エンドネス・ワルツ
変形合体。
ロボットアニメでは結構見る機会があるらしいが、あまり詳しくない俺は「現実じゃ出来ないだろ」とか雑に考えていた。
そして今、俺は手動で合体を行なっている。
「エイジーと分担しているとはいえ、設計図通りに変化させるのはハードル高い……」
「意識を研ぎ澄ましてください。弱音を吐かずに」
「スパルタだな……?」
ルフランが、大量のパーツに分離。ダクディーバを中心として、グラシャライがそれを包み込むような完成図であるわけだが、これがかなりの難しさである。
グラシャライと感覚をリンクさせ、自分の手足のように動かす。だけどそれは、突然魚になったのでその感覚に合わせてくださいと言っているのと同じ……そう。人間とは、感覚が違いすぎる。
「ほらほら。さっきの啖呵、私から見てもかーなーりカッコ良かったんだから。そのままじゃ情けないよ?」
「……手伝ってくれてありがとうな。姫花」
姫花は、基本的に何かあったらプリワズの力で修正してくれている。
基本ミスするのは俺だから、俺の尻拭い担当みたいになっている……申し訳ない。
「……頑張れ。ダーリン」
それは、誰の声だっただろうか。
ただの過去か、それとも幻想だったのか。今の俺にとっては、もう忘れてしまった方がいい記憶かもしれない。
「忘れない。幻想だとしても、俺は俺が愛し愛してくれたものを絶対に忘れる事はしない」
応援の御蔭か、それとも偶然か。順調に三機は結合され、後は仕上げだけの段階に入った。
グラシャライが再び装甲を生み出し、残った部分でダクディーバの武器を変形強化。三つのコックピットは並び、同じ方向を向くようになった。
「「「《融合大厄災》」」」
俺たちの戦いに、明確な正義と悪は存在しない。
故にこの合体は、意志達の災害に等しい。
「「「グラジルフラススペディーバ‼︎」」」
威風堂々、無敵。
それを、この機体は形容している。
動かそうとすると、まず宙に浮く。どうやら、浮遊能力もこれまでとは一線を画すようだ。制限なしで、自由に飛び回れる。これもまた、慣れない感覚を要求してるけど。
動かす感覚が、いつもより怖い。今までは感じなかった圧倒的な強さというものを、これは内包しているらしい。
「……行くぞ」
「「……了解‼︎」」
この機体がどれだけの強さなのか。試しにと、ダクソードを強化したエンドオブソードを右手で握る。
少し装飾が増え、これまた少し大きくなった。ただ、それだけのはずなのに……扱うのが少し怖くなるほど、壮大な強さを感じさせる。
「まずはあの、厄介な結界を破壊しましょう」
エイジーの指示に従い、操作する。三人での操作が必要らしく、今普通に動かせてるのが奇跡な程だ。
ダクソード改め、エンドオブソードを握り、試し切りの感覚でビームの斬撃を放つ。
結界が、壊れた。しかも完全崩壊。
「これはまた……とんでもないですね」
「まさか、ここまでとは思ってなかったな〜。でも、これだったらいけるんじゃ?」
グラジルフラススペディーバ、略してグラスペはギャッシャスを警戒しつつ浮遊で接近。
さっきまで結界があった範囲に突入した途端、ギャッシャスは二本足で立ち上がり、さっきまで足として使っていた場所から爪が生えてきた。
「そんな使い分けありかよ⁉︎」
「フハハハハハハ‼︎ ギャッシャスはここからが本番というわけですよ。そんな小賢しい合体などに、このギャッシャスは負けません‼︎」
小賢しい合体ってなんだよ。
そのツッコミは置いとくとしても、どうやらこれまでのは遠距離主体。近距離はさっき見せてくれなかったらしい。
ギャッシャスはグラスペにかなりのスピードで接近。体当たりでぶつかるが、コックピットは一切揺れなかった。
「壁のような硬さだな。こりゃ凄い」
ギャッシャスも伊達じゃなく、巨体のまま化け物じみた高速移動でこちらへと攻撃。推定音速を超えているとエイジーが言っているが、全くそんな気はしない。
なぜなら、こちらもそのくらいの速さだからだ。
というか、それより少し早いかもしれない。ギャッシャスは、結界が無くなってあらゆる地点から俺たちに流星攻撃を浴びせ続けてるが、それを全て回避した上で、ギャッシャスの攻撃を受け流している。
でもこれでは埒が明かないので、エンドオブミサイルで一旦蹴散らすだけ蹴散らす。
「「「エンドオブバスターガン‼︎」」」
正確に、ギャッシャスの爪を破壊する。グラスペではほとんど効かないだろうけど、念には念だ。
「エンドオブアックス‼︎」
ギャッシャスが反撃に光線を放とうとする。いや、実際に放たれはした。ほぼノータイム発射だったが、エンドオブアックスで軽々凌いだ。
さっきまではかなりの脅威だった光線も、防がなくても効かなかったかもしれない。
「貴方達、見た感じ三人で息を合わせて動かさなければいけない機体でしょう。動きで分かる……ですが、何故バラバラのままなのにそこまで強い⁉︎」
「ゼルは、永遠。フィシュは……」
「刹那だよ。だけど、刹那主義と言われるとちょっと違う。人の短い命にこそ幸せがあるって考え」
アラベスクに言われた通りだ。永遠と刹那という二つは、あまりにも相容れない。もっと恨みあっててもおかしくはないだろう。
こういう思想に、正反対だからこそ〜もないだろうし。
「「……愛音は?」」
「昔は、永遠だった。いじめられてた頃は、永遠の時間があればいつか救われるのかもって思ってた。彼女が出来てからは、この時間が永遠に続けばいいのに。とも」
「だったら、刹那ですか?」
「それも違う。そもそも、人の幸せはそんな極端ではないし、単純でもない。人の数だけ、幸せはある」
「それは……世界は、複雑なんて許しちゃくれないよ。逃げてもいつかは選択の時が来るし、どちらも取るなんて不可能。どちらかを、選ぶしかないんだよ……‼︎」
フィシュに詰め寄られている。どうやら、取り乱しているよう。夢見過ぎ、という話だろう。
「……やっぱ、バラバラだな」
「それは……その通りですね」
「そうだね。こんなんだから、仲良くなれない。ま、私に関しては自虐だけどね‼︎」
さっきの場所は、俺達の意識の中だろう。
合体しているからなのか、妙に精神的な方面でもユニオンしている気がする。
さてと、さっきの返事はしておかないとな。
「バラバラだからこそ、合わさった時の力は……」
「「「更に、強くなる‼︎」」」
衝撃波だけで、大きくギャッシャスを吹き飛ばす。
アラベスクは、何かでくっついているのかずっとギャッシャスにくっついている……何が、彼をここまでさせるのだろうか。
もっと別の場所から煽るとか出来ただろ。
「理解できませんね……そもそも、合体という行為そのものがナンセンスです。協力は大事と人は言いますが、その愚行の最終形が合体ですよ」
「協力が……愚行?」
もっとツッコミしたいところではあるが、個人的に一番重要そうな箇所だけぶつけておこう。
協力は大事。それはある程度別の生物でも通ずるところがあると思っていたから、何か《ティンプルノイザ》とやらに繋がるのがあるかもしれない。
「そうです。基本私たちの種族も協力は基本ですが、私はそんなもの根っからの逆張り主義なのでね。そういうのが大嫌いなんですよ‼︎」
重要な情報はほぼ無かったな。アラベスクが異常なんだなという事以外。というか、それも正直大した情報でもないし……ほぼ成果なしか。
「でもお前も受けてみただろ? これが、協力だ」
「黙れ……‼︎」
思ってた三倍くらい沸点が低いな。
「しかし、残念だったな。ギャッシャスは、例え倒してもヤケクソで惑星を道連れにしていく」
「……は?」
「ギャッシャスは、倒されてすぐに自分の近くにある惑星の中心を丸ごと消し去る。つまり、今倒せば地球は道連れで消えるというわけです‼︎」
「なんだそのマジのヤケクソ仕様⁉︎」
あまりに理不尽な仕様だ……だけど、この道連れには致命的な部分がある。
それは——。
「このグラジルフラススペディーバなら‼︎」
そう。そもそもギャッシャスを倒せるほどの強さがあるのであれば、星消滅の対応が出来ない方が少ない。
「そう。だから……エンドオブブーメラン‼︎ そしてそのまま、エンドオブウィップ‼︎」
「このまま打ち上げます‼︎」
ウィップで空へと持ち上げ、そのまま胴体ごと大気圏を突破する。流星に関しては、エンドオブブーメランが蹴散らすまでもなく振り切った。
とりあえず、地球から遠ざける事には成功。
「月に近くなりましたが、月が突然消滅したら地球にもかなり影響ありますよ? それに、ここは宇宙。銀河を司る怪獣の、独壇場ですよ‼︎」
「知ってる。でもそれ、大海を知らないだろ?」
遥か遠くから来た本物の隕石が、ギャッシャスの力により分裂した上で更に強化されながら飛んでくる。
「今度は、手加減なしです‼︎」
グラスペの最高速は、音速をとっくに超えてその何十倍も速い隕石すらも置いていく。
光の速さとほぼ同じ……マッハ88で動いていた。
常識的に考えて、光速で動いてて死なないのは、どうやらグラシャライには元から『レナーシャル・コントロール・システム』が搭載されてるらしい。
それでもかなり無茶しているのか、全身が悲鳴を上げてる。
長時間戦闘は無理だな、これ。
「貴方達、ギャッシャスがそのまま終わると思うか⁉︎」
「思う。だって、このまま終わらせるから‼︎」
衝撃波で流星を跳ね除けながら、胸部にエネルギーを収縮。迎え撃つ気なのか、怪獣もこれまで以上のエネルギーを口部に収縮していた。
余裕のないアラベスクの顔がよく見える。
「何故だ。何故貴方達は戦う⁉︎」
「永遠だ。奪ってしまった命の為、もっと多くの命を救いたい。もう二度と何も失う事がない世界にする‼︎」
「刹那。生きていても、どこかで不幸が生まれる。だから一瞬でもいいから刹那に生きてその時死にたい」
「俺は、エンドやエンドレスを超えた、新しい幸せの形……そんな未来を掴みたい‼︎」
「そうか。ならば、全て滅びてしまえ‼︎」
「「「フィーネグラジフラッシュ‼︎」」」
怪獣が放った光線を瞬きの間に消し去り、邪魔な隕石ごと怪獣を遥か遠くの銀河へと消し飛ばした。飛ばしすぎたのか、爆発の音すら聞こえなかった。太陽系の外で小惑星と共に爆発した、とエイジーが報告した。
戦いが終わった途端、宇宙の静かさを感じるようになった。眺めていると綺麗に思えるが、ここまで広大だと少し孤独な海にいるみたいだ。
「……終わったな」
「ですが、一瞬でしたがアラベスクが逃げるような動きをしていました。まだ、戦いは待ってます」
「そうだよ。私達も本来敵……終わりは終わりでも、これは終わりの始まりってやつだね」
ゆっくりと大気圏に突入していく。
言われてみれば、ようやくスタートラインに立ったのかもしれない。ここまで激しい戦いはもう懲り懲りだが、少なくとも苛烈を極める戦いになるだろう。
地上に降り立った俺たちは、とっとと合体を解除させた上で今日は解散した。
三人とも、全身筋肉痛だ。
一週間経っても、筋肉痛は未だに消えてない。
その代わりに怪獣の襲撃がないから助かってる……いや十中八九フィシュも筋肉痛だからだろうけど。
「あ、愛兄さん……筋肉痛はどうですか?」
「体感だと、もうちょっと。具体的に言うと、あと三日くらいかな。ゼルの方はもうほぼ回復してるらしいから、俺もとっとと回復しないと」
「無茶だけはしないでくださいね? そうやってこれ以上壊したら、大変なの姉さんとかなんですから」
この一週間、基本アリアスが付きっきりで看護してくれていた。
「……心配してくれてありがとな」
ルイスも、所々手伝ってくれていた。ゼルは一人でなんとかやってるらしいから、正直少し申し訳なかった。
「……愛兄さんは、姉さんの事大切ですか?」
「アリアスやリーリの明るさにはいつも救われてる。少なくとも、今生きてる中での優先順位では高めだな。正味皆んな大事だけど……って、突然どうした?」
「別に。貴方は、これからも姉さん達の為に戦える? 残酷な運命しか待ってなかったとしても?」
「だとしても……俺は、突き進む」
「……そう」
何か満足したのか、ルイスは微かに微笑みながらゆっくりと歩き始めた……拠点とは逆方面に。
「どっか行くのか? 一人で行くと危ないから、俺とか誰かが付いて行った方がいいと思うが」
「ちょっとした散歩だよ。すぐに戻る」
「……そうか」
その後、ルイスが拠点へ帰ってくることはなかった。
既に、位置は悟っている。
幻惑に包まれ封鎖された扉を強制的にこじ開け、階段をゆっくりと降りていく。
階段を抜けた先にあったのは、冥府のような世界。灼熱の大地に、業火が至る所で咲いている。私は、そこの中央にある玉座のような椅子の内の一つに座る。
「人間ごっこは終わりですか?」
「そろそろ、私も動かないといけない時期だろう。お前が勝手に動いたせいで、盤面がぐちゃぐちゃだ」
「そろそろ、我の出番か」
「ふっ……楽しみだ‼︎」
「アーベントもゴスペルも、元気そうで良かったよ」
四つの玉座に、それぞれが座る。座り心地に関しては、人間の拠点にあった椅子の方が遥かに良かったが……まあ、それは仕方ない。
ふと、遠くから視線を感じる。
「後ろからずっと付き纏ってたのか。私相手に、バレないとでも思ったか? 裏切り者」
「……流石にバレるか」
階段の影から、エンドがゆっくりと現れた。
《ティンプルノイザ》は、巨人の生き残り五人組の組織だ。それなのに裏切ってエンドとかふざけた名前を名乗っているのが、そこにいる奴だ。
「いや、やっと本性表したんだな……とね。ずっと愛音とやらの後ろに隠れて、人間に紛れ込むとは。それも、他人の妹を語るとは」
「本性はまだ出してない……無断で出てったからな。あと、妹生活は案外楽しかったぞ?」
「下衆だな。ルイスという気味の悪い仮面を被ったままの方がまだマシだったな……セプシャライ」
そう。私の名前は、ルイスじゃなくセプシャライ。
《ティンプルノイザ》の、所謂トップ。
「今日はまだ、見逃してやろうか?」
「……そうだな。流石に四対一は無理だ。今日はありがたく逃げさせてもらう」
エンドは、思ったよりあっさり帰った。
「……良かったのか?」
「大丈夫だ。どうせここからが本番だ」
私たちの敵は、エンドとフィシュの怪獣陣営。愛音とゼル……そして姉さんのグラシャライ陣営の二つとなる。
「さあ……私たちの物語を始めよう」
コンチェルト・フィナーレにおける前半戦がこれで終わりとなりました。それはそれとして、ギャッシャスvsグラスペはこのRecordにおける最大の戦いです。これ以上のインフレはこのRecord内ではあまりません。




