第3話 自分の居場所は
異世界に来て三週間、照平の不満はついに臨界点に達した。
「この村はなんなんだ!意味のないルーティンと謎の慣習ばかりじゃないか!」
照平は、村の習慣すべてに噛み付いた。
村の種まきは、まず全員が裸足で土を踏み、怪しげな薬草の煙を焚きながら一時間も「豊穣の踊り」を踊ることから始まる。
「あのさ、長老。一時間踊るくらいなら、その時間で道具を改良して、もっと効率的に作業すればいいだろ!無駄だし、なによりこれだけで疲れちゃうじゃないか!」
また、村の病人は、なぜか井戸から組んだ水を飲む前に、決まって自分の耳に三回水をかけてからでないと飲んではいけないという謎の儀式があった。
「耳に水をかけることに、医学的・魔術的な根拠はありますか?ありませんよね!ただの気休めの習慣だ!」
ある日の朝食時、長老が食事の前に、太陽に向かって妙な呪文を唱え始めたとき、照平はついに我慢の限界を超えた。
「長老!もういい加減にしてくれ!俺は腹が減ってるんだ!儀式はさっさと済ませて、早く飯にしよう!」
その瞬間、食卓は凍りついた。長老は静かに照平を睨みつけた。
「旅人よ。これは我らが命を繋ぐ食糧と、恵みをくれる太陽への感謝の儀式だ。それをないがしろにするような者に、この村の飯を食う資格はない」
……やってしまった。
その日から、村人たちが照平に話しかける回数は極端に少なくなった。
そして誰も彼に仕事の指示を出してくれなくなったため、彼は誰もいない場所で堆肥づくりを黙々と続ける羽目になった。
照平は完全に孤立した。
堆肥づくりをする照平の目の前に、落ち葉が一枚ひらひらと落ちていった。
その時、ふと元の世界でのことを思い出した。
照平が働いていた昭和気質の中小企業には、敷地内に立派な桜の木があった。
社員全員でその桜の木を手入れすることが毎朝のルーティンだった。
社員総出での落ち葉集め。
その非効率な活動に嫌気がさし、照平は早々に参加しなくなった。
「こんなことに毎日時間をかけるなら、いっそ桜の木を切ってしまえばいいのに!」
思えば、会社に馴染めないと感じ始めたのはその頃からだったかもしれない。
俺はいつもそうだ。
新しい環境に入っても、まずそこのルールや習慣を拒絶して、自分の効率論を押し付けてしまう。
そして、煙たがられて……
異世界で新しい人生を始めるはずが、彼の周りには元の世界と同じ、冷たく孤独な空気が蔓延していた。
「おれの居場所はどこにもないのかもしれない」
つづく




