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「知らない天井だ」
目が覚めて最初に出てきたのはそんなよく見る感想だった。
ありふれたセリフだけど実際に体験する人は少ないだろう、まさか自分が言う立場になるとは世の中どうなるか分からないものだ。
それはさておき先程から左腕の感覚がない、最後の記憶を思い出そうとすると全身がヒヤッとするが似た感覚を最近も感じた気がする……ああ、おかげで思い出してしまった、狼モドキに腕を喰われたんだったな。
おそるおそる左側を見てみると窪んだ掛け布団が見える。
もう嫌になるが確認しないわけにもいかない、覚悟を決めて布団をめくると包帯の巻かれて肘から先の無い左腕があった。
「マジかよ……ん?」
驚きの連続で気にする間もなかったがここは何処だ? 見るからに部屋なので恐らく助けてくれた人の家なのだろう。
まずお礼を言おう、どう言えばより感謝が伝わるかと考えていると足音が近づいてくる。
ドアが開くと女の子が覗き込んで目を見開いて駆け出していく。
話しを聞く暇もなく女の子は行ってしまった、次こそは第一声にお礼を言おう。
ガチャ
「先日は助けて頂きありがとうわぁぁぁぁ!」
ドアの先から覗いてたのはトロールだった、いやスキンヘッドの大男だった。
「あっごめんなさい! あなたの事を言ったんじゃないんです、あなたの後ろに見えたんです、ちなみにモンスターの方のトロールじゃなくて妖精の方です」
慌てすぎて、普通に聞いたら幻覚を見ていると思われても仕方ないことを言ってしまった上に、スキンヘッドじゃなくて禿げていただけなら申し訳ないので、せめてフサフサした妖精だと余計なことを言ってしまった、もう失礼を重ねすぎて、高さがあるとすれば腰くらいになっていることだろう。
慌てているとスキンヘッドさんが何かを言ってくる、だがその初めて聞く言語で理解してしまった、あぁ言葉が通じない系の異世界だ。
もうこれは決めるしかないのだろうか、一つの言語を覚えるという覚悟を、それでもまずは言いきれなかった感謝を伝えよう。
「助けてくれてありがとうございます」
伝わるか分からないが誠意を込めて頭を下げる、そして気づく、この世界で頭を下げるというのはどういう意味だろう、内心ヒヤヒヤしていると肩を叩かれ頷かれた、まったく意味が分からない。
すると女の子に右腕を引かれる案内をしたいようだ、ついて行くと大きな机のある部屋で座らされてしばらくすると食事が運ばれてくる。
改めてスキンヘッドさんがエプロンをつけている姿をみると、見た全員が解体業者にしか見えないと言うに違いない、解体業者の人はエプロンじゃないだろうけど見た瞬間にそう思ったし、少なくともシェフにそんな筋肉塊は必要ないはずだ。
そして並べられた料理は肉や野菜のようなものがゴロゴロ入ったスープだった、異世界の定番だろう、逆に元の世界でも見たことも無い豪華な料理が並べられたら俺はスキンヘッドさんに生涯の忠誠を誓う代わりに養ってもらうほかないだろう。
閑話休題
女の子が食べ始めていて、スキンヘッドさんがお前も食えと言葉は通じなくても目線で伝えてくる。
一瞬、次のメシはテメェだ、かとも思ったが考えても仕方ない出してくれたものは頂こう。
あっ不味い、食べられない事はないけど味が薄くて素材の味か引き立てられ……いやほぼ素材の味しかしない、そうだよな調味料ドバドバ使ってるのは時代が進みまくってからだよな、グルメが出来るのはチートぐらいか、この世界での目標のひとつに美味いもの巡りを入れねばなるまい。
そんなことを考えてる間に2人が話し終わったようだ、なにやら俺について相談してそうだったので黙っていたのだが話し合いの結果にドキドキだ。
「アリウス」
女の子が自分を指さして言ったあとに俺を指さしてくる、名前を聞いているのだろう、それにしても名前か、女の子の名を聞くからに日本の名はおかしいだろうからこの世界では新しい名前を名乗ろう、今こそ心の中で飼育していた厨二病を解放する時が来たようだ。
名は体を表すという言葉もあるし強そうな名が良いだろうか、いや確実に名前負けする自信があるので覚悟を名にしよう、元の世界から居なくなったのだから黄泉、べつに死んではないのだから途中の黄泉比良坂なんてどうだろう異世界に来てそうそう死にかけたのだし、いっそ死に道中なんてシャレが効いていると思う、内心に住む厨二病も満足げな顔でゴーサインを出している。
「黄泉比良坂」
なので自分を指さし頬がニヤケそうになるのを我慢して宣言する。
「ヨモ!」
大変だ、ちゃんと伝わってない早急に正さねばなるまい。
「……バルトリウス」
怖っ、スキンヘッドさんが急に呟くのでタイミングを逃してしまった、しかも名前かっこよすぎないか? 近年稀に見るかっこよさな気がする。
――言葉を覚えてから聞いた事だが、バルトリウスさんの名前の由来は、男の子が産まれたらバル、女の子だとリース、男だったがせっかく考えたからと両方つけられたとかで、あまり気に入っていないらしい。
そうして異世界での初めての出会いは過ぎていく。




