第13話 人の出入りが激しい会社はだいたいブラック
ルメンヴァルに到着した次の日。
早速、ヴァレリアに授業をする機会が訪れた。
授業はヴァレリアの部屋で行うとのことで、部屋まではヴァレリアが自ら案内してくれた。
十五歳が相手とはいえ、女の子と二人きりになると考えると緊張する。
自慢じゃないが、俺は元の世界で女性と接する機会がほとんどなかったため、女性に慣れていなかった。
「照平さま。こちらです」
それにしてもヴァレリア自ら案内してくれるなんて、やっぱり優しい子なんだなぁ。
などと浮かれていると、ヴァレリアの部屋の前に到着した。
ヴァレリアに促され部屋に入る。
「え??」
俺は思わず感情が声に出てしまうほど驚き、部屋に入ることを躊躇した。
それは、ヴァレリアの部屋がイメージしていたものとあまりにかけ離れた空間だったからだ。
知的で容姿端麗なご令嬢。
そんな女の子のプライベートスペースはシンプルで落ち着いた雰囲気か、はたまたピンクの内装にぬいぐるみが並ぶ『THE 女の子の部屋』か、俺は勝手にそんなイメージを持っていた。
しかし、目の前にあるその部屋は、昼間だというのにカーテンが閉められて薄暗く、ところ狭しと物や書類が散乱していた。
また、この世界特有のものだろうか、特殊な土のような匂いがした。
イメージしていた部屋とのギャップがあまりにも大きく、俺はどう反応していいか分からなかった。
そしてそれ以上に、『歓迎されていないのではないか』という強い印象を受けた。
新しく来た家庭教師を部屋に招き入れるのだ、多少なりとも部屋を片付けるだろう。
この部屋からはそんな気持ちは微塵も感じられなかった。
「どうしたの?照平さま」
ヴァレリアの笑顔が俺を嘲笑するような雰囲気を帯びたように感じた。
「Saluvia.Tenes-ne sapienza digna pro precettore de Valeria?」
ヴァレリアは突然、聞いたことのない言葉で俺に問いかけた。
その言葉は冷たく、挑戦的な響きを帯びていた。
突然発せられた言葉に俺はさらに困惑した。
「……サルーヴィア。テネス・ネ……??突然なんですか?何語??」
呪文のようなその響きに圧倒され、単語の一つも聞き取れない。
「あら?古代ルメンヴァル語もご存知ないのかしら?」
古代ルメンヴァル語??そんなもの知るわけないだろう!
彼女から放たれた言葉は単なる質問ではない。
『この世界の歴史すら知らない者に、私を教える資格はない』という俺への挑戦だった。
何も答えられなければここで職を失う。
俺は直感的にそう思った。
やっぱり猫被ってたのか……
騙されたことがショックだったが、今はそんなことも言っていられない。
冷静になれ。
今までの自分だったらここで何もできなかっただろう。
でも、今は『ブラウズ』がある。
俺は冷静さを取り戻し、まっすぐ強い眼差しでヴァレリアを見た。
その予想外の反応に、一瞬ヴァレリアがひるんだように感じた。
今までの家庭教師と同じだと思うなよ!
いくぞ、お嬢さま!
『ブラウズ!古代ルメンヴァル語を検索!翻訳してくれ!!』
『......』
「あれ?」
『ブラウズ!!』
『......』
「なんで発動しないの??」
何度唱えてもブラウズは発動しなかった。
さっきまでの強気はどこへやら。
俺はパニックにおちいっていた。
「ひとりでブツブツなんなの?気持ち悪いおじさんね!」
俺に対して向けられた態度は、家庭教師へのものではなく、もはや不審者に対するものだった。
「答えられないなら今すぐ部屋から出ていって!」
俺は肩のあたりをヴァレリアに押され、部屋の入り口から数歩外へ押し出された。
そしてその瞬間、勢い良く部屋の扉が閉められた。
バタン!!カチャ
一方的に閉ざされたヴァレリアの部屋の前で、俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
つづく




