第12話 ルメンヴァルの令嬢
「それは要するに、娘さんの家庭教師をしてほしいということですか。」
時は数時間前の馬車に戻る。
「そうなるね。驚いたかい?」
アルベルトが自嘲した。
アルベルトの娘は今年15歳になる。
その子が1年ほど前から学校に行かなくなってしまったらしい。
いわゆる不登校だ。
さらに、不登校になってからアルベルトが用意した家庭教師をことごとく追い返し、照平が5人目だという。
照平の仕事は『不登校じゃじゃ馬娘のおもり』だった。
ひとり娘の将来を心配するあまり、藁にもすがる思いで異世界人を頼ったのか。
長老の前で本当のことを言えないわけだ。
それにしても、家庭教師を4人追い返す15歳ってどんな子なんだろう。
きっと威圧的で、会った瞬間から睨まれたりするんじゃないか……
いや、もしかしたら頑なに会ってくれないパターンかもしれない。
......こわ。
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そんなことを考えながら対面したアルベルトの娘、ヴァレリア。
知的で容姿端麗。
さすがにこの地域一帯を治める家の令嬢なだけある。
照平に向けられた笑顔は、なにも知らされていなければ好印象しか抱かなかっただろう。
しかし、照平は騙されない。
今度の家庭教師はどうやって追い返してやろうかしら。ふふふふふ。
もしかしたら、今まさにそんなことを考えているかもしれない。
「ヴァレリア。こちらが新しい家庭教師の照平だ。しっかり勉強を教えてもらいなさい。」
アルベルトから紹介され、照平もあいさつする。
「は、は、はじめまして。ヴァ、ヴァレリアさん。よろしくお願いします......」
噛んだ上に語尾は消え入るようにしぼんでいった。
年下にあいさつするのになんとも情けない。
「はじめまして。照平さま。こちらこそよろしくお願いいたします。あまり緊張しないでください。」
改めてニコりと笑うヴァレリア。
......ほんとに4人追い返してる??
緊張する照平を気づかう言葉と温かく包み込むような笑顔。
それは、照平の情けない態度をすべて肯定してくれたような気がした。
もしかしたら、追い返された家庭教師の方に問題があったのかもしれない。
うん。きっとそうだ。
その後、公邸で身の回りの世話をしてくれるスタッフを紹介してくれた。
スタッフは全部で4人。
責任者である筆頭家令のリカルド。
家事を取り仕切る家政長のイネス。
アルベルトの外出に付き従う若者、ルカ。
その妹ルチア。
今日から照平もこのルメンヴァル公邸に住むことになる。
この4人にはお世話になりそうだ。
ルメンヴァル公邸は今までお世話になっていた村とはまったく雰囲気が違う。
キレイだし生活に必要なものは一通りそろっている。
ヴァレリアもいい子そうだし、うまくホワイト企業に転職できたな。
照平は浮かれていた。
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「Saluvia.Tenes-ne sapienza digna pro precettore de Valeria?」
その少女から放たれた言葉は冷たく、挑戦的な響きを帯びていた。
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照平はこの状況をまったく理解できなかった。
つづく




