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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第6章 王位継承 後編

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第68話 ヒマワリの街(三)

沙耶との生活は約一年半続いた。

毎週金曜日の夜に東京の沙耶のアパートに行き、週明け月曜日の早朝に栃木に帰ってくる。

さらに、平日は毎晩電話で連絡を取った。

――そんな、照平にとって夢のような生活は、ある日突然終わりを告げた。

その夜は珍しく沙耶から電話がかかって来た。


「今度、引っ越そうと思うの」


「え?!引っ越す?」


毎日電話で話をして、毎週末顔を会わせていたはずなのに、そんな話は初耳だった。

……待てよ。

もしかして沙耶は遠距離恋愛を終わりにして、栃木に引っ越してくるつもりなのではないだろうか。

瞬間的にそんな考えが浮かぶほど、照平の頭はこの状況に、沙耶の思いに、全く追い付いていなかった。


「引っ越すって、いったいどこへ?」


栃木に引っ越すなら仕事はどうするんだろうか。

どうせならこれを機に同棲を――


「池袋」


「――い、池袋ッ?!」


練馬と池袋ではさほど環境は変わらないはず……むしろ家賃が高くなるんじゃないだろうか。


「池袋に女性専用のアパートがあってね。そこで女友達と三人で同棲することにした」


「え?!女性専用って……」


「――そう。照平はもう泊めてあげられない。……私たち、これ以上一緒にいない方がいいと思う」


俺は頭が真っ白になり、その真意を即座に理解することができなかった。

そのあと、沙耶から別れを告げられたのだった。


照平は何とかやり直せないか、沙耶に懇願した。

自分が悪いところがあれば何でも対応すると。

しかし、照平が期待する返事をもらうことはできなかった。

沙耶を失った喪失感は想像を絶するものだった。

思い返せば寝ても覚めても沙耶のことを考えていたのだから当然だ。

中でも一番きつかったのは『週末が楽しみではなくなってしまったこと』だった。

平日の仕事がうまく行っていない社会人にとって、唯一の心の拠り所となる週末。

どんなに仕事が大変でも、職場に居場所がなくても、土日を楽しみにすれば耐えられる。

そんな生活を送っていた照平にとって土日が楽しみでなくなってしまったら、もう、何のために頑張っているのか分からない。

この感覚が最も照平を苦しめた。


――このままではダメだ。


照平はこの苦しみと向き合うため、そして沙耶との別れを受け入れるため、あえて引っ越しの手伝いを申し出た。

一緒に過ごした練馬のアパートを沙耶と一緒に片付け、何もなくなった部屋を見たときに涙がこぼれた。

そして、沙耶との生活が終わったことを実感したのだった。


照平が沙耶との別れを受け入れられたことにはもう一つ理由があった。

一年半の月日を共に過ごす中で、沙耶の気持ちが離れていくのを照平は薄々感じていた。

平日の電話も、基本的には照平からすることがほとんどだったし、最初は快く受けてくれていたが、だんだん断られることが多くなってきていた。


――結局、俺が一方的に沙耶を好きだっただけで、沙耶は俺のことを好きではなかったのかもしれない。


そう思うと、不思議と心の整理がついたのだった。


◇


「――ごめんね。かっこ悪いとこ見せちゃった」


レオナは申し訳なさそうに笑った。

あんな反応をするなんて、よっぽど予想外のことだったんだろう。

俺は「そんなことない」と伝えた。

とはいえ、鉱山を出てから一日経っている。

明日の朝ノギアを出発できたとして、約束の日まで丸二日しかない。


「――確か、三日後の朝までにアグストリアに行きたいのよね?」


俺はあらかじめレオナに到着の期限を伝えていた。


「あぁ。……明日の朝出発して間に合いそう?」


レオナは指を顎に当て少し考え、険しい表情を見せた。


「道中何もなければギリギリ。でも、ガル爺が言うように今は状況が思わしくないから、何も起こらないと考えるのは楽観的すぎるわね……」


「……そんな」


俺が約束の日までに到着しなければ、アグストリア王との密約はおそらく成立しない。

そうなれば最悪の場合、敵国の真っ只中にいるヴァレリアの身に危険が及ぶことも考えられる。

――だが、だからといって今この状況で俺に何ができるだろうか。

人目を盗んで出国?

……いや、あの堅牢な城壁を見ればそれが難しいことは明らかだ。

他の道を探そうにも、治安維持軍がどんな警備体制を敷いているか分からない。

捕まったら、それこそ一貫の終わりだ。

俺は自分の無力さを痛感し、唇を噛んだ。

それを見たレオナは目を細め、尚も考えを巡らせる。

そして、何かを決意したように大きくうなずくと、鋭い視線をこちらに向けた。


「知り合いのつ(・)て(・)で情報を集めてみる。望みは薄いけど、検問に時間がかかる原因が分かれば、何か手を打てるかもしれない」


レオナは踵を返し、早速どこかへ向かおうとする。

俺は同行を申し出たが、レオナはそれを制止するように掌をこちらに向けた。


「ごめん。これから連絡を取る人はちょっと気難しい人だから、私一人の方がいいかも。オーシャンはさっき通った広場で待っていて」


レオナはそう言うと、足早にどこかへ向かって駆けていった。


一人取り残された俺は、少し寂しさを感じながら、指定された広場へ向かうのだった。



つづく

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