ナージャエンド
【コンティニュー】
風が死んでいた。
そこは寒さも、暑さも、湿度さえも感じない。
魔界――そこは世界の終焉を体現しているようだった。
「ダイチ様……本当によろしかったのですか?」
隣に座るナージャ王女……いや、魔王ナージャは黒いドレスを身にまとい、不安そうなまなざしで、
顔を伏せていた。
「結婚のことか?
ナージャこそ、こんな形で俺と無理矢理結婚させられるなんてな」
「そんなことありません……」
彼女の表情は魔界の空のように曇っていた。
ストーリー上の婚姻のせいかは分からないが、
互いの好感度は分からなかった。
物語に縛られた俺たちは魔界から出ることはできなかった。
魔剣ヨグ=ソードスでさえ、この現実を覆せない。
死ぬまで魔界で暮らさないといけない。
一瞬、別れ際に見たスターナの泣き顔が脳裏によぎる。
俺は慌てて頭を振りナージャに向き直る。
「ダイチ様……無理に私といなくてもいいのですよ。魔界で別々に暮らすこともできます。
そして、そこで《《本当の想い人》》と暮らしても……私は責めませんよ」
力なく笑う彼女の笑顔が、痛々しかった。
「俺はさ……ナージャ王女の笑った時に見える八重歯が好きだ」
「ダイチ様……」
「だから、俺がそばで一生笑わせてやる。
キミの笑顔は俺のものだ」
「ぷっ、ふふふ……そんな臭い台詞、似合いませんよ」
ようやく、彼女は笑ってくれた。
「悪かったな……ナージャ王女、あと噛みつきは禁止な」
「うっ……週一でもだめですか?」
「いや、多いよ。甘噛みくらいならいいけど」
「ええぇ……私、噛めないと笑えません」
「無茶苦茶言ってんな」
「ふ、冗談ですよ。ダイチ様……ここまで、私を本気にさせたんです。もう逃がしませんからね。
もし、逃げたら魔王の全権を駆使して大地の果てまで追っかけますから」
ナージャ王女はそう言って抱きついてきた。
カプッ!
そのまま胸に顔を埋め、服の上から噛み付いてきた。
ちゃんと手加減はしてくれているみたいだ。
俺は彼女の頭を優しく撫でた。
これから先、どうなるかは分からない。
それでも、婚姻の誓いを胸に誠実に生きようと思う。
この甘くも痛い彼女とともに。




