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君の瞳に映る世界は……  作者: 塚原 蒔絵
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 約束の時間、公園に行ってみるとすでに聡はそこにいた。

 傍にはなぜか部長がいる。

「遅れた?」

「いや、時間通りだ」

「部長は、どうかしたんですか?」

「あたしがいちゃダメなの?」

「いいえ」

 特にダメではないだろう。

 ただ、どうわかってもらえばいいのか、少し考えないといけない。

 部長に、聡はすでに死んだ人間なのだと告げることが僕にできるのだろうか。

「無駄よ、お姉さん。死者は生きていてはいけないの。例外なく」

「涼子?」

「このお姉さんはあの人が死人だって知ってるわ」

「そう、なんですか?」

「なに言ってんの。有川は、ここに生きてるじゃない」

 強く言われる言葉に、頷きたい気持ちがうずく。

 僕だって、そうですねと言葉を笑って返したい。

「聡」

 黙っている彼を呼ぶ。

 そうすると聡は部長をなだめ、僕の方へ来た。そのまま歩き出す。

 涼子はその場に残った。部長をとどめているのだろうか。

 サクサクと靴が地面をこする音が聞こえる。

「なぁ、恭介。写真撮れよ」

「は?」

「俺、お前の写真好きなんだ。変なものが映るとかさ、気にせず撮れよ」

「なに言ってるんだ?」

「言いに来たんだろ。俺に」

 聡は自分が言われる言葉をすでにわかっているのか、穏やかな表情で僕を見ている。

 僕にはわからなかった。

 死んでいるのだと告げられる人が、どうしてここまで穏やかな心でいられるのか。

 僕ならきっともっと取り乱す。

 聡は僕の前を歩く。

「俺、香奈枝先輩に告白されたんだ。好きだって。信じられるか?」

 僕は答えない。

 でも聡は話をやめない。

「お前とも約束したよな、写真展覧会行こうって」

 それは河川敷での出来事。

 あの時、確かにした約束。

「比奈ちゃんの紅茶だってまだ飲みたいしさ……」

 声が揺れた。

 聡がこちらを向き直る。

 その顔を見て僕は自分を殴りたい衝動に駆られた。

 平気なわけがない。自分が死んでしまったなんて、わかったところで納得できる人なんていない。

 聡は、笑いながら、泣きそうだった。

「なんで、なんで俺、死んじまってんだよっ!」

 どう言えばいいんだろう。

 僕にはなにができるんだろう。

 目の前で悲しんでいる親友にかける言葉すら持たないちっぽけな存在なのに。

 傍にあった花壇に座り込むと聡は顔を覆ってしまった。

「聡」

 小さく呼びかける。返事は返ってこない。

「聡、お前はもう死んでるんだ」

 どうしてそんなひどい言葉を僕は平然と言えるんだろう。

 けれど、今の僕が彼に告げられる言葉はこれだけなんだろう。

 愛おしさ。彼に対しての純粋な憧れ。それらを瓶詰にできるのなら、いくらでも詰め込んでみせる。

 どこにいても、僕たちが――彼が生きた証をこの瓶に詰め込んで。

 思い出だって、写真だって、どんな記憶だって、残しているのはつらい。

 だけど。

 いつか、このつらい思い出を笑いながら話せる日が来るのだろうか。

 聡はいないのだと、事実に真正面から向き合える日が来るのだろうか。

 そんな日は来ない。そんな気がした。

 けれど、僕は告げる。

「聡、お前、もう死んでるんだよ」

 顔を上げた聡が、歯を食いしばっている。

「バカやろう! こういう時は慰めの言葉とか、そういうのないのかよ!」

「ごめん。……ありがとう」

 今まで生きていたことに、僕の友達であったことに、僕の傍にいてくれたことに、そして、これからのことに。

「ありがとう、聡」

「バカ、やろう」

 それが僕に対しての言葉だったのか、自分への言葉だったのか、僕にはわからなかった。

 僕は聡の隣に座って、彼を思いきり抱きしめる。抱きしめられた相手はさぞ痛いだろうと思える力だった。でも手離せなかった。

「恭介?」

 聡は驚いたのか、顔を上げた瞬間、彼のにじんでいた目から涙が一滴こぼれた。

 けれどそれ以上は動かず、聡は僕の肩に首を乗せる。

 二人ともなにも喋らなかった。

 そうしていくつの時間が過ぎたんだろう。空からまだ早いだろうと思える雪が降ってくる。

「聡、雪だ」

「ああ」

 吐き出す息が白い。

 互いに握り合った掌が、あいつの分は冷たい。

「なぁ恭介、俺のこと、覚えてろよ」

「当たり前だろ」

「忘れんなよ、絶対だぞ」

「僕の傍にいて、お前みたいに煩いのは聡くらいだ」

「そっか。うん、そうだよな」

 雪が掌に降りた。

 それが溶けると肩に乗っていた重さが消え、慌てて首を動かすあいつの姿はどこにもなかった。

 足跡は確かにあるのに。

 目の前には涼子と部長。二人は手をつないでいる。

「――っ、バカやろう! バカ、やろう!!」

 部長が空に向かって叫ぶ。吠えるように、泣く。

 涼子は部長の手を放すと、僕の方に来て頭をなでてくれた。

「泣かないで」

「泣いてないよ」

「そう?」

「うん」

 雪が降っている。

 写真展を見に行こうと約束したのに、もうあいつはどこにもいない。

 不意に、哀しみがこみ上げる。

 今まではなんともなかったのに、自然に涙があふれてくる。

「ごめんなさい」

 涼子が謝ってくる。

 これは誰のせいでもないんだ。

 でも、あいつはもういない。

「バカやろう」

 僕もそうつぶやいて、目を伏せた。

 涙が頬を伝う。その熱だけは確かに感じた僕の痛みだった。

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