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フラグ90 オレンジ

火曜日となり、俺と陽と伊勢は卒業旅行の計画を電話を繋いで立てていた。

「ういっすー」

「おつー」

「伊勢はそのうち入ってくるだろ」

「そうね、じゃあ始めちゃうか」

「草津かー、とりあえず車で、3時間とかか。俺と陽が運転するとしても余裕そうだな」

「半分で行っても1.5時間だし全然いけるっしょ」

「じゃあ昼前に出て15時付近にチェックインして散策するって感じで」

「いいと思う。昼飯はサービスエリアとかそのへんゆっくり巡って食う感じでいいじゃね」

「たしかに、そうすっか」

軽く時間を決めたところで伊勢が入ってきた。

「遅れてすみませーん」

「お、きた。いつものことっしょ」

「計画進んだ?」

「車で昼前に出てサービスエリアで飯食って15時ぐらいにチェックインして散策するってまで決まった」

「だいぶやん。いいんじゃね」

「レンタカーの予約はしとくわ」

「じゃあ旅館の予約は俺しとくよ」

「えっと、俺は周辺になにか遊べるとことかないか探しとく、2日目用の」

「あ、それと伊勢は車中のDJ任せたわ」

「任せろ」

こうして役割分担をスムーズに済ませて、俺がレンタカーの予約、陽が旅館の予約、伊勢は2日目の企画とDJとなった。

「あ、そだ。どこのレンタカーにする?」

「大学の近くにあるしそこでいいかなって」

「あー、あそこか。たしかに無難だわ。俺はいいよー」

「俺もおけです」

「じゃあレンタカーは10時半予約で次の日の18時に返す感じでいいか」

「いいんじゃね。さすがに15時ぐらいには草津出るでしょ。時間余ったらどっか遊べる場所探せばいいし」

(陽はほんとあらゆることに反応してくれて助かるなー)

「みんな旅館の予算はどのくらいがいい?特にササは」

「んー、1万ちょいとかかな。2万はちょっと」

「おっけー。伊勢は範囲ある?」

「おれもそんくらいかなー」

「おけ、探しとくわ」

「おねしゃす。他は特にないか」

「そう、だね。またなんかあったらRINEで」

「あいあいさー」

(バイトのみんなにもバレたし、この2人にも言っとくか)

「あのさー、彼女できて、、」

「え!!いついついつ!?だれだれだれだれ!?」

(はもんな)

「先月に、その歌乃と」

「えー!!おめでとう!!」

「ありがとう」

「旅行でお祝いしなくちゃじゃん!」

「そんなそんな、でも酒買ってくれるぐらいでありがてえ」

「そんなことならお安い御用や!」

「ありがと」

「じゃあササの彼女できた祝いと卒業旅行ってことで!」

「それはそれで恥ずいからやめろ」

「そんじゃ細かいことはまた連絡するわー」

「あいよー」

「そんじゃ」

「ういー」

(とりまこんなもんか、明日レンタカー屋に電話して予約しとくか、、あ!車種聞いてなかったわ。)

聞き忘れてた!車種どうする?軽でいい?

いいよ!

おけ!

(てか軽しか運転したことねえから怖いんだよな。さてと、あと1時間ぐらいでアニメやるからそれ見て寝るか)

そう思っていると歌乃からRINEが来た。

付き合ってからというもの毎日は連絡をせず、時には何ラリーもしたり、数日空いたり、本当にしたい時に連絡をしている感じだ。俺は一応すぐに返さないようにはしているが。


いまなにしてるのー?

アニメ見ようとしてたー

え!ごめん!

いや、始まるまであと1時間あるしどうした?

ちょっと電話したくて

ええよー

ほんと!じゃあかけるね!


「もしもしー」

「おつー、どした?」

「なんでもないんだけどー、なんとなく寂しくなっちゃって」

「あるよなー、そういうとき。てきとーに話し相手になってやろう」

「なんか上から目線やだー」

「こちとら年上やぞ」

「あはは!最近忘れてたよー」

「忘れちゃうな!正直その方がいいけど」

「気使ってるの?」

「いや、俺も最近歳下なの忘れてる」

「じゃあ一緒だ!」

「そのくらいの関係になれてるってことだ!」

「間違いないね!」

「今日はなにしてたん?」

「部活もバイトもなかったからカラオケ行ってた!」

「いいじゃん!また歌乃の歌聴きてえな、何歌ったん?」

「ほとんどJpopだよー、アニメの主題歌とかも歌った!」

「お!なんて曲?」

「桜色って曲と夏の記憶って曲!アニメのタイトルは忘れちゃった〜」

「どっちも今やってるアニメの曲だね。桜色が君と花束とってアニメで夏の記憶がSummer Timesってアニメ」

「そうそれ!かも!さすがだね!」

「Summer Timesがちょうどこの後やるんだよ」

「そうなんだ!どんな話なの?」

「タイムリープ系だね。ある日、子どもの頃の記憶を思い出してたらその頃に戻ってたって感じの始まり」

「おもしろそう!見てみようかな」

「もう7話とかだから話わかんねえぞ」

「配信探してみるからいいもん」

「そですか。まあ、今やってる中でいちばん好きだからおすすめはしとくよ」

「ほんと!やったー!見たら感想会しよ!」

「いいけど、俺の言ってることほぼ分かんねえと思うぞ」

「じゃあそれも説明してよー」

「しょうがねえからしてやるよ」

「うわ!でもおねがいします」

「てかさ、興味持ってくれんのは嬉しいけどほんと無理に合わせようとしなくていいからな」

「やっぱわたしの彼氏は優しすぎる!でもいいの!私が知りたいって思ってるんだから!」

(彼氏、改めて言われると破壊力が)

「それはまあ、ありがとう」

「えへへ、どういたしまして!」

歌乃は付き合ってからか、元からそうなのか、思っていることを素直に言うようになっていた。楽しいとか嬉しいとか知りたいとか、俺の影響なのかとか考えてしまうが、おそらく違うだろう。それに違うとしても男にとっては嬉しい以外のなにものでもない。

「話逸れちゃったけどカラオケはどんくらい歌ったん?」

「3時間ぐらいかなー、満室になっちゃって出てくださーいって言われちゃった」

「じゃあもっと歌う気だったんだ」

「そうだよぉー、足りない足りない。たかとも足りない派でしょ?」

「おう、気持ちはわかるわ。じゃあ今回の最高得点は?」

「よくぞきいてくれました!でででででで、でん!98点!」

「すんご!ほんと歌上手いな」

「それほどでもー、あるかな」

「前にカラオケ行った時さ、上手いだけじゃなくて、人を惹きつける、なんか元気がもらえる歌声してるって思ったよ」

「え!嬉しすぎる!あ!褒めて花火大会の奢りなしにしようとしてんでしょ」

「そんなことないって!ほんとほんと!」

「じゃあ素直にありがとう」

「どういたしまして。それにあの時はほんとすみませんでした」

「ほんとだよー、奢りで許すって約束だからいいけどねー」

(やっぱまだ怒ってんだ)

「本当に申し訳ありませんでした!」

「あはは、ほんとにそんな怒ってないよぉ。でもあんな酔っ払うのは初なの?」

「歌乃もちょくちょく行ってたからわかると思うけど、まじで初だよ」

「じゃあ逆にレアだったんだ!」

「そう思っていただけると助かります」

「楽しそうだったもんね〜」

「付き合ってからは毎日楽しいけどなー」

「え」

「え?」

「そういうとこほんと心配になる」

「なにが!?」

「ほんと誰に対しても優しいしさ」

「いやいや!そんなことないって!」

「じゃあ、人が困ってたら?」

「助ける」

「電車で座れない子どもがいたら?」

「席譲る」

「ほらー」

「そんなこと誰でもするでしょ」

「じゃあ、例えば友達が彼氏彼女と別れていたとしたら?」

「まあ、飲みいくか話聞くかかな」

「ほんとなんで大学入って誰も好きにならなかったのかわかんないよ〜」

「よく分かんないけど、今ちゃんと好きになってくれてる人がいるからよくね?」

「うん。。ありがとう」

「ん?どういたしまして?」

「あ、そろそろ時間だよね?」

「あ、そうじゃん。途中から忘れてたわー」

「じゃ、じゃあ花火大会でね!ありがと!」

「はいよー、ありがとう」

(やっぱ女ってのはよくわかんねえな)




そして花火大会当日。

(あっちい、しんどー。夕方なのに暑いのほんと勘弁してくれよ。あ、歌乃からだ)

ちょっとだけ遅れちゃう!ごめんね!

(どうせ前髪でも整えてんだろ)

おけーい!15分遅れたら奢りなしだな笑

それは早くしないと!

(ひまだし水でも買っとくか歌乃の分も)

10分後、歌乃が少し息を切らして来た。

「ごめん〜、待たせちゃった〜」

「いやそんな待ってないよ、それよりこれ、水飲みな」

「ありがとう〜」

そう言うと、ペットボトルのキャップを勢いよく開けて、勢いよく水を飲んだ。

「はぁ〜、生き返った〜。歩いた方が息整えられるからいこ」

そう言いつつ、俺の手を引っ張って歩き出した。

「さすがマネージャー。服、それ新しいの?」

「そう!よく気づいたね!先週一目惚れして買っちゃった!」

そう言った歌乃の服は黒のワンピースだった。

「可愛いじゃん、似合ってる」

「えへへ、ありがとう」

「髪もいつもと違うじゃん、それなんていうの?」

「編み込みだよー、これやってて時間かかっちゃった」

「たしかに、むずそう。しかも歌乃だし時間かかりそうやな」

「そうむずくて、、って私だとってなに!」

「やっぱいいツッコミもってんな〜」

「あははっ、たかとにツッコミ褒められちゃった」

(ちょろいな。てかあれだな、服とか褒めようとか考えてなかったけど自然に口に出てたな。これも好きっていう感情のひとつなのか)

「どうしたの?」

「あ、いや、ちょろいなって」

「たかとほどじゃないよ〜」

「うっせえうっせえ」

そんないつも通りのやり取りをしていると電車が来て、乗り込んだ。

「あ、私15分は遅刻してないよね?」

「してないんじゃね」

「よかった〜、奢りなしになるとこだった〜」

「いや冗談な」

「わかってるよー、一応ね一応。遅刻しちゃったわけだし」

「どうせ前髪決まんなくてあたふたしてるって思ってたから全然気にしてねえよ」

「あははっ、さすがだね。でもニアピンってとこだったね」

「かき氷奢ってくれてもいいんだぞ」

「んー、しょうがないから買ってあげる。でも私も食べたいから半分こしよ」

「それで許してやろう」

「あ、お水代返してなかった」

「いやいいよそんな数百円」

「そう?よかった。ありがたくいただきます」

「どうぞどうぞ」

花火大会の会場に行くまでバイトのことだったり、部活のことだったり色々話した。俺は基本家にいるかバイトに行くかのどっちかなので、特にそういったトピックスはなく、歌乃の話を聞いているだけだった。

「会場に近づいてきてるせいか人が多くなってきたね」

「だなー、はぐれないようにしねえと。特に歌乃小さいから」

「小さくない!平均だって!」

「はいはい」

「今年は2ミリ増えてたんだから!」

「それもう誤差な」

「誤差じゃないって!成長してんの!」

「わかったわかったって」

「ほんと?」

「ほんとほんと、今日もたくさん食べて大きくなろうね〜」

「やっぱばかにしてるー!」

「だはははっ、ほらもう着くぞ」

「あ、話題変えたー」

そう言いながらも歌乃は差し出した俺の手を取った。



人混みの中突き進み、どうにか会場に着いた。

「まずはなにから攻めようかなー、焼きそばは絶対だし、たこ焼きも!チョコバナナもじゃがバターもいいなー、箸休めできゅうりもほしい!」

(これ普通に飯食うより高いんじゃねえか)

「おう、もうたくさん食え食え」

「やったあ!じゃあね最初は、焼きそばあった!焼きそばにする!」

歌乃は俺の手を引いて早歩きで焼きそばの屋台へ直行した。

(歌乃のこういう好きなことには一直線なとこ好きだなー。ま、食いもんだけど)

「焼きそばひとつください!」

「あいよ!500円ね!」

俺は言われるがまま500円をおっちゃんに渡した。おっちゃんは手際よく、焼きそばを透明な容器に入れて、差し出した。

「おまちどう!ありがとね!」

(こんなThe屋台のおっちゃんみたいなおっちゃんいるのか)

「ねね、あんなさ、The屋台のおじさんみたいな人っているんだね」

「それ俺も思った!」

「あははっ!考えること一緒になってきてるね!」

「てか焼きそばは歩きながら食いにくくねえか?」

「たしかに、じゃあ食べやすいもの、、フランクフルトがある!一旦歩きながらフランクフルト食べる!」

「はいはい」

その後もフランクフルト、たこ焼き、きゅうりを歩きながら食べて、じゃがバターも買った。

「あそこちょうどベンチ空いてる!いこ!あそこで食べよ!」

焼きそばとじゃがバターをベンチに置いて2人でつつきながら食べた。

「にしても炭水化物だらけだな」

「いいのいいの、エネルギー大事だから」

「それはたしかに」

「それにきゅうり食べたから大丈夫!」

「大丈夫ってなにがやねん」

「きゅうりがすべてを吸収してくれるからいくら炭水化物を食べても太らないんです!」

「きゅうり信用しすぎやろがい」

「きゅうりは世界を救うんです」

「救いません」

「っぷははは!」

俺と歌乃は盛大に吹き出して笑った。

「やっぱたかとといる時が1番楽しいな。居心地いいし」

「俺も楽しいよ、というか最近ずっと楽しい気がする。なんかさ、たくさん色んなとこ行きたい。一緒に」

「わたしも!!色んなところにいって色んなことを一緒に経験して同じ景色を見たい。それにさ、さっきみたいなくだらない会話してる時も楽しいよね!」

「なんなら1番楽しいまであるな」

「1番は今後のためにとっておこうよ!」

「だな!」


残っている焼きそばとじゃがバターも食べ終わり、花火の時間が刻一刻と迫ってきた。

「花火やる前に〆でかき氷食いてえな」

「わたしも!」

「じゃあ買いに行くか」

「ここ空けたらすぐ取られちゃうかもだし、かき氷屋さんすぐそこだから私ここで待ってるよ」

(これはいいのか?ひとりにして、でもほんとすぐそこだしな)

「あーー、じゃあ買ってくるわ。すぐ戻ってくる」

「はーい」

俺は早歩きで進み、ソッコーでかき氷を買って戻った。が、歌乃が男に囲まれているのが見えた。

(やっぱひとりにしちゃダメだったかー、だから東京は好きじゃねえんだよ)

「なにしてんすか、彼女なんでやめてもらっていいすか」

「あ、たかとさん!」

その男グループの後ろから出てきたのは歩だった。

「歩、なんで、その、友達?」

「はい!うちの野球部のやつらです!」

(歩の友達が死角になってて歩のこと気づかなかったー!)

「あ、え、そう、なんだ。ごめんね」

俺は歩の友達に謝った。

「いえいえ!さすが歩の先輩っすね!かっけえっす」

(そっちこそさすが歩の友達だな!初対面でいじるわけないけどいじってるようにしか聞こえねえぞ!)

「あ、いや、あはは」

「でもたかとさん女の子を、彼女をひとりにしたらだめっすよ。僕らだからよかったけど」

(うぜえーー!けど反論できねえー!)

「はい、すんません」

「じゃあ邪魔しちゃ悪いんで僕らはこれで」

「あ、これお詫びというか、助かったし、1人1000円ずつでなんか買って食え」

俺はそう言って5000円渡した。

「まじすか!ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

(言い方野球部だな)

「そんじゃさんきゅーな楽しめよ」

「はい!たかとさんも!」

こうして歩グループは去っていった。

「ありがと」

「ん?あはは、間違いだったけどな!それにごめん。やっぱ一緒に買いに行くべきだったわ」

「いやいや!私が待ってるって言ったから!それに歩さんって分かんなかった一瞬怖かったし」

「お互いさまってことでかき氷食べようぜ」

「うん!」

「あ、」

「ちょっと溶けてるね」

「あははっ!これもいい思い出ってことで!」

「だね!」

するとどこからかカウントダウンが聞こえてきた。おそらく花火のカウントダウンだろう。10秒前となり、歌乃と一緒にカウントダウンをした。

ヒュー、ドーン!

次々と花火が上がり、真夏の空に大きな花が舞った。

俺は風情とか好きな方だが、花火に関しては正直あまり綺麗とか思ったことは無い。だが、彼女と見る花火というシチュエーションも込みだと綺麗だと感じた。

花火が上がっている時間は長くもあり、どういう話をしたらいいのか、黙っているのが正解なのか、よく分からなくなっていると歌乃の方から写真撮ろと言い、花火をバックに写真を撮った。

それから先は話題を探していたが、何も無く、花火を見て、綺麗だねとか、おーとか言うだけの時間だった。

長く感じていたが、終わりが近づいてくると短かったなと感じた。

最後の打ち上げ花火が終わり、続々と駅に向かっていく人が増えていく。

「あー終わっちゃったね」

(やべえ、花火が打ち上がってる時、頭フル回転だったせいか、今完全に頭まわってねえわ。なんか反応しねえと)

「花火って終わったあとの寂しさもいいよな」

(何言ってんだおれ)

「わかる!線香花火やってる感覚に近いやつだよね!」

(そんな感覚は子供のときに置いてきた〜)

「そうそれ」

「このへんみんな駅向かうのかな」

「そうだらー、暑すぎて死にかけそうだな」

「したらさ1駅とか2駅歩いて行かない?」

「お!いいじゃん!そうしよっか」

俺と歌乃は少し遠回りをして、会場を出て、いったん1つ先の駅へ向かった。

「ねえ、今日楽しかった?」

「ん?楽しかったよ?」

「ほんと?」

「うそ、めっちゃ楽しかった!」

「あははっ、じゃあよかった〜」

「なんで?」

「結局全部奢ってもらっちゃったしさ、花火見ててもぼーっとしてそうだったから」

(ま、ぼーっとしてたのはそうだけど)

「そんなこと気にしなくていいんだよ」

俺は歌乃の頭に軽くチョップしながら答えた。

「うん、ありがとう」

「俺は歌乃が行きたいところにも行きたいし、俺が行きたいところにも歌乃と一緒に行きたいからさ、ま、たまにひとり行動する時もあるけどな」

「うん、わたしもそう」

「ただ、前にも言ったけど、友達とかとの時間も大切にした上でな。今日も俺と歌乃の分バイト入ってくれた人にも感謝しねえとだしさ」

「うん!」

そう答えた歌乃は石段に登り、上機嫌で歩いた。

「えへへ〜、たかとと同じぐらいの身長だ〜」

「歌乃がちっせえからな」

「でも今日は盛ってるもーん」

「それで俺とあんま変わんないってよっぽどだな」

「もー、たかともそんな背大きくないくせに〜」

「平均身長は越えてっからいいんだよ」

「そういうところ末っ子っぽいよね〜」

「どういうとこだよ」

「負けず嫌いみたいな?」

「それは元の性格だろうが」

「えーそうかなあ」

「逆に歌乃も長女っぽいとこあるぞ」

「えーたとえば?」

「甘えきれないとことか」

「ぐぬぬ、さすが」

「でも、基本的に自分の力で解決しようとか悩んで努力して頑張ってんの知ってるからそういうところが好きだし、愛おしいなーって思ってるよ」

「なんでそういうことサラッと言えちゃうかなー」

「思ってること言ってるだけだけど」

「もういい!しりとりしよ!」

「話題変えすぎだろ」

「いいの!はい!花火のび!」

「はいはい」

俺は正直花火見て何が楽しいのか分からなかったが、花火を見るだけじゃなく、そこで誰かと何かをするから楽しいのだろう。

屋台で何かを買って一緒に食べるとか、こんな感じで夜道を一緒に歩いて帰るとか、それが好きな相手ならなおさらだ。

なんだかんだでしりとりで2駅分歩き、電車に乗った。

2駅先から乗っても電車の中は満員で最寄りの路線に乗り換えるまで話すこともできないくらいに詰め込まれ、どうにか最寄りの路線へ乗り換えができた。

「やばかったねー、終電ギリギリ!」

「さすがに歩くのしぶいしな」

「ね!汗だくだくだよぉ」

次の話題を探しているうちに最寄りの駅に着いてしまった。

「はーやっと着いたー」

「謎に電車乗ってからの方が長く感じたな」

「それね!」

「家まで送ってくよ」

「うん!ありがと!なんかさー、毎回この最寄り降りた後に寂しさがこみ上げてきちゃう」

「だよなー」

「たかとも寂しいとか感じるんだ」

「そりゃ俺だって人間なんだから感じるわ」

「なんか嬉しい」

「んだよそれ」

「だって、たかとも私と一緒にいたいんだなーって」

「いやまあそうだけど、改めて言われるとこうなんか」

「なに?」

「なんか言葉にしにくい悔しさ的な」

「なにそれー、やっぱ末っ子だね」

「うっせえ」

「次はさ、どこ行こっか」

「そうだなぁ、東京に3年いるって言ってもこのへんしか知らんし、、また見つけとくか」

「私も行きたいとこ言うね!」

「おう!ありがとう!、、なんかごめんな、俺誰かとどっか行くっていう生活してこなかったから」

「野球人間だもんね。でもさ、だからこそ、ここ行きたい!ってところ行こうよ!」

「間違いねえな!」

「もう8月も終わりだね、なんかあっという間だったな。夏」

「江ノ島も行けたし、海も見れたし花火も見れたし、今までと比べたら俺は充分だよ」

「ほんと全部いい思い出だね!今日も!たかとが勘違いしたりかき氷溶けてたり」

「もういいってそれは」

「えへへ、付き合って1ヶ月経ったけど毎日が楽しくてあっという間でほんとにありがとうね!」

暑さも疲れも吹き飛ぶぐらいの笑顔で歌乃は言った。

「こちらこそほんとにありがとう」

「来月もお願いしまっす!」

「運動部の言い方やん。まあ、こちらこそ!よろしく!」

「あははっ!」

照れるとふざけたくなったり、少し緩急があったが、そんな話をして歌乃の家の前まで来ていた。



「そんじゃ」

そう言った俺は自分の家に帰ろうとしたが、歌乃は俺の袖を引っ張った。

「どうし、た」

歌乃の方を振り返ると、歌乃が俺の手を握り、俺のことを見つめていた。このシチュエーション、俺じゃなくてもわかる。

心臓の鼓動がうるさい。そして、それと同時に過去のことが一瞬蘇った。大切な人に嫌われる怖さ。だが、もう色々考えて起きてないことに不安になって、すぐどうしようとか嫌われたらとか勇気が出ないとか、そういうのはもうやめた。歌乃の勇気に歌乃の気持ちにこたえるのが俺の役目であり、彼氏の役目だ。

覚悟を決めた俺は少し体を屈めて、触れるように唇を重ねた。

時が止まっているようで、何も聞こえなく、あれほど暴れていた心臓の鼓動も電車の音も何も聞こえなかった。頭の中は空っぽになり、その時何を思っていたのか、どんな感情が溢れていたのか覚えていない。

ただひとつ、最後に食べたかき氷シロップのせいか、ほんのりオレンジの味がしたことだけは覚えている。

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