第十二話:ヨルとモルドレッド
同時刻、アルヴァロン首都キャメロット城内 中庭
「ふっ!はっ!」
白亜の壁に囲まれた鍛錬場にて夜は一人、マルミアドワーズを手に鍛錬に励んでいた。
なんて事は無い〝いつものように〟剣を振るだけ
与えられた事を淡々とこなし、皆が理想とする勇者を演じる。
〝これまでと同じように〟すれば良いだけのことだ。
「・・・・・・」
そう言えば、〝あの先輩〟はどうしているのだろうか。
アグラヴェインや他の騎士達は見つけ次第始末する。とそう話していたが、ふと考える。
もし自分がその立場になってしまったらどうするのだろう
「・・・斬らなきゃいけない、のかな」
自分と同じく訳もわからずこの世界に飛ばされた先輩を、〝勇者〟である自分は殺さなければならないのだろうか
もし、それを周りが望むのならば自分は・・・
「あんまり根を詰めるとガタが来るぜ?ヨル」
「あ・・・・」
ふと、背後からかけられた声に意識が現実に戻る。振り返るとそこには鎧姿に赤髪を風に靡かせる騎士が一人、片手に籠を持ったままこちらに近づいてくる姿が見えた
「モルドレッドさん・・・・」
「堅苦しい口調は要らねぇっつたろ?それよりホレ、少し休憩しな。本番でぶっ倒れたらもともこもないぜ?」
そう言って近くの壁にもたれかかり籠を置くとモルドレッドは自分の隣を叩いて座るよう促した
ヨルもそれに素直に従いマルミアドワーズを鞘に収めればモルドレッドの隣に腰掛けて空を見上げる。
すると、モルドレッドは籠の中身を夜に見せてきた
「!・・・・・スコーンだ・・・」
「おっ!お前の居た世界にもあるんだな?よかったよかった・・・さっき厨房からかっぱらってきたんだよ。ほら、ジャムもあるから食え食え!」
甘いバターの香りがするスコーンを小刀で半分に切り、籠に入れてきた瓶からジャムを掬い取り塗るとモルドレッドはヨルに差し出す。
「い、頂きます。」
断るわけにもいかず、両手で受け取り一口囓ればバターの風味とベリー系のジャムの甘さが口いっぱいに広がり思わず笑みが零れる。
「うまいか?」
「・・・すごく美味しいです」
「ならよかったぜ・・・・あ!義兄者や義兄上には内緒だぞ?見つかったらまたギャーギャー言われちまうからさ」
モルドレッドの言葉に夜の脳裏には二人の騎士の顔が過る。
そう言えば城の兵士から事前にペンドラゴン騎士団の内部事情を聞かされていたことを夜は思い出した
「アグラヴェインさんと・・・ガヴェインさん、ですか?」
「おう。血の繋がりはないけど騎士の誓いを交わして義兄弟になってな。・・・まぁ二人とも口煩くてかなわねぇんだが・・・」
やれやれとため息を吐くモルドレッドだったがスコーンを一口囓れば夜のほうを見ながら尋ねる
「ヨルは居るのか?兄弟。」
「・・・・兄が、います。」
「へぇ、兄貴がいるのか・・・じゃあ俺と同じだな?」
にっ、と笑いかけるモルドレッドにヨルも小さく笑みを浮かべた
そう、天原夜には一つ上の兄が居る。
天原昼彦
年はそんなに離れておらず、少し病弱だが現在は人並みの生活ができる程度である。
同じ濡羽色の髪に、同じ朝焼け色の瞳。夜より少し背が高く、中性的で細身な見た目。けれど昔から頭が良く何でも知っていて、愛想が良くて、時々しか会えないけれど良い家族である
元々有名な陸軍の家柄である天原家。夜の両親はそんな病弱な兄のことを早々に切り捨てて夜に過剰な期待を寄せるようになった。
凜々しくあれ。
天原家を継ぐ人間として強く、凜々しくあれ
そう言われ続けいつしか周りから《王子》と持て囃されるようになったが
それでも夜の心はがらんどうのままだった
「・・・・モルドレッドさんは」
「あん?」
「・・・・・嫌だと思ったことはありましたか?」
ぽつりと、気まぐれに尋ねてみる
「・・・そりゃ、義兄達のような立派な騎士になれと言われまくった事にか?」
「・・やっぱり、言われてたんですね」
「そりゃそうさ。俺もお前くらいの年の頃は荒れに荒れまくったもんだぜ?なんで騎士なんぞにならなきゃいけないんだー!ってな?」
モルドレッドの言葉に少しだけ夜は親近感を覚える。
自分だけではなかった。自分と同じような思いをした人が隣にいる。それが少しだけ嬉しく思えた
「だから開き直ったんだ。俺は俺。義兄上達とは違う。・・・俺は俺の意思で騎士になって俺なりの生き方を貫いてやろうってな?」
「・・・自分なりの、生き方・・・」
呟く夜にモルドレッドはさらに言葉を続ける
「ぶっちゃけちまえばヨル達は完全に被害者の立場だ・・・訳もわからず召喚されたあげく、魔竜王を倒せなんて無理難題押し付けられてよ。・・・不安だってあるに決まってる。」
そこまで言い終えればモルドレッドはヨルの髪をくしゃりと撫でた
「だからよ、ヨル。・・・しんどくなったら逃げちまっても構わねぇよ。そうしたって俺はお前を責めたりしねぇ」
「ーーー !」
ー 夜ちゃんは夜ちゃんでしょ?いいじゃんソレで ー
モルドレッドの言葉に懐かしい横顔が頭を過る。そんな言葉を自分にかけてくれたのはこれで3人目だろうか
心配してかけられたモルドレッドの言葉が今の夜にとって少しだが安らぎになった
「・・・・はい。」
モルドレッドの言葉にそう返してまたスコーンを頬張る。
ジャムの甘さと頬を撫でる風の心地よさに夜は目を細めたのであった




