞましい姿に、私は体中を震わせていた。


「私は貴方の元には行きません……私に未来をくださったご主人様をお守りするために」


「そうですよね? 守りたいですよね? なら、これはどうです?」


「っ!? なんて数……」


 黒いクリスタルから壁に向かって映像が映される。

 

 これは……全部スラムの住人!?

 ボロい武器を持った細い体の戦士たちが軍勢となってどこかへ向かっている。

 見覚えのある風景、彼らが向かう方向、ローエンの脅しの言葉……


 まさか、


「スラムの住民をこちらに向かわせております。一人一人は大したことありませんが、集まれば貧乏領の一つくらい滅ぼせるでしょう」


「っ!!」


 嫌な予感が当たってしまった。

 私を対価にローエンはガーランド領を滅ぼそうとしている。

 全てが満たされていたこの日常を理不尽にだ。


「なんで……なんでそこまでして私をっ……!!」


「それが”メタルライダー”を所持する者の運命ですよ」


 壁に押し倒し、魔力の鎖で私を拘束する。

 バチバチと鳴り続ける電撃の音が私の身体から力を奪う。


「スラムの住人を押しのけても魔族の同胞がいます。ターンクスの領には優秀な兵士がそれなりにいますし……どうしますか?」


「私が行って、何が変わるんですか……」


「発展途上のガーランド領を切り捨てるのは、ターンクス家としては惜しいです。イヴ様が来てくだされば、ここを見逃すと約束しましょう」


「……」


 確かにガーランド領はまだまだ成長できる。

 ミスリル鉱石の取引も活発になっているし、借金を返す額も増やせるだろう。

 私としても今のガーランド領を壊すのはもったいないと思う。


 だけど、それ以上に……


「ですが、私の提案を断るというのなら」


「っ!! ま、待ってください!!」


 ローエンが手に込めた黒い魔力を向けた先。

 あそこはご主人様が寝ている寝室だ。 


「さて、どうしましょうかね? イヴ様はクロト様の事が随分気に入っているようで……」


「お願いします!! まだ早まらないでください……お願いします」


「……ふふっ」


 最悪の未来が見えた。

 私は頭を下げ、涙を流しながらローエンを必死に止める。


(ご主人様……)


 ご主人様の夢は理想のハーレム領地を作ること。 

 つまり可愛い女性がいっぱいいて、ご主人様の欲望を満たしてくれる存在なら、それでいい。

 

 私一人の命と、ご主人様の夢。


 天秤にかけた時、傾けるべき方向は決まっている。

 

「……貴方に従います」


「それでいいんですよ、ふふっ」


 これでいい。

 私がいなくなれば、ご主人様はターンクス領と揉めずに済む。

 

 賢いご主人様のことだ。

 きっとうまくやってくれる。


「あぁ、こうして貴方を再びモノにできて私は幸せですよ」


 でも、もう少しご主人様の側で見守りたかったな……


「”ウィンドナックル”」


「ん?」


 その時、物陰から高速で迫る人物が。

 素早い拳がローエンの顔面に直撃する寸前、彼は紙一重でかわして見せた。


「リース様!!」


「ほぉ、人間にも中々素早い戦士がいたのですね」


「当てたつもりだった。かわされるのは少し予想外」


「それが魔族との差ですよ」


「っ……逃がさない!!」


 羽を広げ私を抱えながら外へ逃げようとするローエン。

 それ追うために、リースさんは足へ風魔法をかけて高速突撃の体制に入る。


 コォオオオ……


「”ダーククラッシュ”」


「なんて早……ぐうっ!!」


 しかし、加速しようとした瞬間、それ以上に速いローエンの闇魔法がリース様に直撃した。


「貴方のご主人様に伝えておいてください……素晴らしい担保をありがとう、と」


 リース様が無慈悲に吹き飛ばされる姿を眺めながら、私は夜の空へと消えていった。

 ご主人様、本当にごめんなさい。

 でも、ご主人様ならきっと……夢を叶えられますから。


 今まで、ありがとうございました。









「マスターに、伝えないと……」









「なんだと!? それは本当か!!」


 完全に光を失った夜中。

 突然の物音に飛び起きた僕が最初に聞いたのは、イヴが連れ去られたという事実だった。


「間違いない。謎の魔族がイヴを連れ去った……ゲホッ」


「動かないで。まだ治療中だから」


 いち早く駆け付けたリースは血を吐いて倒れていた。

 幸いにも十六騎士団の子達がソフィアを呼んできてくれたおかげで、大事には至ってない。

 このタイミングでイヴを狙うか……思った以上に厄介な事になりそうだな。


「せっかく結界を張ったのに、ピンポイントで破ってくるなんて想定外よ」


「それだけ魔族が規格外という事。仕方がない」


 肝心の聖魔法の結界だが、一か所だけ人が通れそうな穴が開いていたらしい。

 結界そのものが全て破壊されてないのは希望がある、と思えばいいか?


「しっかし、なんで魔族がイヴをさらうの? 普通ならクロトを狙うでしょ」


「もしかして、マスターは何か知ってる?」


「……全部話そう」


 そういえばまだ話していなかったな。

 いい機会だと思い、僕は洗いざらい全て話した。


 イヴの過去。

 イヴが受け継いだメタルライダーの存在。

 そしてターンクス領の闇。


「そんな過去が……」


「メイドにしては上品すぎると思った。でも、元侯爵令嬢なのは意外」


 そこまで驚いてないな。

 まぁ、メイドにしては……って要素が多かったし、むしろ納得した部分が大きいのだろう。


「ローエンの狙いはイヴに受け継がれたメタルライダーの召喚陣だ。魔王軍の戦力拡大を実現するには、何としても必要だからな」


「え、まって。そのメタルライダーって確かアンタが召喚してなかった?」


「その通り。だからローエンは、イヴが僕にメタルライダーを受け継がせた事実を知らない」


 不幸中の幸い、というべきか。

 ローエンの目的はメタルライダーだ。

 イヴが所持していないとわかれば、ターンクス領から離れるワケにもいかないだろう。


「じゃあ今すぐ取り戻さないと!! スラムの軍勢は来ないとして、魔族や兵士の対策を……」


「いや、スラムの軍勢は来る」


「へ?」


 ソフィアがぽかんとした顔をする。


「リースもそう思う。あの魔族は約束を守るタイプじゃない」


「こっちにはミスリル鉱石もあるしな。スラムの反乱という事にすれば帝国から深く追求されないし、支援という名目を使えばガーランド領へも侵入できる」


「じゃあローエンの狙いって……」


 目的がメタルライダーだけなら、ガーランド領を占領しようと等しない。

 手間がかかりすぎているからだ。


 最近目撃されてきた魔族の存在。

 そしてローエンの不自然な計画から考察できるのは……


「メタルライダーとミスリル鉱石。最高クラスの資源の確保だ」


 この二つを魔族の物にすること。

 

 魔王軍の戦力をより強固に。

 軍事力でも、資金力でも圧倒的になれる二つの資源の存在。

 ローエンが求めないワケがない。


「マスター」


「大丈夫だ、策は……」


「イヴさん泣いていた。辛そうだった」


「……」


 ただ僕にとって、この二つは最悪どうでもいい。


「ソフィア、リース。よく覚えておけ」


「何よ?」


「ん?」


 メタルライダーも、

 ミスリル鉱石も、

 

 どちらも僕の夢を叶えるのに必要ではあるが、

 夢そのものではない。


「僕は大切な美少女を苦しめるヤツがな……」


 本当に大事な夢っていうのは、












「この世で一番嫌いなんだよ」


 イヴを含めた僕が雇った美少女達。

 それに手を出すっていうのなら……覚悟しろよローエン。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ