「魂」の「帰還」その②
カンナキ
暁滞在4日目
相変わらずの猛暑日に体力を持っていかれる。
部屋の中もずっと冷房23℃をつけている。
「なぁ母さん。今日ちょっと出かけるよ」
「外暑いから気をつけてね」
「いってらっしゃいお兄ちゃん!」
「ドリアス……気を付けるんだぞ」
「うん……いってくる」
ホテルから出ると謎の男と出会った原宿へと向かう。
あの男がどうしても気になって仕方がない。
こうなってくると謎のジャーナリズムが湧き出てくる。
父親譲りなのだろうか。
しばらく散策しているが人が多く見つからない。
あまりにも苛立ちを覚える。
自分と妹の名前を知っている知らない人間がいるのが恐ろしい。
様々な店の中も探したが見つからない。
「どうしようかな……」
実際暁というのは島国のくせして人口が多い。
都市部だと特にその特徴が表れる。
いい国なのか悪い国なのかわからない。
この原宿という街は朝でも夜でも人で溢れかえる。
もう少し探す場所を変えるべきかと電車に乗り郊外の方へと向かう。
地下鉄を走っていると一瞬電車内の電気が消えた。
「なんだ……?」
次に電気がついた時には自分一人だけが吊革に掴まっていた。
「どうなってるんだ……まさか能力者か?」
電車内を見回しても異変はない。
しかし電車は走り続けている。
「スマホも圏外か……くそ」
ドージョットはバリアを展開させ慎重に別の車両へと移る。
別車両へ移るがどこにも乗客はいない。
まるで車庫にある電車のように痕跡一つない。
歩幅を抑えながら歩いていると電車が大きく揺れる。
窓を見ると電車が地下から抜けて空中へと浮かんでいた。
「なんだと!!!」
電車はみるみるうちに浮かびどこかへと進んでいく。
その光景に目を奪われていると背後にいる人物に気が付かなかった。
「ド……リアスか……お前」
バリアで殴りつけるが人差し指と親指でつままれ止められる。
「お前!なぜ俺の名前を知っている!」
謎の男は自分を見下ろしながら鼻で笑う。
「お前かこの能力は……?」
「お前の能力だろ!早く解け!」
男はバリアを離すと窓を開け外を見る。
「これは俺の能力じゃない……」
「じゃあお前の仲間か!」
「俺に仲間はいない……この能力のマスターは車掌室かこの電車の外だな……俺かドリアス……君を狙っているのだろう」
「……じゃあそこに行けばなんとかなるのか」
「なるかもな……だがこの能力は厄介だ」
「どうしてだ?」
男は窓から身を乗り出すと遠い場所を指差す。
「この電車は恐らく聖フィーリス女子学園へと向かっている。向かうというより突っ込もうとしている。それが達成されれば俺達は刑務所行きだ」
「今すぐに止めないと!」
「なら俺に協力しろ……」
「お前は誰だよ!それからだ!」
「俺は……ゼル」
そのゼルと名乗る人物と浮かぶ電車内を捜索し始める。
車内の端から端まで探すがどこにも誰もいない。
「おいゼル!こっちも誰もいない!」
「車掌室にもいない……なら電車の外か」
ゼルは何の躊躇もなく窓から電車の上へと移動する。
「よく行けるなぁ……俺も行くか」
恐る恐る登ろうとするが下を見ると建造物が豆のように小さく見えるくらい高く浮かんでおり慌てて車内に戻る。
すると電車の天井が突き破られゼルが穴から手を伸ばす。
「ほら掴まれ」
ゼルの病的に細くヨーグルトのように青白く死体のように冷たい手を掴み上へ行くと暁でいうセーラー服のような制服を着た女が立っていた。
「お前か!」
「ふー!ふー!」
女は歯を食いしばりこちらを睨む。
「お前……何が目的だ!答えろ!そしてすぐに降ろせ!」
しかし女は話を聞く気配は無くひたすらにこちらを睨む。
「お前らもろともあそこに突っ込む!共犯者になってもらうわ!」
女は聖フィーリス女子学園の浮かんでいる建造物を指差し電車の速度を上げると、次第に聖フィーリス女子学園が見え始める。
「おいやめろ!死ぬつもりか!」
「えぇ!私を捨てたあの学園に!復讐してやる!」
ドージョットは女へ突っ込むとバリアを投げる。
すると女は投げつけたバリアに微かに触れると、バリアは勢いを失い浮かび上がりどこかへと消えていってしまった。
「もういいわ!あんた達!まとめて殺す!」
「そういや乗客はどうしたんだ!」
「知らないわよ!」
更に電車の速度が上がり遂に聖フィーリス女子学園がしっかりと見える。
「おいゼルどうするんだよ!」
「方法はある」
ゼルは電車に両手を置くと電車がガタガタと揺れだす。
すると左右に同じような電車が現れた。
「おい!3つにしてどうするんだよ!」
「これでもうあの学園には危害は無くなった」
「なんですって!」
よく見ると左右に現れた電車の中に乗客が乗っていた。
「そ……そういうことね!初めから私の乗ってた電車じゃなかったのね!この右の電車が本物なのね!騙すなんてやってくれるじゃない!」
女は右の電車に飛び移るとゼルも飛び移る。
「ゼル!」
「ドリアス……お前はその電車にいろ。それが一番安全だ」
そうしてゼルは速度の上がる電車に乗って行ってしまった。
気が付くと自分は元の車両に戻っていた。
どうやら寝ていたようだ。
すべて夢だったようだ。
あまりにもリアルな夢だった。
息を整えると捜索をやめてホテルへと戻っていった。
「ふん!どうせあんたもこのまま突っ込むのよ!逃がしたって意味ないわ!」
「……俺はドリアスを逃がさなきゃいけない」
「どんな関係よ……!もしかして親子とか……?」
ゼルは女を見つめると足首まで長さのあるコートを脱ぐ。
「本気ってこと……?くだらない!」
「お前は俺に倒され俺の嫁になる」
「はぁ⁉キモイんだよおっさん!」
女は隠し持っていたサバイバルナイフを構えて襲い掛かる。
「あんたはここで死ぬべきね!死ね!」
ゼルの腹部にナイフが突き刺さる。
しかし感触が無い。
「なにこれ……」
「俺の能力は……『残像映写』残像を任意のタイミングで出す」」
「じゃあこれは残像……!」
女はすぐさま振り返るがゼルの長い足から繰り出される回し蹴りを顔面にもろに食らい吹き飛ばされ電車から落ちそうになる。
「っく!女に手を出すなんて!死ねよ!」
「今俺が手を離せばお前は死ぬ……どうする……ここで死ぬか俺に助けられるか」
「……死んだ方がマシよ」
ゼルの手からゆっくりと女の手が離れる。
電車も次第に下降する。
「……俺はお前が気に入った」
ゼルは落下し女を抱きかかえると一気に下へと落ちていった。
「な……あんた!なんで!」
「俺は……死のうとしている人間を見れない」
「……だったら何なのよ!」
「俺は……もう誰も死なせたくない……お前も」
「……あんた本当にバカなんじゃないの!これから私と落ちて死ぬんだよ!私は人を浮かばせられない!どうすんのよ!」
地面が見えゼルは両足で華麗に着地した。
まるで数センチの高さから飛び降りたくらいの感じで。
「私達生きてるの?どうして」
「残像に当たり判定を付与した。死んだのは残像となる」
「変な能力ね……」
そう言うと女は気絶しゼルの腕の中で眠った。
ホテルに戻ると妹がニュースを見ていた。
「ねぇお兄ちゃん!電車が浮いたんだって!」
テレビには上空を走る電車の映像が何度も流れていた。
「な……じゃあ俺は……」
あれは夢ではなかった。
ドージョットの背中に冷たい汗が流れる。
「お兄ちゃん?どうしたの顔真っ青だよ?」
「……いや、なんでもない」
俺は確実にあの中にいた。
そう言いかけて言葉を飲み込む。
もし自分が巻き込まれていたと知られたら両親は外出を止めるだろう。
でもそれ以上に気になることがある。
「ゼル……あいつは何者なんだ」
あいつは最初から自分の名前を知っていた。
そして逃がした。
頭の中の疑問を消化出来ずに今日を終えた。




