第21話
2ヶ月がたった頃、軍部からの呼び出しが来るようになった。私にはもう成し遂げたいことはないのだが。
軍としては私に辞めて欲しくないのか、待遇の良いポストを提案されたり、他部隊の紹介をされている。昔であったら魅力的な話だっただろう。提案には曖昧に断りつつ、そろそろ軍を辞する願いを切りだそうとしていたところ真希に連れ出された。有無を言わさず私は車に乗せられた。何故か前の席には玥がいる。
「アユン元気ないね」
「お前は元気そうだな」
「元気に見える? 国に捨てられてお先真っ暗よ~」
脳天気に笑いながらお先真っ暗とか言う奴がどこに居るんだ。
「おい真希、こいつも連れ回して大丈夫なのか? 」
「まぁ、彼女がいなければ今日は来ていなかったからね」
どういうことだ。玥は敵で捕虜だろう。
玥は軍部の取り調べに協力的だったためか真希と行動を共にすることを許されているようだ。軍部も真希も甘すぎる。もしかしてこいつらできてるのか?
「なら私なんて連れて行かなくていいだろう。放っておいてくれ」
「それ、本気で言ってるね?」
「当たり前だ 私が何の役に立つというんだ」
(真希もしかして伝えてない?)
(うん、飛び出していきそうじゃん)
(あー、絶対そうなるね……)
「おいおい、私にわかる言葉で話してくれないか」
「しばらく時間がかかるからアユンは寝ていていいよ。着いたら起こして上げる」
「ああ お言葉に甘えさせて貰うよ」
微睡んでいると二人は仲良さげに会話している。デートを見せつけないでくれ、と心で悪態をついていると直ぐに眠ってしまった。
どれくらい眠っていただろうか。小高い丘の上にある綺麗な建物の前で下ろされた。ここは病院?私を精神科にでもいれるつもりか。
「玥。案内してあげて。私は車を止めてくるから」
「お任せよー」
「玥、私を入院でもさせるつもりなのか」
「まぁまぁ黙ってついてくるね。」
受付を済ませそのまま玥に連れられ2階まで歩いて行く。誰かに会いに行くのか。
「そこの部屋だから、入ればわかるね。玥はここにいるから」
「一体何だというんだ」
部屋を開けたらベッドには少女がいた。
まさか、見間違いか。
見間違えるはずもない、凛桜だ。
脇目も振らず駆け寄り声をかけた。
「凛桜、凛桜!私だ!」
「どちら……さま……? 」
記憶喪失……なのか……。
項垂れる私。周りはみんな静まりかえる。
「......っ」
真希が笑いをこぼした。
「ちょっと、センパイあんまり意地悪しないであげてくださいよ」
「いい性格してるねー」
「ふふっごめんねアユン。貴女の顔が余りにも必死だからつい……」
「凛桜、覚えているのか...…? 」
「当たり前でしょ、アユン。ただいま 」
「……ぅあああぁぁぁぁ」
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今日は真希がアユンを連れてくるらしい。もうずいぶん連絡をしなくなってしまった。あぁ、私、変じゃないかな。アユンは私を忘れてないかな。
扉を開けたアユンが驚愕の顔をしながら駆け寄ってきた。
もぉ、なんて顔しているの?
「凛桜、凛桜!私だ!」
余りに必死な顔で叫ぶモノだから少し意地悪したくなっちゃった。
「どちら……さま……? 」
ふふ、渾身の演技が決まったのか、アユンはこの世の終わりみたいな顔をしている。真希も玥も呆れた顔をしている。アユンはいつ気づくんだろう。真希はもはや笑っている。
「ちょっと、センパイあんまり意地悪しないであげてくださいよ」
「いい性格してるねー」
え、何これ私が悪いの?
いや確かに私が悪いのか……。
「ふふっごめんねアユン。貴女が余りにも必死だからつい……」
からかいたくなっちゃったの。
「凛桜、覚えているのか...…? 」
「当たり前でしょ、アユン。ただいま 」
最愛の人にやっとこの言葉を言えた。泣き崩れるアユンを抱きながらそっと口づけをする。
二人はいつの間にか扉を閉めてどこかに行ったみたい。気を遣ってくれてありがとうね。二人とも幸せにね。
時間はいくらでもある。これから今まで話せなかったことをたくさん話したい。でもまずは泣き止んでくれないとな。
未来はどうなるかわからない。でもあの時から変わらず私の左薬指で光る指輪が、私たちの将来を約束してくれているようだった。
腕の中にある暖かい存在を抱きしめながら外を見る。
あぁ、この地でも桜は咲くんだ。まずはアユンとお花見に行きたいな。
<完>




