第75話 バトルロワイヤル
【チャプター8-2 王選】
【50年に一度の王を決める戦いが始まりました。100名の素養のある者が競い合い最後の一人になるまで王を目指してください。それでは転送を開始します!】
何の前置きもなく意味不明なログが流れる。
突如、俺の体が青い光に包まれ、転送された。
周囲を迷宮のように白い岩壁が囲い、空は紫電と曇天が立ち込めていた。
……この空、魔界か?
なんで、魔界で王選?
わけがわからん。
「きゃぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁ!」
壁の向こうから、断末魔が響く。
なんだ……何がどうなっている。
【カルベラ脱落、クルフ脱落――残り98名】
謎のログが視界の右端に流れる。
これはあれだ、ゲームのバトルロワイヤルだ。
優勝した奴が王になるなんて、そんな適当な設定で良いのか?
それに、相変わらず脈絡のないストーリー展開だ。
クラフト:物見櫓。
クラフト:監視ドローン。
俺は櫓の柵に身を潜め、クラフトした端末でドローンの映像を確認する。
別に王なんざ興味ないけどゲームと言われれば勝ちたい。唐突な展開にも関わらず、根っからのゲーマー魂がくすぐられる。
❇
レベル1の俺がバカ正直に戦ったって勝てる未来は見えない。
こうしている間にもあっという間にログが流れていく。
【――残り78名】
インベントリから出した蜜柑を食べながら、ドローンの映像を確認する。
あれは、ライドウとスターナ?
ガルデルド帝国にいても強制的に参戦させられるのか。
【戦闘形式・デュエル】
【スターナvsライドウ】
【どちらかのHPがゼロになるまで戦え】
ログが流れ、二人の戦闘が始まる。
「スターナさん……悪いけど、勝たせてもらうよ」
ライドウが火かき棒を構える。
「ライドウくん……私だって負けないから」
このドローン、えらく高性能だな。
二人の会話まで聞こえてくる。
スターナはガラス玉の指輪をかざす。
「見果てぬ夢八つの射手、弓を引き城を燃やせ!」
“ハシュトティール”
ライドウの詠唱で八つの巨大な炎が渦巻き、スターナを呑み込もうと迫る。
「崩壊の序曲を奏でよ!」
“タイラントフォール”
スターナが詠唱を終える――その時、空が落ちた。
見えない圧が炎を一瞬にして断絶した。
二人とも、ガチだな。
なんで、この急展開でその熱量で戦えるんだよ。
「まだまだ! 灼熱の息よ、大気を焼き尽くせ!」
“ヒートウェイブ”
ライドウが地面を火かき棒で叩くと、一瞬にして大地を灼熱が伝う。
「私の勝ちね!」
スターナが不敵な笑みを浮かべる。
「新星なる世界の始まり、創生の力を持って縛れ!」
“ステラ・ラピス”
……なんだ、空に黒い球体が浮遊する。
「うわっ!?」
突如、ライドウの体が宙に浮く……いや、地を這う炎でさえも球体に吸い込まれていく。
「ぐわぁぁぁ、熱い!」
黒い球体は太陽の如く燃え上がり、引き寄せたライドウごと焼き尽くす。
「ライドウくん。こうするしかなかったの」
スターナは悲劇のヒロイン感満載に燃えるライドウから目を背けた。
――ライドウ脱落。
ログとともにライドウが倒された。
❇
残り人数は既に半分を切った。
無数のドローンの画面を切り替えていると、
今度は、カーリンとアーシャさんの前に、おっさんとロザリアちゃんが立ち塞がっていた。
てか、ガルデルド帝国の勢力も参戦しているのか。
この王選って、いったいなんなんだ。
【戦闘形式・愛詩】
【アーシャ&カーリンvsオルヴィエート&ロザリアのタッグ戦。互いに、パートナーへの愛を述べよ。好感度の増減値の合計によって勝敗が決まる】
これ、試合形式って毎回違うのかよ……。
しかも、ルールを聞いてもさっぱり意味が分からん……なんだよ、愛詩って……。
【カーリンのターン】
「アーシャ……あんなことがあったが、俺はお前のみそ汁がまた食べたい……」
カーリンはアーシャさんの肩を掴み、吐息を交えて囁く。
アーシャさんはそっと、カーリンの手をのけた。
【アーシャからカーリンに対する好感度−15】
「な、何故だアーシャ……好感度が下がっているではないか!」
「すみません、カーリンさん。ちょっとキモかったので……それに、あなたとはもう終わった関係です」
アーシャの一言でカーリンが肩を落とす。
離婚したての元夫婦には分の悪い戦いだな。
てか、詩っていうぐらいだからポエムを喋るのかと思いきや好感度さえ上がればなんでもいいんだな。
【ロザリアのターン】
「オルヴィエートさん……あなたを愛しています。他に想い人がいてもいい。あなたのそばにいられれば……それで……」
うっ……ロザリアちゃん、なんて切ない告白なんだ。でも、そんなにおっさんのこと、そこまで好きだったんだな。
おっさんについて行くことを選んだ時点で薄々わかっていた。心の奥に少しだけ違和感を感じた。
【ロザリアからオルヴィエートに対する好感度、変動なし】
「そんな……」
ロザリアちゃんが膝から崩れ落ちる。
「いや、すまん……」
おっさんは気まずそうに頭をかく。
【アーシャのターン】
「ふぅ……カーリンさん。あなたとは夫婦としてはやっていけませんでしたが、ギルドマスターとしては尊敬しています」
「アーシャ……」
【カーリンからアーシャに対する好感度+50】
男ってどうしてこんなに単純なんだろうな。
好感度の数値を見て、つくづくそう思う。
【オルヴィエートのターン】
「うっ……俺っちの番か……」
戸惑うおっさんを、ロザリアちゃんは潤んだ瞳で見つめ、言葉を待つ。
――二人の視線が重なる。
「……」
【沈黙が続いたため、オルヴィエートは発言権を喪いました】
おっさんは何も言わない。
おい、それでも男かよ。おっさん!
女の子にここまで言わせておいて。
【ロザリアからオルヴィエートに対する好感度+60】
「おい、おかしいではないか!」
カーリンが声を荒げる。
俺も同意見だ。
「すみません……オルヴィエートさんに、そんなに見つめられたことなかったですから……」
目は口ほどに物を言うとはこのことなのか……いや、違う気がする。女も単純なんだと俺は前言撤回する。
【アーシャ&カーリンの総合好感度上昇値+35】
【オルヴィエート&ロザリアの総合好感度上昇値+60】
【オルヴィエート&ロザリアチームの勝利】
次の瞬間、アーシャとカーリンが青い光に包まれる。
【アーシャ脱落、カーリン脱落――残り25名】
よく分からなかったが、観戦している間に一気に人数が減ったな。
❇
おっ、こっちも知った顔がいるな。
端末でドローンの映像を切り替える。
【戦闘形式・チキチキ料理対決】
【シルヴィア&メルフィーvsリリム&レメリア】
今度も2vs2形式か……。
【審査員ミスティの舌を唸らせろ】
審査員枠までいるのかよ……本当になんなんだよ、この王選は……。
各自、インベントリに入っている食材のみで調理を始めた。
これ、食材を持っていなかったら確実に詰んでいたな。
「おい、メルフィー……野菜はちゃんと洗ったのか? 土がついているぞ!」
「シルヴィアこそ、食材を剣で斬らないでよね!」
既に暗雲が立ち込めているな……レメリアがメシマズだし、リリムも料理を作っている姿は見たことない。これは、いい勝負になるのでは?
「ママ……リリム、花天堂のラーメンがあるよ!」
「でかしたぞ、リリム!」
リリムがインベントリから豚骨ラーメンを取り出した。
料理対決で料理の持ち込みってさすがにズルだろ。
【料理対決です。調理済みの料理を使用する場合はアレンジをしてください】
おい、アレンジだけでいいとか審判、それでいいのか。
「アレンジは私の得意分野だ!」
レメリアがインベントリから小瓶に入った何かを全てのラーメンに流し込む。
ラーメンのスープ全体が禍々しい赤に染まる。
……なんだか嫌な予感がする。
「はい、どーぞ!」
リリムがミスティの前にラーメンの器を置く。
「うっ……リリム……これ、大丈夫なの?」
「リリム、怖くて味見できなかった」
【完食できない場合はミスティが脱落となります】
「う……」
ミスティは案内を聞き、生唾を飲み込む。
――ズルルルル。
ミスティは意を決してラーメンを啜りだした。
「あれ、うま……いぎっ!」
一瞬、ミスティの口角が緩んだかと思うと、すぐに苦悶に満ちた表情で地面をのたうち回る。
「ミスティ、大丈夫かー!」
レメリアがミスティを必死に支える。
ミスティの体が小刻みに痙攣している。
「ふむ。そんなに喜んでもらえるとは、作った甲斐があるというものだ」
何を勘違いしたのか、レメリアは満面の笑みを浮かべている。
しかも、アレンジで既存の料理を台無しにしただけなのに……。
「リリムちゃん。そのまま抑えててね」
シルが熱々の野菜スープをスプーンで掬い、ミスティの口元に持っていく。
「ひっ……く、臭い……や、やめて……」
ミスティが首を左右に激しく振る。
こうなると創生の魔女も形無しだな。
「ほら、動くと火傷するぞ」
メルフィーがミスティの頬を掴み口を開けさせる。
ミスティ……南無三。
俺は心の中で祈りながら目を背けた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
【ミスティが気絶したため脱落しました。
審査員が不在のため、全員脱落となります】
シル、メルフィー、リリム、レメリアも光に溶け、一気に脱落ログが流れた。
もう……無茶苦茶だよ。
【――残り10名】
待て待て、あと数人じゃねえか。
❇
【戦闘形式・腕相撲】
【シノメ&ガスタージャvsユリアナ(梓)&エマ】
【初戦ガスタージャvsユリアナ】
バトロワで腕相撲って地味だな。
「武人としておなご相手でも手加減はせぬぞ」
「私だって負けてやる気はサラサラないんだから」
【それでは両者見合って……】
ゲームログがそれっぽく、間をためる。
普通に考えて、物理ステータスの高いガスタージャが圧勝だろ。出来レースすぎてつまらんな。
ふと、梓がガスタージャの耳に息を吹きかける。
「あっ……」
ガスタージャが官能的な声を漏らす。
【始め!】
気の抜けたガスタージャの隙をつき、梓がガスタージャの腕を倒す。
【勝者ユリアナ(梓)】
「お、おい! ズルいぞ!」
「ふん。勝ちは勝ちよ」
「ガスタージャさん。武人として恥ずかしいです。今日のこと奥さんに言いますから……」
「シノメ殿、それだけはお許しを……ただでさえ、転職続きで家での風当たりもよくないのだ」
「楽勝ね!」
梓がエマに手を挙げる。
「梓さん、やりましたね!」
エマもそれに応えハイタッチをしようとする……が、エマのハイタッチがそれて梓の頬に一発――
「ふぎゃっ!」
梓が吹き飛んだ。
「ごめんなさい、梓さん!」
エマが慌てて駆け寄る。
「エマさん……私のこと……忘れないでね……」
梓は特大のダメージを受け光となって消えた。
「梓さーんっ!」
エマさんが消えゆく光を抱きしめながら泣き叫ぶ。
【競技ルール外のフレンドリーファイアによりエマを脱落とする】
【ガスタージャ&シノメチームの勝利とする】
エマも光となって消えていった。
なんなんだ、この茶番は……
【――残り6名】
あれよあれよと残り数名となる。
❇
【戦闘形式・四つ巴にらめっこ】
【シノメvsオルヴィエートvsロザリアvsガスタージャ】
全員オルヴィエート陣営だな。潰し合ってくれるのはありがたい。
四人は互いに睨み合い、開始の合図で変顔をする。
互いに一歩も引かず、四つ巴の沈黙が続く。
……ん……ふと、ドローンのカメラに物見櫓が映っている。
あれ、意外と近いじゃん。
物見櫓から顔を出すと、地上で四人が互いに顔を近づけ変顔を決めていた。
あれ……これ、チャンスじゃん。
俺は魔剣ヨグ=ソートスを構える。
“次元斬”
四人の足元に次元の裂け目を出現させる。
「「きゃぁぁぁぁ」」
「「うぁぁぁぁぁ」」
そのまま、四人を場外へ飛ばした。
【4名が脱落しました。残り2名です】
よし、予想通りだ。
攻撃したわけじゃないからペナルティもない。
それより、あと一人はどこだ?
俺と同じくハイドしているんだろう。
物見櫓から周囲を見渡すが……誰もいない……どういうことだ?
【戦闘形式・デュエル】
【ダイチvsナージャ】
えっ……気づいた時には遅かった。
「うわっ!」
俺はナージャ王女に床に押し倒される。
「ナージャ王女……いつの間に……」
「ふふっ、ずっとですよ。櫓があったから登ってみたら、ダイチ様が熱心に何かを見ていらしたので……」
「ずっと、後ろにいたってのか――どうして、戦闘にならなかったんだ?」
「そんな、些末なこと、気にしないでください」
ネグリジェ姿のナージャ王女が、俺の鎖骨に舌を這わせる。
「ひいっ……」
ナージャ王女のネグリジェは物理と魔法ダメージを無効化するチート衣装だ。
俺に勝ち目はない……鎖骨の痛みとともにナージャ王女の歯が、俺の骨に食い込む。
【ダイチのHPがゼロになったため、ナージャ王女の優勝です!】
ログとともに物見櫓の周りに参加者全員が転送される。
「まさか、私が勝てるなんてね。これからは王女じゃなくて、女王ね!」
「おめでとうございます。ナージャ王女」
俺は素直に拍手を向ける。
地上からも物見櫓に向けて拍手が巻き起こる。
【おめでとうございます! ナージャ王女が魔界の新たなる王となりました】
「「えっ……」」
俺とナージャ王女の声が重なる。
「王って魔界の王だったのか……」
「そんな、私、聞いていませんわ。
ダイチ様、助けてください!」
「ナージャ王女……どんまい」
「きゃぁぁぁぁ」
ナージャ王女は魔界の空へ吸い込まれていった。
【魔王ナージャが誕生しました】
不穏なログだが、優勝しなくてよかったとつくづく思う。
この話を書くために早見表を書いたまである。




