国…それは演説「憤怒」より X
ロトさんの食事がすみ、私もその後にパンを1つもらってしまった。ハナエさんはさえないもので申し訳ないな、と言った。
私は申し訳なさでいっぱいになり、せめて半分でもと、渡そうとした。
だがハナエさんは、絶対受け取ろうとはしなかった。
「この国がこの状態になってからは、なんでかわからないが、腹が減らないんだ」
それだけで空になった食器を片付けに行ってしまった。
それでもと、私はコイさんとカシさんに半分を渡し、もう半分を彼女とさらに半分にして食べた。
ロトさんは食事が終わってすぐに眠ってしまった。無理もない。
カシさんはその様子をずっと見つめている。
とても、心配そうに…
ふと、コイさんが話しかけてきた。
「あっあの…サマヨイさん!ハナエは、とても優しい子なんです。だけど、ちょっと意地っ張りなんです!なので…少しか乱暴なところは見逃してあげてくださいっ」
必死にお願いをするコイさんは、ハナエさんとは真反対の性格をしている。
だが、ハナエさんのことを誰よりも知っているのは、コイさんなのだろうと思った。
「大丈夫です。と言うより、ハナエさんがお優しいことはすでに十分に理解していますから」
「気にすんなって!」
コイさんはつぶらな瞳をキラキラと輝かせる。
私たちは少しだけお互い笑い合った。
ふと、扉が開き、ハナエさんが毛布を持って入ってきた。
「カシ、兄さんは寝たか?」
「あ、うん。ついさっき眠り始めたところですよ」
「分かった」
ハナエさんはロトさんに毛布をかける。そして、部屋の奥から椅子を二脚持ってきた。その1つを私の前に置いた。
「ん」
「あっすみません。ありがとうございます」
私は差し出された椅子に座ると、ハナエさんも向かい合わせで座った。
話を切り出すのが下手な私はすぐに沈黙を作ってしまう。口火を切ることができない…
彼女もなぜかしゃべらないし…
私が俯いて手をグッと握っていると、ハナエさんが口を開いた。
「悪いな、客相応のもてなしができなくて」
私は思わず顔を上げる。
「そんなっ!…はっ…」
ハナエさんは真剣な眼差しで私をじっと見つめる。一瞬で貫かれた気がした。
強く、そして冷たい眼差し…その瞳にやはり吸い込まれそうだと思った。
ふと、何かを悟ったのかコイさんが肩に乗った。
「この国がなぜこんな状態になったのか、国民がなぜ私たち2人以外は"モノ"となってしまったのか…私たちの付き物はなんで全てを知っているのか…アンタたちはそれを知るために旅をしている。そうなんだろ?」
この人も全てを知っている…
じゃあ例の病気のことも…だとしたら質問によってはすぐに立ち去らなければ彼女に怒られるかもしれない。
警戒しつつ私は言葉を返す。
「その通りです。この世界の全てのニンゲンは、何者かによって全員ぬいぐるみにされてしまっています。そのことは彼女からも聞いています。
ですが、今までいくつかの国を見てきましたが、今提示された謎の解明は、一切できていません」
「そうか、やはりこの国だけではないのだな」
「…はい」
彼女が私の後ろ髪を引っ張ってきた。警告だった。
「お前の生まれた国もそうだったのか?」
生まれた国もわからない私はこう返すしかなかった。
「おそらく」
「おそらく?」
ハナエさんは怪訝そうな顔になる。
「私は、生まれた国を、自分の家族すら覚えていません。
気が付いた時にはもう、彼女と旅をしていました」
「そ、そうか」
ハナエさんの目が一瞬怯えるように揺れた気がしたのを私は見逃さなかった。不思議に思ったが、あえて聞かないことにした。
すると、彼女が久しぶりにしゃべり始めた。
「ねえ、なんでお兄ちゃんはずっと演説してるの?だってさ、あれ完璧に、
意味ないじゃん?」
私は血の気が引くのが分かった。




