助け
その時、女が突然体制を崩した。ワイヤーが緩み、三人が床に落ちる。
「ガハッ!! ゲホッ……」
首のワイヤーが緩んだXが、それを掴みながら激しく咳き込む。
「大丈夫かX!?」
Aはウエストポーチからナイフを取りだし、ワイヤーを切りながらXに近づいた。
「誰よ!?」
倒れた女がキレながら起き上がって叫ぶ。
「誰って聞いた?」
「答えられんなぁ。その質問は」
逆光でシルエットしか見えないが、長いツインテールとガタイのいい――。
「まさか!」
マスクで顔を隠してはいるが、間違いない。詩乃と拓真だった。
「何でここに!?」
Rが叫ぶ。その時、通信機にノイズが走った。
「え!?」
この場に三人が集合しているのだから、通信機は使っている人はいないはずだ。
『僕が教えたんだよ』
「……!」
(海音……!)
「何でって? 助けるために決まってるじゃん!」
「来るなって……言った……のに」
まだ肩で息をしていた翔太がなんとか声を絞り出す。
「はいそうですかって引き下がれるわけないやろ。聞いたならほっとけないやろ」
「行くよ!」
詩乃が言い、拓真も構える。
「鬱陶しい!」
女が叫び、飛び出した。
詩乃は女の蹴りをしっかり見極めて避けた。そこに拓真のパンチが飛んでくる。
「っ!」
女は慌てて体を引いて避けた。しかし、背後にRが迫っていた。
『瑠奈! そこ!』
雪美の声も通信機から聞こえる。
「はあっ!」
Rの怒りがこもった蹴りをもろに食らった女は吹っ飛んだ。
「すごい……」
Xの側にいたAは思わず呟いた。
「なんであんなに……連携が取れるんだ……」
ようやく落ち着いてきたXも呆然とする。
「やっぱり……長くいるから、その分相手が考えてることがわかるんじゃないか? 拓真は助っ人で色んな部活行ってて体力あるし……中江さんは確か動体視力が良かったから……」
「そういう事か……」
「ちくしょう!」
吹っ飛んで壁に叩きつけられた女は叫びながら立ち上がった。と、
『そのあたりでやめておけ』
突然どこからか声が聞こえた。男の声だ。
「スピーカー?」
Aが辺りを見回す。天井にスピーカーが付いていた。声はそこから聞こえる。
『もう引け。――今回は見逃してやる、怪盗共』
そこでぷつんと放送が途切れた。
「しょうがないわね」
イライラした声で言った女は銀髪をかきあげた。
「教えてあげるわ。アタシはベガ。そして今の放送の奴はデネブ。今まであんた達を襲ってた男――アルタイルの仲間よ」
「え……?」
Rが目を見開く。
「まさか仲間が増えてるとは思わなかったわ。次は覚悟してなさい」
言い放った女――ベガは煙幕を張った。
「待てっ! クソッ!」
Aが駆け寄ったが、ベガはもう既に消えていた。
「相賀……。相賀達を狙ってる奴って、今のか?」
拓真が訊く。Aはそれには答えず、Xを振り返った。
Xはもう回復して普通に立っていた。まだ首には、ワイヤーの痕が残っていたが。
「……とりあえず、帰るぞ。海音、今どこにいる?」
『境目の公園だよ』
「俺の家に来てくれ」
通信を切ったAはさっさと歩き出した。
「あっ、待ってよ!」
Rが慌ててAを追いかけ、三人も後に続いた。
公園の東屋の中にいた海音は、つけていたヘッドホンを取って立ち上がった。眼鏡は外している。
「……行こうか、雪美さん」
「うん」
海音の隣に座っていた雪美もヘッドホンを外し、パソコン等を片付け始めた。一本の三つ編みにしたロングヘアが、夜風になびいた。




