第1話 行き止まりにもどこかに抜け穴がある
「浜松町まで 2km か。歩けるな」
平日の六本木。
最近寒かったのに今日は少し暖かく、絶好のお散歩日和だ。
普段着ることのないスーツと普段履かない革靴に窮屈さを感じながらも、久しぶりの秋晴れが気持ちいい。
「あのブタゴリラ、こっちに全然興味なさそうだったな」
今しがた受けてきた中途採用の最終面接。
面接してくれた社長をブタゴリラ呼ばわりとはなんと失礼なことか。
しかし、それほど面接に手ごたえがなかった。
男の名は照平。
北関東のとある中小企業で働いている。
照平はこれまで4回転職したが、今働いている会社でも周りになじめず、会社に内緒でまた転職活動をしているのである。
転職活動も若いうちはうまくいった。
これまで何の実績がなくても、どんなに経験が浅くても数社からは内定が出た。
今になって考えると、おそらくポテンシャル重視で採用してくれていたんだろう。
30代も後半になると一気に転職活動が難しくなった。
まず書類が通らない。
なんとか数社通っても、面接で落とされる。
今回の転職活動では内定が出る気配が全くなかった。
「君は結局何ができるの?」
ブタゴリラ社長の言葉がフラッシュバックする。
職を転々としてきた照平には30代後半の社会人に求められるレベルの専門性と実績はない。
管理職になって部下のマネジメントをした経験がないことは言うまでもない。
転職活動は完全に行き詰まっていた。
「結局年齢なんだよなぁ」
照平はため息まじりにつぶやいた。
浜松町駅へ向かって歩いていると、歩道でいい年の大人が怒鳴っている姿が見えてきた。
その異様な光景に一瞬戸惑ったが、道路を挟んだ向かい側がどこぞの国の大使館だと知って納得する。
大使館の前には数人の警察官が立っていた。
何かしらの理不尽さに憤り、怒鳴る大人たちと、その憤りを大使館の代わりに全身に受ける警察官。
彼らもまた、いわれのないこの理不尽な状況に憤りを感じていることだろう。
その間を通り抜ける照平は、無表情を作り他人のふりをしてみた。
大使館を抜けると東京タワー通りに入る。右手には東京のシンボルのひとつ、東京タワーが見えてくる。
数年前に東京スカイツリーができたが、東京タワーの存在感が薄れることはない。
昭和生まれのシンボルは少し背の高い平成生まれの兄弟に負けず劣らず、見る者を魅了する。
「同じ昭和生まれでもえらい違いだ」
東京タワーが完成したのが昭和33年。
照平が今働いている会社もまた昭和33年に創業した老舗企業で、もうすぐ創業70周年を迎える。
この老舗企業には、令和の時代になってもなお昭和の気質と空気が蔓延していた。
その空気に馴染めないことが、照平が転職活動をする理由のひとつでもあった。
浜松町駅に着く。
晴れた日に 2km も歩けば気分は晴れそうなものなのに、照平の気分は一向に晴れなかった。
「これからどうしよう」
不安な気持ちを抱えながら、電車に乗り込む。
電車に揺られながら、照平は昭和の空気に包まれる日常へと戻っていく。
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ウーッ、ウーッ
その日の深夜、照平はスマートフォンのバイブレーションの音で目が覚めた。
「こんな時間に何だろう」
寝起きで意識がもうろうとする中、スマートフォンの画面を確認する。
「採用が決定しました。受諾しますか? "受諾する” ”受諾しない”」
まさか!合格したのか。
照平はわらにもすがる勢いで "受諾する” ボタンを押した。
するとスマートフォンから暖かい光があふれ出し、照平の寝室を包み込む。
その光に包まれ、照平は深い眠りにつくのであった。
目が覚めるとそこに見慣れた天井はなかった。
つづく




