竹取物語35
『柊さん、もう少し広い範囲カバーできそう?』
『出来ないこともないけど・・・・正直ギリギリね』
一撃で倒せるとはいえ、射程距離が広いとはいえ限界がある。
これ以上離れた敵を相手にすると威力が落ちてしまう、範囲攻撃の乱発でSPももう0に近い。
(何より、指が痛いのよっ)
既に戦闘時間は30分を超えている。その間、常に引き金を引き続けている。そろそろ限界が近い。キャラクターとしての強化がされてなければ、今頃は指が血まみれで使い物にならなくなっているだろう。
『花穂、水の龍増やせない?』
『この距離ではコントロール出来ません。もう少し近くに行けば1匹だけなら追加出来ます』
『九十九さん』
『許可する。花穂、龍の攻撃範囲にだけは入るなよ』
『了解!戸辺さんの穴を埋めに向かいます』
『今から無茶をするから次郎丸さんの周りを水の龍2匹で固めて。次郎丸さん、返事はいいから聞いて。その馬鹿に押される振りをして少しずつ後退して』
聞こえているかどうかは不明だ、次郎丸は未だに戦闘中。両足で攻撃をしかけつつ武器の消えた両手はショートカットで出した回復薬が握られている。トランシーバーの操作など出来るはずがない。
『もう少し後退すればオレのヒールの届く範囲になるから、頑張って』
一通り指示を出して一息をつく。
真司はゆっくりと、後退しつつ次郎丸の背後に回った。
まだ遠い、でもこれ以上は前に出れない。
自分の真後ろ、2メートルも離れてない位置には珠玉龍がいる。
さすがにこの大きさは迫力が違う。
「エリアルリジェネーション」
龍の前、自分と次郎丸の受け持っていた位置の中間地点に範囲回復の場を設置。今度は自分もその中に入る。
「ヒール」
次郎丸がヒールの届く位置まで来た。
次郎丸もそれに気づきポーションをしまう。キックボクサーのような構えで男を迎え撃とうとしていた。
『もっと後ろに』
真司の指示に次郎丸の背中がビクッとする。
これ以上は、龍の攻撃範囲だ。
催促するようにヒールを撃つ。
再度、ヒール。
もう一度ヒール。
「おい、邪魔すんなよ」
そんな真司のヒールが、癇に障ったらしい。
「ヒール」
無視してもう一度次郎丸にヒール。
「やめやがれ!こっちは本気で喧嘩してんだよ。横からつまんねえ手出しすんじゃねえよ」
(ああ、こっちの方が簡単そうだ)
「・・・・・・・・・・・・祈り」
自身の回復魔力を強化。
「ゴスペル!」
呪文を唱える。
真司は人差し指を立ててクイクイ、と男に合図。
「雑魚職が、回復あれば死なねえとでも思ったか!」
男が真司に向かって走りこんでくる。
「くそっ!」
次郎丸が慌ててカバーしようとするが、その眼前に花穂の水の龍が回り込んでしまっていた。次郎丸と花穂の顔に焦りの表情が同時に生まれた。
「おら!おら!おらあ!」
2度、3度と男が真司に槍斧を打ち下ろす!
真司はその攻撃を木の盾でカバーする。今まで受けた中でも一番強いダメージだ。
だが、真司はその場から動かない。
『ゴスペル』は発動中に移動が出来ないスキルだからだ。更に発動中はSPがどんどん減っていく。
あらかじめ張っておいたエリアルリジェネーションの効果で受けた攻撃は即座に回復。真司のダメージはすぐさまなかった物になっていた。
「硬てえじゃねえか!バッシュ!バッシュ!」
その攻撃を身に受けつつ、真司の視線は周りに。
抜け出てきたスケルトンが真っ直ぐ真司の方向へと向かってきている。
エリアルジェネレーションの効果範囲に入ったスケルトンやスケルトンオーガなどはすぐに蒸発していく。
「ははっ、考えたじゃねえか。これなら非力な神官職でも倒せるってか!?だけどオレも回復してんだぜ?ああ?!」
その通りだ。このスキルは効果範囲内のすべてを回復させる術。
真司はもちろん、この男にも回復の恩恵は入ってしまっている。
「そして、てめえは攻撃手段がよええ魔法攻撃しかねえんだよ!全力撃!!!!」
槍斧を大きくしならせた一撃が、真司の体を強襲した!
「くはっ」
盾で押さえているが、ダメージが通る。
真司の口から苦悶の声が初めて漏れた。
「もう一発だよ!オラ!全力撃!!」
更に追撃。攻撃後の硬直のせいで連続では撃ってこない。
それでも強力無比な一撃が真司の体を蝕んでいく。
エリアルリジェネーションの効果も消えた。
ついに真司は『ゴスペル』の発動を止めた。
「ようやく、消えたな」
「あ?」
真司はゆっくりと杖を持ち上げて、杖の先に光を生み出す。
通常攻撃の光だ。一定量の魔力を杖に集中させた後に、何発か無属性中距離攻撃を行うのが片手杖の攻撃モーション。
「なんだそりゃ?それで勝つつもりかよ?」
「覚悟はしなくていい。死なせたらリザしてやるから安心しろ」
その通常攻撃を真司は発動させた。
後方の龍に向かって。
「てめっ・・・・」
『ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
男のセリフが言い終わる前に、真司の後ろから強力なブレスが吐き出される。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




