第9話 圧倒的なレベリング
木目の天井――見慣れたシミ。
俺は……死んだのか……。
パーティー編成していたため、
スターナとリリムも自宅のシングルベッドの上でリスポーンしていた。
一瞬だった……あの、黒い騎士が剣を振るったところまでは覚えているが……。
「うわーん、体が痛いよー!」
リリムが、デスペナルティの筋肉痛で泣き叫ぶ。
スターナは体を震わせてベッドで丸くなっていた。
……負けイベントだったのか?
訳がわからない。
「スターナ、大丈夫だよ。俺がそばにいるから」
スターナの頭を撫でてやる。
「ちょっと、リリムにも、よしよししてよ!」
赤毛のサイドテールを揺らしながら、リリムが頭を差し出す。
「はいはい、よしよし」
「言葉だけじゃなくて、撫でてよね!」
「それだけはしゃげれば、よしよしはいらないだろ」
デスペナルティが筋肉痛だけってのも意味不明だな。
俺は、リリムの太ももを掴む。
「痛ったー! やめてくれー!
リリムを虐めるなー!」
「そんだけ、騒げりゃ元気だな」
「イヤだー! 撫でろー!」
はぁ……ったく。
仕方なくリリムの頭も、くしゃくしゃに撫でてやる。
「むぎゃー、やめれー!」
❇
節々の痛みも相まって、ベッドから起きる気になれなかった。
「ただいまー!」
窓が茜色に染まる頃、
一階からアーシャさんの声が響く。
足音はそのまま二階へと向かってきた。
「みんな、大丈夫だった?」
「ママ!」
スターナがベッドから飛び起き、
アーシャさんに抱きつく。
「スタちゃん、怖かったわね」
これは、チャンス!
「ママっ!」
俺も、どさくさに紛れてアーシャさんに抱きつく。
「あらあら」
「おいっ、ダイチ! ママから離れろ!」
スターナからどすの利いた低い声が飛ぶ。
「ママー!」
リリムもベッドから起き上がり、
アーシャさんに抱きつこうとする。
「ふげっ!」
とっさに俺は足をかけ、リリムを転ばせる。
「お前にアーシャさんのわがままボディは渡さない!」
主人公なら絶対に吐かないであろう台詞を、床で悶絶しているリリムに浴びせる。
「よくもやったな! 死ねっ!」
「ぎゃあああ!」
リリムの千年殺しが俺の尻に突き刺さる。
クリティカルヒット――532ダメージ。
自分の絶叫を聞きながら、俺は再び死を迎える。
リスポーンしてベッドから起き上がると、既にリリムがアーシャさんに抱きついていた。
クソガキめ!
俺が臨戦態勢をとると、
アーシャさんの声が静かに響く。
「皆さんに話があります」
❇
一階の狭いリビングで、白樺のテーブルを四人で囲む。
「みんな、先日――ガルデルド帝国十騎士の襲撃がありました。1年3組と5組の生徒の大半は死にました……」
えっ! 死んだ!?
「リスポーンはしなかったのか?」
「ええ、ストーリーイベントで死んだ者は蘇りません」
アーシャさん……シリアス展開なのに、
メタい発言のせいで台無しだ。
ストーリー上で死ぬことが約束されているキャラはどう足掻いても蘇らないということか……。
これは想像以上に重い。
バルデルド・オンラインは元々ダークファンタジーを謳っていた。バグのせいでギャグっぽくなっているが、ストーリー設定はかなり重めということか。
「黒騎士の目的は何だったの?」
スターナの声は震えていた。
俺はそっと、スターナの手を握ってあげる。
彼女と一瞬、目が合い――なぜか逸らされた。
「襲撃時に、我がアルスタイン王国のナージャ姫が攫われました……」
なるほど、読めてきた。
ここから姫君を救うために、
俺たちは外の世界に冒険に出るのか。
「私の所属しているギルド長が、姫様の救出遠征部隊の隊長に任命されたの。明日、遠征部隊の選抜試験があるから……メノウ魔法学園の生徒も参加せよとの通達がきているわ」
てか、アーシャさん……ギルドに所属しているのか。
アーシャさんのステータスバーを閲覧する。
――レベル32!?
めちゃくちゃ強いじゃないか!
「みんな……死んだのか……」
リリムの声がかすかに震えていた。
「生存者も全員は把握できていないの……
みんな、怖いなら行かなくてもいいのよ」
「ママ……私、行くわ……みんなの仇を討つから」
正直、俺は行きたくない。
あの黒騎士――レベル152とか、バランスおかしいもん。
それに、まともに交流していなかったせいで、クラスメイトのこともよく知らないし、王女様なんて見たことすらない。
姫様は可愛いか……そして、ヒロイン攻略としてのルートが存在するかが肝だな。
❇
翌朝、俺たち三人の足取りは重かった。
理由はそれぞれ異なるだろうが……。
メノウ魔法学園に到着すると、さっそくストーリーが進行する。
【チャプター1-3 遠征試験】
メノウ魔法学園は6学年各1組〜6組。
総勢360名が在籍している。
校庭に全生徒が集結していた。
昨日の襲撃での生存者は、1年3組はリリムだけ。
1年5組はわずか4名だった。
「ダイチ……お前も生き残っていたのか……」
流れるような金髪に切れ目の青年が、
俺に話しかけてきた。
「お前、誰?」
「ぼ、僕はライドウだよ!
キミのライバルポジションで親友の……」
「ああ、チュートリアルで戦った奴か……」
世界観台無しのメタい会話が飛び交う。
親友になる展開とか無かっただろ……。
制作陣め薄いストーリー作りやがって。
「魔術師見習いの諸君……本日はよく、集まってくれた! 我が名はカーリン、遠征部隊の隊長を務めさせていただく。
仲間の死を悼む時間はない!
明朝、攫われたナージャ王女の救出に向かう!」
長い銀髪をなびかせ、隻眼の男が前で演説を始めた。
「ただし、足手まといはいらない。
腰抜けと弱者は、王女を守れずに死んだ魔術師を弔ってやるといい。
今日は、一人ずつ私と模擬戦をしてもらう。殺す気で来い。私に認められた者だけ、遠征の同行を許可しよう!」
カーリンの言葉に、明らかに空気がピリつく。
こいつ憎まれキャラか?
……そんなことより、一つ気になることがある。
全生徒と1対1の模擬戦?
待て待て、何時間いや……何日かかるんだよ!
「では、誰から私と戦う?」
男の問い、場は静まり返る。
誰一人……手を挙げない。
「どうした、腰抜け共……全員不合格か?」
カーリンが煽る中、俺は静かに手を挙げた。
「おっ、少しは骨のある奴がいるじゃないか。
それともただの馬鹿か?」
俺は別にカーリンに苛ついているわけじゃないし、嫌いでもない。
戦う理由は……早く家に帰りたいから。
生徒たちが道を開ける。
「ダイチ……大丈夫?」
スターナが泣きそうな顔をしている。
「ああ、問題ねえよ」
俺はカーリンのステータスを確認して、勝利を確信する。
【カーリン】
レベル115
HP1259 МP57563
物理15 魔法2596
防御56 速度23
【俺】
レベル6
HP325 МP69
物理82 魔法13
防御15 速度28
「さあ、来るがいい!」
カーリンは灰色のローブを揺らし、
余裕の表情で白杖を構える。
俺は拳に力を込める。
「やばい! 黒騎士が出たぞ!」
俺は、カーリンの背後を指差す。
「なに!?」
カーリンは慌てて背後に杖を構える。
「ふ、かかったな! くらえヴィクトリースタンプ!」
俺はその隙に駆け、カーリンの背中にドロップキックを見舞う。
ちなみに、武術や剣技に関するスキルツリーは存在しない。しまらないので、技名をつけただけだ。「ぐわっ!」
――752ダメージ。
カーリンが吹っ飛ぶ。
「くそっ、騙し討ちとは卑怯な。
こうなったら特級魔法で塵にしてやろう。
青き海――白銀の袖――万ぶっふ!?」
俺は詠唱中のカーリンを押し倒し、馬乗りになる。
「黒騎士を前にしても、ちんたら詠唱しているのか?」
俺はトドメの一撃をカーリンの顔面に見舞う。
HPが0になり、カーリンが光の粒子となって霧散した。
おっ、レベルが56になった。
カーリン、経験値うまいな。
リスポーン地点を探し出して、もう、10回ぐらい周回するかな。
ビキッ――
突如、大気にヒビが入る。
【ミッション失敗】
あれ……なぜかレベルはそのままにイベントが失敗となった。
カーリンって、倒しちゃダメなの?
メノウ魔法学園に入る前に戻されていた。
もしかして……これ……レベリングに使えるんじゃないのか?
そう、思い立ってからは早かった。




