25 エリーゼ王女からの報告と決意
「ち、ちょっと待ってよエリーゼ姉さん! それホントなの!? 核なんて訳の分からないものがこの世界にあったっていうの!?」
俺の隣で聞いていたアリアも初耳だったようで、エリーゼ王女の胸倉を掴んで怒りの表情で捲くし立てていた。
「わわわ…! ほ、本当なんだ! 後で説明するから、落ち着いてくれ…!!」
「アリア、ひとまず落ち着け! 話が進まないだろ」
このままでは埒が明かないので、ひとまずアリアとエリーゼ王女を引き離す。
俺自身も、この世界に核が存在していたのが信じられないが、過去にそういうのがあったのなら納得がいくからだ。
それまでは、アリアを宥めておく。
「アルト君、アリア姉さんの扱いが上手いですね。 出会ってそんなに日が経ってないのに」
「まぁ、アリアの性格上直感でどう扱うかを決めてますからね」
「直感ですか…」
出会ってそんなに経ってない時にアリアやメルルを嫁にしているのだから、性格を把握したうえで直感で付き合うしかない。
もう少しじっくり付き合えば、もっと違うやり方でいけるのだろうけど…。
「落ち着いたか、アリア?」
「う、うん…。 柄にもなくキレちゃってごめん…」
「全く、信じられないのは俺だって一緒なんだからな? とりあえず、エリーゼ王女の説明を冷静に聞こうぜ」
「そうだね」
ようやく落ち着きを取り戻したアリアをよそに、俺はエリーゼ王女に向き合う。
「それで、大方の予測はできますが、核を使ったのは?」
「ああ、察しの通りの安地 平斗のようだ」
やはりか。
あいつが自分の思う通りに事を運ばなければ気が済まない性格なのは分かっていた。
だが、アッシュ王国で『色無し』とされて追放されたことで、この世界に復讐をしようとしたら?
奴なら偶然の事件も平気で利用する。
「目撃したとされるドラグニアの兵士によれば、その男は二人位の連れと一緒だったようだ。 君の言う安地という男は満身創痍だったそうだが」
「奴が迷い込んだ場所は?」
「現アッシュ王国とドラグニア国の境界線に近い場所にあった、今は滅びし『ソプラノ王国』という場所の地下からだそうだ」
「今は滅びし『ソプラノ王国』?」
聞いたことのない国がまた現れた。
しかも今は滅びしとエリーゼ王女は言っていたが…?
「『ソプラノ王国』は、人族至上主義国家の最前線の国の一つ…というよりはアッシュ王国によって無理やり人族至上主義の理念を押し付けられた国だった」
「それが、何故滅びたのですか?」
「過去の『異界集団召喚』に巻き込まれた『転移被害者』の大半がそのソプラノ王国だった。 保管された過去の報告書によれば、その国は当時アッシュ王国による圧力で財政もやばかったようだ」
俺達よりも前に召喚に巻き込まれた『転移被害者』がソプラノ王国に転移されてたのか。
しかし、財政がやばかったのかその国は。
そんな事を考えている間に、エリーゼ王女は話を続ける。
「そんな中、アッシュ王国は異界より流れた禁断の魔道具を作って滅ぼそうと考えていたそうだ」
「異界より流れた…? という事はそれが…?」
「ああ、察しの通り『核』だ。 これも保管された過去の報告書から分かった話だが、アッシュ王国は、ソプラノ王国に当時の『転移被害者』が多く住んでいるのを知って、その魔道具の開発を強要したそうだ。 拒否権なしでな」
ああ、拒否権無しって…酷いという事は昔からだったわけか。
しかも『核』の作成を強要するとか…なりふり構わないのも昔から…と。
「核の開発によって只でさえ逼迫していた財政が完全に破綻し、王族も自殺して滅亡したという形だ」
破産による滅亡か。
アッシュ王国が圧力をかけ続けられたらその末路しかないわけだ。
アリアもここまでずっと黙って聞いているが、顔がフィーネちゃんには見せられない表情になっているな。
「その後、ソプラノ王国の最期の生き残りの少数が無理やり作らされた地下に核の魔道具を置いてそのまま封印した」
「それを偶然、奴が発見したと」
「そうだ」
「という事は、それを起動したのも偶然でしょうね」
「そうだな。 爆発をした直後も奴が脱出して生き残っている確率は高いだろうしな」
「姉さん、対策はどうするの?」
今まで黙ってていたアリアが口を開いてエリーゼ王女に聞いてきた。
奴…安地の存在はアリアにとっても危険だと改めて判断したのだろう。
「現時点では見つけ次第、処刑をするという事しか対処できないがな」
「ああ…」
さっきも言ったが奴は手段を選ばない。
隠れるにしても色んな方法を使ってでも見つからないようにするつもりだろう。
「ファミリアも毒耐性を付加させて、飛ばしてみるよ」
「済まないが、それで頼むよアリア」
アリアの方でも、ファミリアに毒耐性を与えて結界で覆われたエリアを偵察するそうだ。
これで奴の動きを探れればいいのだけど…。
「アルト君の方も引き続き私と訓練をしようと思う。 奴を倒すにも彼の力が必要だしな」
「分かりました。 今後も訓練をお願いします」
「ああ、任せてくれ」
奴を倒して、全てを清算する。
俺はそう決意して、改めてエリーゼ王女の訓練に力を入れる事にした。
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