竹取物語18
「警察が動いてくれるとは思っていたけど」
真司は目的地の近くで立ち往生をする羽目になった。
今回のクエストMAPはこの先、すでに建物も見えているのだが警察により通行止めが展開されていた。
聞いた話によると地面を走っているガス管が破裂して危険だから、との事だ。
一応、集合予定の時間まではまだ30分近くある。だがここから移動することを考えるとあと10分以内にはこの先に行きたい所だ。
「この周りが畑やら田んぼばっかりじゃなければ行けるのになあ」
真司のルートからではどうにも、人目につかないで行くことが出来ない。
「テレポっ!」
出来ない。
「だよねえ」
ギリギリの通り、コンビニのある十字路で立ち往生する。
向こう側から出てくる車はあれど、入ろうとする車両はすべてシャットアウト。
通行人もすべて追い返されている始末だ。
携帯が鳴った。素早く出る。
『ちょっとあんた。どんな通報の仕方したのよ』
「あはは、柊さんも立ち往生?」
『そうよ。今どこ?』
「角のコンビニのところ」
『ああ、そうじゃあすぐ近くね』
「そうなんだ?」
「ええ、そうよ」
コンビニから静音が出てきた。今日は制服ではなく私服だ。
真司は電話を切ると、声の方に振り向く。
「こんばんは」
「こんばんは、はいいけど。どんなこと言えばあれだけ警察が動員されるわけ?何か所か見回ったけど道路は全部封鎖されてたし、農道にも警察官配置されてたわよ」
腰に手を当てて不満を言う静音。
「諦めようか?」
「ありえない」
「ですよねー・・・ここの所起きている無差別殺人事件と同種のものがあそこで発生するよって、お昼のうちに110番しといたんだけど。まさかここまで間に受けられるとは」
「少なくとも警察側ではこういう事態が起きているのを把握してるってことでしょ。そのまま話せばこうなるのはしょうがないわね」
「さっきから自衛隊の車も何台か中に入っているしね」
ふむ、と顎に指を当てながら考えている。
「柊さんさ」
「何よ」
「考え、あるんでしょ?」
「わかる?」
にやり、と静音は黒い笑顔を真司に向ける。
「あんま困ってるようにみえないからさ・・・ちなみにプランは?」
「強行突破」
「ああ、脳筋だこの人」
「うるさいわね。あんたなんか考えないの?」
「んー。このまま警察と自衛官が中の人たちを全員避難させてくれれば被害でないから放置でいいんじゃないかなと」
「却下。何よその消極的な案は」
「柊さんも危ないことしないで済むし、被害も出ないし最善だと思ったんだけど」
「・・・・私は両親が殺されたのよ?放置出来るわけないじゃない」
「でも仇打ちなんて・・・」
次の言葉が出なかった。
その表情が真司に次の言葉を発することを拒否させていた。
「・・・ごめん、あんたは帰っていいわよ。私の問題だもん」
「それは」
「大丈夫。あんたに貰った武器と回復アイテムでどうにかなるわ。だから・・・」
真司は手を伸ばした。だがそれを拒否するように静音は駆け出して行った。
「心配してくれてありがと!生きてたらまた会いましょ!」
言うが早い。静音は検問所に向かって駆け出すと人間の限界を超えたバネで警察官達の頭上を飛び回りあっさりと検問所を突破していった。
「くそっ、置いていくなよ」
真司は慌ててそれを追いかける。
静音のせいで混乱した検問所は、あっさりと突破出来るのであった。
クエスト開始まで・・・あと1時間。
「引き離してはいるけど、どんどん増えていってないか?」
「そうね、でも捕まるようなヘマは出来ないわよ」
「それはそうだけど」
ふと後ろを振り返ると、パトカーも動き出し始めている。十数人にまで膨れ上がった警察官や自衛官がなにかわめきちらしながら追いかけてきた。
「刑事ドラマというよりも、怪盗的なアニメのシーンだなこれじゃ」
「いっそすがすがしいわね。とっつぁん的な人もいるかしら?」
「まだ時間前だからスキル撃てないし、突っ込むの早すぎたんじゃないかコレ」
「あんたがビビって変なこと言うからでしょ!」
憎まれ口にも慣れてきたが、もう少し言い方があると真司は苦笑い。
「でもどうするんだ?出入り口は封鎖されているだろうから入れても駐車場までだと思うよ?」
「屋上まで上がって、扉をぶち破れば問題ないわ」
静音は携帯を片手でいじりながら今回の敷地の見取り図を出す。
『夜明けの森ショッピングモール』
今回のクエストMAPに指定された場所である。避難通路の階段を上に上がりながら屋上を目指した。屋上までたどり着くと、周りを見渡す。
誰もいない。
モールの明かりがそこらを煌々と照らすなか、真司は階下へと降りる自動ドアの前に立つ。やはり開かない。
周りは簡易的な食事ができるよう、解放された空間だ。無人の子供用の遊具や軽食販売店。そこに併設された自販機などはまだ明るさを持ちBGMも流れている。
「見事に避難は終わっているね。とりあえず隠れようか」
時間はまだある。少なくともエンブレムが落下するまでは捕まる危険性があるからだ。
「クレープ屋のカウンターの中がいいわね。果物もありそうだし」
「こらこら」
言いながら身を潜める。足音が複数聞こえてきた。
「静かに・・・」
真司は静音と共にカウンターの中に隠れると、さらにその奥の戸棚に身を潜めた。
しばらくすると、足音も遠のいていく。探すのをあきらめたか、それとも別の場所を探しにいったのか今の段階では判断がつかない。
・・・何分か身を潜めたままにしていると、その足音も完全に消えた。
「・・・それで?どんな言い訳を聞かせてくれるのかしら?」
「いやーっはっはっはっは。きっちり避難をかけてもらえるように、ちょっとね」
「ちょっとって・・・これはいくらなんでも厳戒体制すぎでしょ?おかげで入るのにも苦労する羽目になったじゃない」
「でも避難はきっちりしてくれてたから結果おーらいじゃない?」
「しなくてもいい苦労をさせられるこっちの身にもなりなさいよ」
ひそひそと声を押さえながら、静音が不満を言う。
「ごめん。でも他に良い手が浮かばなかったんだ」
「でも、これじゃあ警官とか自衛隊の人にも犠牲者が出るわよ」
「そこはどうにも。建物の中だけで駐車場とかに敵が沸かないことを祈るしかないね」
再び、足音が聞こえてきた。
二人の体が強張る。
「・・・そこのカウンターの中の二人。出てきなさい」
女性の声だ。バレているらしい。
真司は静音に目を向ける。
静音は携帯を操作すると時間を確認。頷くと体を起こして外に向かった。真司もそれに倣う。
「あなた方は・・・」
二人の前にいたのは、先日の巫女装束の自称警察官だった。
同時に、上空から轟音が降り注ぐ!
三人の目がそれに向けられた。
エンブレムが落下してきた!
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




