第4話 集まってはいけない人材たち
面接会場は、屋敷の中でも特に広い応接室だった。
本来は来客用の部屋らしいが、今日は中央のテーブルが片付けられ、椅子だけが等間隔に並べられている。壁際には使用人たちが控え、メイドは俺の斜め後ろに立っていた。
……緊張する。
俺が、じゃない。
集まってくる連中の方だ。
「では、順番にお呼びします」
メイドの声を合図に、扉が開いた。
一人目
まず入ってきたのは——でかい。
比喩じゃない。
純粋に、人間のサイズ感を一回り間違えている。
身長は優に二メートルを超えていそうで、肩幅はドアより広い。スーツを着ているのに、筋肉が布を内側から押し上げている。腕なんて丸太だ。首が見えない。
「……えっと」
俺が言葉を探している間に、男は直立不動で敬礼した。
「志願兵、コードネーム“バルク”!
職種は能力者、ランクB!
本日はよろしくお願いします!」
声まででかい。
「……座っていいぞ」
「失礼します!」
椅子が、ミシッと音を立てた。
「志望理由を聞かせてくれ」
「はい!」
即答。
「自分は最強の軍人を目指し、日々トレーニングに励んでおります!
ですが募集要項を拝見し、考えを改めました!」
「ほう」
「あなたは、日本で一生、何不自由なく生きていける力を持っている!
それにも関わらず、あえてA級渡航禁止区域である帝国へ向かおうとしている!」
男の目が、真っ直ぐ俺を射抜いた。
「その根性に、心を打たれました!」
……え、そこ?
「力があるから危険を避けるのではなく!
力があるからこそ、危険に向かう!
それが真の強者だと、自分は思います!」
なるほど。
価値観が軍人すぎる。
「能力は?」
「念動力です!」
「……その体で?」
「はい!
筋肉量に比例して出力が上がります!」
つまり——
「鍛えれば鍛えるほど強くなる?」
「はい!」
「単純だな」
「最高の褒め言葉です!」
こいつ、絶対いいやつだ。
二人目
次に入ってきたのは、対照的な人物だった。
痩せている。顔色が悪い。
目の下にくっきりとした隈があり、全体的に“疲れている人”という印象。
だが、目だけは異様に澄んでいた。
「……失礼します」
声が低い。
「志望理由を」
俺が促すと、男は一瞬だけ視線を落とし、それから言った。
「帝国に、家族がいます」
空気が変わる。
「正確には……攫われました。
血液を目的として」
沈黙。
「彼らは“家畜”として扱われています。
生かされ、管理され、必要な分だけ吸われる」
拳が、わずかに震えている。
「助けたい。
……ですが、今の自分では無理です」
だから——
「あなたの計画に乗ります。
情報を集めるための“きっかけ”が欲しい」
「能力は?」
「血液操作です」
男は袖をまくり、指先を切った。
滴った血が、空中で形を変え、刃のように固まる。
「性質変化も可能です。
武器にも、防具にも」
吸血鬼相手に、これ以上ない能力だ。
三人目
三人目が入ってきた瞬間、
空気が冷えた。
見た目は普通。
年齢不詳。無表情。
だが“政府の人間”だと一瞬で分かる。
「Aランク能力者。
本件における監視役を務めます」
敬語だが、距離がある。
「能力は?」
「記憶改ざん耐性です。
外部要因による記憶消失・改変を受けません」
「世界改変前の記憶は?」
「保持していません」
即答。
「吸血鬼のチャーム耐性は?」
「ありません」
……正直だな。
「つまり」
俺は確認する。
「俺の能力には耐えられるが、帝国では普通に危険?」
「はい」
「それでも?」
「それが職務です」
感情がない。
だが、覚悟だけは本物だ。
四人目
四人目は、一見すると場違いだった。
小柄。眼鏡。
持っているのは、分厚いノート。
「……えっと」
「能力を」
「念写です」
「念写?」
「念じた内容を、紙に写せます」
男はノートを開き、何も書いていないページを指差した。
次の瞬間、文字が浮かび上がる。
《今、あなたは私を見ている》
「……地味だな」
「はい」
即答。
「でも、確実です」
男は真剣な顔で言った。
「情報は、残さなければ意味がない。
特に——改変される世界では」
……こいつ、分かってる。
五人目
最後に入ってきたのは、銃を携えた男だった。
雰囲気が違う。
一言で言えば——覚悟が歪んでいる。
「帝国出身の人間です」
最初にそれだけ告げた。
「目的は?」
「帝国の盤石性を崩すこと」
即答。
「恨みがある?」
「あります」
「理由は?」
「言えません」
沈黙。
「……ですが」
男は続けた。
「反逆心だけは、信用してください」
「能力は?」
「敵の行動予測」
「武器は?」
「銃です」
俺は正直に言った。
「……弱そうだな」
男は、少しだけ笑った。
「銃弾には、奥の手があります」
詳細は語らない。
——なるほど。
全員、何かを隠している。
俺は全員を見回した。
筋肉。
血。
記憶。
記録。
反逆。
「……集まってはいけない人材が、集まった気がするな」
誰も否定しなかった。
メイドが一歩前に出る。
「以上が、護衛兼監視候補者です」
俺は、深く息を吸った。
「……行こう」
帝国へ。
俺が何をしたのかを知るために。
そして、こいつらが何を失ったのかを確かめるために。
面接は、終わった。
だが——
本当の地獄は、これからだ。




