表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
63/152

混戦、混沌、大混乱

「ん~? な~んか、どうもな~。やっぱりコイツらギンの匂いっていうか、気配がするんだけどなぁ。」


「ク、クロネコ! いけません! ここは危険ですから、早く安全な場所へ下がらなくては!!!」


「へん! 若様よぉ! 今更そんな場所なんてどこにもねーよ! シロゲ! チャトラ! トビ! 騎馬の構えだ!!!」


「「「へい、おやびん! 合点ですっ!!!」」」



 ビシッとおでこに手を当てて、それからアタイの指示通りにルミアン様へと殺到する三人の猫耳娘。慌てる彼の抵抗もなんのその、三人は彼をヒョイと抱え上げると組んだ腕の合間にスポンと据えて、準備万端です! とばかりに笑みを向けてみせる。


うん、よしよし。まさかギンの奴に教えて貰った騎馬戦遊びが役に立つとは思わなかった。さーてとりあえず逃げ足は確保したものの、この状況から果たして一体どうしたもんか。


こっちだって逃げ出したいのは山々だけど、今やアタイ達を取り巻いているのは怪物共に追い回されるおっちゃん達が、右往左往しながら怒号と悲鳴をあげる地獄絵図ときたもんで。いや、こんな中を掻き分けて走るなんぞとマジで勘弁してほしい。チビっちまいそう。



「お、降ろしてください! 私は男なんです! 女の子に守ってもらうようなわけには……!」


「ウッセー! 若様はアタイ達の飯の種なんだ! 黙って大人しく庇われてろい!!!」



叫ぶや否や、近くに落ちたデッカイ羽根が陣幕をズタズタに引き裂いて吹き飛ばし、巻き起こった巨大な音が、アタイの耳をこれでもかと言わんばかりに叩きのめす。あー! もー! 何がどうなってんだよこれぇ!


ほんのちょっと前までは、騎士団長の姉ちゃんが蛮族と切り結んでいるのをハラハラしながら見守ってたのに、なんか小屋みたいにデカい白黒熊が出てきたと思ったら、あれよあれよという間にこんな事になっちまった。うにー! まだ耳がビリビリしやがる!



「くっそぉぉっ!? こいつ切っても突いてもビクともしねえ! おい人族! どうせお前らが一枚噛んでるんだろ!? なんとかしやがれぇ!!?」


「だから私の知るところでは無いと言っているでしょう! ってやめなさい! こっちに来るんじゃあ……きゃあぁぁぁっ!!?」


「メルカーバ様! 我ら血薔薇騎士団は未だ健在であります! どうかご指示を! ご指示を……ってぬぅおわあああああっ!!?」



右を見れば、蛮族のおっかねえ姉ちゃんと騎士団長の姉ちゃんが、ガウガウ吠える白黒熊に追い回されていやがるし。あ、騎士のおっちゃん達が巻き込まれて吹っ飛ばされた。



「ちょっとゼリグ!? あんた生きてるんでしょうね!? 返事しなさい返事! 答えろつってんだよオラァ!!!」


「げっふぅ!!? あ、がっ!? キ、キティー! てめえトドメでも刺すつもりか!? ああ!!?」


「それだけ怒鳴れるなら平気そうね。ほら、すぐに治してあげるから大人しくしてなさい!」



左を見れば、死にかけてる傭兵の姉ちゃんの青い顔を、神官の姉ちゃんが平手でぶっ叩いていやがるし。でも安心した。ギンはあの姉ちゃんと仲が良さそうだったから、もし死んじまってたらアイツが悲しむところだった。


そんでもって、アタイ達の頭の上では……。



「おやびん! 上です! 空からデッカイお魚が!!! ぎにゃあああああぁぁぁぁぁ!!?」


「ヒャヒャヒャ! ど~じゃ思い知ったかノマぁ! こうべを垂れて悔いるのならば、ぬしの混沌様に対する不敬、まだ許してやらんでもないぞぉ!!!」


「くぅっ!? さっきから訳の分からない事を! 私の名は踊るフルート吹き! 偉大なるノスフェラトゥ様に連なるものであると、言っているでしょうがぁ!!!



そんでもって、これだ。頭の上で繰り広げられる、これまたおっかねえ化け物共の大決戦。マジで勘弁してくれよ本当。喧嘩なら他所でやってくれ他所で。


上を見上げて慌てふためくシロゲ達の真後ろに、派手な地響きを立てて落ちてきたのはギザギザ牙のドデカイ魚。身体のそこかしこに大穴を開けたそいつはひとしきりビッチと跳ねるとふわりと浮いて、哄笑をあげる鳥女に喰らいつかんと再びお空へ戻っていく。あの魚、食えるのかなー。あはははは。



「呆けている場合ですかクロネコ! 来ますよ! 前を見なさい!!!」


「なあ、使用人の嬢ちゃん達よ。俺が請け負ったのはあくまで蛮族相手の助っ人護衛って話でな、化け物相手にドンパチやるなんざぁ契約外なんだが……帰っちゃ駄目か?」


「この土壇場で逃げてみなさいよ人攫い! その時はアンタが化け物に殺される前に、私がこの短剣でもって喉を掻き切ってやるわ!!!」



思わず遠くを見つめてしまったアタイの意識を、マリベルの姉御からの叱咤の声が引き戻す。ビクリと震えながら細くなった目を慌てて見開き、咄嗟に身構えたその刹那。土にまみれた天幕の残骸を突き破って吹き飛ばし、ハサミを振り回しながら姿を現したのは、見上げんばかりの巨大なサソリ。


ギンギラと、如何にも固そうな甲羅をピカピカとお日様に反射させるサソリ野郎は、その落ち窪んだ目でアタイ達をグルリと一周見定めて、そして大きな尾を振り上げながらガオォォォォォォン! と一つ、アタイ達を脅かすように吠えてみせる。サソリって吠えるのか、アタイ初めて知ったわ。



「ふん! キルエリッヒお嬢様の御身を守りに行きたいのはやまやまですが、これもお嬢様からのご指示です! マッドハットのご子息に猫耳ちゃん達! 守ってあげますから下がってなさい!!!」



姿勢を低くして一歩を踏み出し、そう叫んで身を翻したのは、ドーマウス家のシャリイの姉ちゃん。くるりと回ったお仕着せに合わせて放たれた短剣はサソリの頭部へと吸い込まれ、しかしあえなく弾かれたそれはカツンカツンッ! っと甲高い音を響かせて転がると、邪魔だとばかりに振り払われる。



「無駄撃ちしてんじゃねえよ嬢ちゃん! 関節だ! 甲羅の継ぎ目を狙え!!!」


「っちぃ! 人攫い! お前が私に指図をするんじゃあ……! っく!?」


「二人共! いがみ合いは生き残った後にして頂戴! クロネコ!!! 坊ちゃまの事は任せましたよ!!!」



さっきのお返しだとばかり、ハサミをジョキジョキ鳴らしながら突っ込んできた巨大なサソリの大振りが、シャリイの姉ちゃん目掛けて襲い掛かる。思わず目を塞ぎかけたアタイの前で、姉ちゃんはまるで軽業師のようにそのハサミに乗っかると、宙に飛び上がって身を捻りながら、二発三発と再び短剣を放ってみせた。


今度はハサミの付け根に突き刺さったその短剣を、大きく踏み込んだマリベルの姉御がメイスで以って、金槌の如くぶっ叩いてさらに押し込む。しかし根元を潰されてダラリと垂れ下がった自慢のハサミに堪えかねたか、尾を振り回して低く唸った大サソリが狙いをつけたは、渾身の一撃を叩きこんで隙を晒した姉御の姿。


アタイもすかさず懐に手を突っ込んで礫を握るも、こんな石っころでどうにか出来るわけもない。眉根を寄せて唇を噛むアタイの前で、巨大な毒針は無慈悲にも振り下ろされて……そしてそれは、飛び込んできた人攫い野郎の曲刀によって切り払われるとポーンと飛んで、銀色の血煙を撒き散らしながらアタイの目の前にドスリと落ちた。



「ヒュウッ! なんとも度胸のある嬢ちゃん達だぜ、ったく! どうだい? 王都に行きつけの良い店があるんだ。この遠征が終わったら三人でゆっくりと、大人の時間と洒落込まねえかい?」


「酒瓶だけ貰っておいてあげますよ、人攫い! もちろんアンタのおごりでね!」


「生憎と、嬢ちゃんと呼ばれるような年でもありません。しかしまあ、我が家のお抱え傭兵達も一緒に飲み食いさせてくれるというのであれば、考えてあげなくもないですね。」


「ッチ、つれねえなあ。それじゃあせめて、人攫いじゃなくて名で呼んじゃあくれねえかい? 俺にはサソリのバラッドっていう、立派な通り名があるんだからよ!」



三人が軽口を叩く間にも、大サソリは脚をガシャガシャと蠢かせて暴れに暴れ、千切れた尾を振り回す。叩きつけられたその一撃を姉御の鉄盾が弾いて逸らし、シャリイの姉ちゃんが脚の継ぎ目に短剣を突き立てて動きを妨げ、動きの鈍ったその一本を、再び人攫い野郎の一閃が切り飛ばした。


けれども、大サソリの動きはまるで鈍った様子が無い。既に身体のあちこちから銀色の体液を垂れ流し、尻尾もハサミも半欠けなのに、コイツ逃げようとする素振りすらみせないのだ。その不死身っぷりは、先日にあの鳥女とやり合って無茶苦茶をやった、ギンの姿を連想させる。


やっぱりこの化け物連中、ギンの見せてくれた、あの変な狼みたいな奴らなんじゃあないだろうか。でもそれなら何で、それがアタイ達を襲ってくるんだ? この大サソリからも、ギンの匂いと気配を感じることが出来るのに……。いや、もしかして…………逆、なのか? 



「クロネコ! 皆が稼いでくれている貴重な時間です! とにかく一か八か、兵の皆さん方を信じて後方に!!!」


「おやびーん! 早く! 早く逃げないと死んじゃいますぅ!!!」


「にゃ~! こ、こんな事なら死んじゃう前に、お屋敷でもっとつまみ食いしておくんでしたぁ!!!」


「腕、疲れた~。」


「だから若様もお前らも黙ってろい! どこもかしこもバケモンだらけだ! 下手に動き回っちまうよりもこのまま此処で粘ってれば、ひょっとしたらギンの奴が助けに来てくれるかもしんねーだろう!? ってうわぁっ!!?」



癇癪を起こしたアタイがみっともなく喚き散らしたその瞬間。後ろで辛うじて生き残っていた陣幕が吹っ飛ばされて、鼻息を荒げながら姿を現したのはこれまた巨大な銀のイノシシ。


そいつは両の牙に引っかけた、目を回したドワーフの爺さんとエルフの兄ちゃんをポイと放ると、その赤黒い大きな目玉でジロリジロリと意地悪そうに、アタイ達のことを睨んでみせる。


……参ったねこりゃ。前門のサソリ後門のイノシシと来たもんで、辛うじて残っていたかもしれない退路すら塞がれちまってニッチもサッチも。いや、アタイがもっと早く決断をしていたのなら、あるいは何かが違っただろうか?



「ちょっとサソリ男! あんた同じサソリでしょう!? 同類のよしみでなんとかしなさいよ! って!? きゃあぁぁぁぁっ!!?」


「おい嬢ちゃん!? あ~、チックショウ! やっぱりさっさと荷物を纏めてトンズラしときゃあ……っぐっが!!?」



悪い事は続くもんで、アタイの足元に転がるデッカイ毒針が銀の煙となって溶け散ったかと思ってみれば、ぐにゃりと歪んで渦巻くそれは、みるみるうちに新たな尾に、脚に、ハサミになって、大サソリの欠けた身体を塞いでいく。


その異様な様を前にして、呆気にとられたのはアタイだけでは無かったらしい。驚愕に脚を止めてしまった隙を突かれ、巨大なハサミに捕らえられて宙に持ち上げられちまったのはシャリイの姉ちゃん。そのまま強く締め上げられた姉ちゃんはカハリと一つ息を吐き、そのままグッタリと動かなくなってしまう。


そしてそれに気を取られた人攫い野郎も、次の瞬間には長い尾にぶっぱらわれて折り重なった陣幕の中に突っ込むと、そのまま気絶でもしちまったのか、這い出てくること無く静かになった。



「シャリイ!? バラッド!? っち、化け物め……。ですが私とて、元傭兵としての矜持があります! 例え先に見えているものが死であろうとも、請け負った仕事は最後まで、全うさせて頂きますよ!」



残されたマリベルの姉御がメイスで以って、未だシャリイの姉ちゃんを挟み込んだままの大バサミをガシン! と強く殴りつける。けれでも相手は碌に攻撃の通じない不死身の化け物。最早そんな抵抗でどうにかなるものでも無く、捕らえた姉ちゃんを放り出した化け物は、その大きな図体でもって姉御の身体に覆い被さり……。


そして次の瞬間、再び空から降ってきた槍羽根の一発がサソリの背中に突き刺さり、銀の怪物を爆散させた。ハサミがもげて尾は千切れ、割れた甲羅からドブりと体液が溢れ出す。それは吹き荒れる暴風に乗って方々をべしゃりと汚し、そして姉御の使っていた鉄盾もまた、風に煽られて宙を舞うと、怪物の残骸の上にガランと落ちた。



あまりの事に目を瞬きながら、呆然と立ち竦むアタイ達の足元へ、姉御の振るっていた鋼のメイスがコロリコロリと転がってくる。


……正直に言えば、アタイは姉御のことは好きじゃあなかった。お屋敷では何かにつけて、アタイ達を躾けのなっていない野良猫だと叱ってきたし、そういう時は大体にして、日が暮れるまで礼儀作法の訓練をやらされるのだ。


でもその最後には、内緒だと言いながらこっそりとお菓子をくれた。アタイは姉御のことは好きじゃあない。でも嫌いでもない。ましてや居なくなって欲しいだなんて思った事は、ただの一度も有りはしない。



重いメイスを拾い上げて不格好に振りかぶり、残った怪物、背後のイノシシに向かって突きつける。これでもう、若様を守ってあげられるのはアタイ達だけ。


でも、今更アタイに何が出来るんだろうか。怪物と戦うどころか姉御の遺してくれたメイス一つ、無様によろけてしまって碌に持てないこのアタイに。



物心ついてこのかたというもの、泥水を啜り寒さに震え、何度も死にそうになりながら生きてきた。だから何となく、今回も生き延びられるんじゃないだろうかと心のどこかで思っていたけど、でもそれは所詮、儚い願望であったらしい。


理不尽に訪れた姉御の最後を目の当たりにして、アタイはそれを思い知った。今日ここで、アタイ達は死ぬ。



あーあ……。短い幸せだったよ、ホント。せっかくギンのおかげもあって、ゴミ溜めの中から人生の花道を掴み取ったと思ったのになあ。


さて、曲がりなりにもこの場で戦って死ぬか、逃げ出して追いつかれて死ぬか、どっちが楽に死ねるかな。どっちにしても、生きたまま食われるのだけは勘弁して貰いたいけれど。



「……クロネコ。この銀の怪物たちによる大混乱、私としてはノマさんの身に何らかの異変が起きた事により、彼女の力が暴走しているのでは無いかと勘ぐるところではあるのですが……彼女の友人として、貴方はどう考えますか?」


「……ルミアン様、アタイは逆さ。確かにコイツらからはギンの匂いがするんだけどさ、でも、こうも思うんだ。コイツらがギンと同じなんじゃあ無くて、()()()()()()()()()()なんじゃあないかってさ。」


「…………なるほど。確かにあの踊るフルート吹きを名乗る化け物は、ノマさんにとてもよく似ています。そしてその化け物を遣わしたという、魔人ノスフェラトゥなる存在……。残念です。間違いなく、これから王国を脅かす事になるであろうその脅威を、父上に伝えられない事が無念でなりません。」



トンッ。っと、シロゲ達の組む騎馬の上から飛び降りた彼はそう言うと、アタイ達を押し退けながらイノシシの前に立ち塞がって、腰に吊るした細剣をスルリと抜いた。おい、何してんだよ若様。それはアタイの仕事だ。死ぬのは、アタイが先だ。



「にゃ~! 駄目です若様ぁ! 早く私達の後ろに下がって……ふにっ!?」


「な、何してるの若様! 死んじゃう! 死んじゃうってばぁ!!!」


「若様?」



肩に手をかけようとしたシロゲの腕を、彼は目もくれないままにパシリと払う。突然のことにビクリと手を引っ込めて固まるシロゲに、目を丸くするチャトラとトビ。まあそりゃあそうだろう。軽くとはいえ、彼がアタイ達に手をあげたのはこれが初めての事なのだ。あいつらが驚くのも無理は無い。


アタイはといえばそんな彼の格好つけを無視するように、メイスを引きずりながら彼の隣に並び立つとその泣きそうな顔をパチンと叩き、それからジトリと軽く、半眼で以って睨んでやった。



「ごめん、皆。でも最後の時くらい、恰好をつけさせてくれませんか。」


「……だせーよ、若様。ガタガタ震えてるじゃねーか。アタイ達は使用人で、曲がりなりにも若様の護衛なんだ。それが主に守ってもらったなんてあっちゃあ、アッチで姉御に叱られちまう。」


「……貴方だって、震えてるじゃあないですか、クロネコ。ここは私に任せて、貴方達は少しでも遠くへ……。」


「だからどこにも逃げ場なんて無いっつってんだろ! なに意地になってんだよ!? 大体な、もしその隙があるんだったら逃げなきゃいけないのはアンタのほうだ! アタイ達が喰われてる間にな! それがアンタの責務ってもんだろう!!?」


「貴方の言うとおり、本当であれば貴方達を囮にして逃げ出して、僅かな望みに賭けてでも再起を図るのがきっと……正しいのでしょうね。」


「だったら……っ!」


「でもっ! しょうがないじゃないですか!!! だって好きになってしまったんです!!! 好きな女の子を守るのも!!! それも男の責務なんですっ!!!!!」



顔を真っ赤にして肩を震わせ、情けなく裏返った声で必死に叫ぶ、小さく華奢なアタイのご主人。その告白を前にアタイは一瞬ポカンと呆けて、それから可笑しくなって堪らなくなり、彼のちょっとゴツゴツとした男の子の手を、左手の先でキュっと握った。


アタイに続いてシロゲ達三人も、おずおずと腕を差し出してその上に手のひらを重ねていき、それから額同士をコツンと当てて、互いに最後の別れを告げる。



「なあ、ルミアン様。今までどうしようもない生き方をしてきたアタイ達だけどさ、もし天国って場所に一緒に行けたら、さっきの言葉、もう一回聞かせてくれないかな?」



囁いたアタイの言葉に、彼はちょっとだけはにかんで口を動かし……けれどもその返事は残念ながら、地響きと共に突っ込んでくる大イノシシの金切り声にかき消されて、耳にする事は出来なかった。


迫る銀色の山は瞬く間に視界一杯に広がって、それからアタイ達は思いのほかブニっとしたイノシシの鼻に掬い上げられると、そのまま放り投げられて宙を舞い、クルクルと回る視界の中で、アタイの意識は真っ暗に沈んで遠くなって……そして……。



そして、自分が泣いている事に気づいたその瞬間。アタイはモフモフしたタテガミみたいなものの上にボフンと落ちて、それきり何も、見えなくなった。





全滅しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] フルート吹きちゃんはちゃんとお使いできてえらいねぇ〜〜〜
[一言] これは混沌様の使徒ですわ
[良い点] 何が酷いってこの場にいる人間の心配とか不安とか絶望が全部杞憂でしかもこの地獄絵図の元凶は本当に何も考えず軽い気持ちでこれを作り出したであろうことだよ…… あ、イツマデはいい感じにイキってる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ