64 「最後の攻略対象」
翌日、私はいつものように一人になることが出来ず、そしてそれは自動的に先生をストーキングすることが出来ないことを物語っていた。
でもいいの。今日の放課後には先生と一緒に連れ立って学園長に面会する予定があるから。
学園長が私に会って話をしてみたい、という真意がいまいちよくわからないけど。
何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通せば、まず大丈夫だろうと思ってた。
そして今日の授業も優秀な結果を残すことは敵わなかったけど、とりあえず無事に終わらせることが出来て、他の生徒が帰宅していく中、私は先生に呼び出されて二人で学園長室へと向かう。
「学園長が私にどんな話があるのか、先生は聞いてますか?」
私の声が小さくて聞こえなかったのか、それとも他に何か考え事でもしていたのか。
先生はずっと上の空で歩き続けるものだから、私はなんだか嫌な予感がしてきた。
もしかして、何か隠してない?
私が怪しんだ目で先生を見上げながら歩いていると、その視線にようやく気付いたのか。先生はハッとして聞き返してくるけど、私は言葉を濁して何もないフリをする。
まさか、とは思うけど。
私が魔王であることが、誰かからリークされてるとか……ない、よね?
そう思うとなんだか怖くなってくる。
私自身、魔王という自覚すらないというのに。
こんなところで敵認定されたとしたら、私はやっぱり捕まっちゃうの?
学園長室には実は騎士団が潜んでいて、のこのこやって来た私を捕縛するっていう段取りだったりする?
先生はそれを知ってるから、なんか妙に落ち着きがないってこと?
不安のせいか、私は思わず普段しないことをしてしまう。
先生の服の端を掴む。
「あの、私……何かされたりしませんよね?」
そんな私の不安が通じたのか、先生は立ち止まって目の前で屈む。
先生はとても高身長だから、目線が低い相手には必ず屈んで目線を合わせてくれるところがあった。
よしよしと私の頭を撫でると先生は軽く笑み、言葉をかけてくれる。
「大丈夫だ。俺がいるだろ」
「……はい」
何の根拠もない言葉かもしれないけれど、私はこの言葉で救われる。
先生が言うなら、きっとそうなんだ。
だから安心出来る。
信じられる!
***
ごめん先生、これ無理だ。
どうして忘れていたんだろう。
私はとても重大なことを忘れていた。
思えば彼との出会いは二学期からだったはずだから、これまで何の接点が無くても不思議じゃないんだけど。
これまでずっとゲームの進行通りに行ってないんだから、疑うべきだったんだ。
思い出すべきだったんだ。
私が先生と学園長室に入った時、中にはすでに先客がいた。
それは以前先生からも聞かされていた「ジークフリートも同席する」というもので、先生の言葉の通りジークフリートも学園長室にいたんだけど。
その大英雄の隣にいる彼を、私は知っている。
椅子から立ち上がったジークフリートが笑顔で挨拶し、彼を紹介した。
「やぁ、久しぶりだね女生徒。確かモブディランといったかな? 私のこと覚えているかい。ジークフリート・ワーグナーだ。よろしく頼むよ。そして私の隣にいるのが、今回の面会に同じように呼ばれて来たB組の生徒のギルバート・マクシミリアン君だ」
ジークフリートに紹介されたギルバートが会釈をし、改めて挨拶をする。
「初めまして、よろしくお願いします」
ギルバート・マクシミリアン。十六歳。
B組の普通科で、濃い紫色の髪は燃え盛る炎のように逆立っていて、セットするのに大変そうだなという印象。
目つきは倦怠感漂うやる気なさげな中に鋭さもあって、見ようによっては非常に目つきが悪い。
普通科というだけあって、戦闘の矢面に立つ必要性を感じさせない普通の体格。
そんなギルバート、ギルは立派な『ラヴィアンフルール物語』の攻略対象キャラとして登場する人物だ。
私はずっと彼の存在を忘れていた。
むしろ今の私だからこそ、ギルの存在は最も注意しなければいけない最重要人物だというのに!
私が慌てふためくように「あわわわ」だなんて動揺するもんだから、先生を含めた全員が呆気に取られてしまってる。無理もない。完全に不審者みたいな態度だったもん。
これは、帰った方がいいかもしれない!
そう思って先生に「体調が悪いから帰りたい」と仮病を使おうとした、まさにちょうどその時だ。
私達が入ってきたドアとは真逆の、目の前にある奥の扉がガチャリと音を立てて開くと、そのままパタリと閉じる。
怪奇現象!?
そう思っていたら、奥の扉の手前にあった大きな書斎机に隠れてて、こっちからは死角になってたせいみたい。
書斎机から覗き込んだその姿は、少女だった。
流れるような金色の髪、翡翠色をした目は少女に似つかわしくない切れ長で、どこか鋭さを持っている。
身長が低すぎるのになぜか引きずるほどのマントを羽織っていて、でもそれがどことなく様になっていた。
そんな少女の姿で驚きはしたものの、やはり一番特徴的なところはその長い耳だろう。
人間の耳でもここまで長くはない。ピンと尖っていて、時々動いている。本物である証だ。
「初めまして、我が校の生徒諸君。儂がこのアンフルール学園の学園長を務めさせてもらっているフレイヤ・モルガンだ。これでも君達の数百倍は長生きしてるハイエルフだ。言葉に気をつけたまえよ」
そう語るフレイヤ学園長なんだけど……、やだなにちょっと可愛すぎない?
幼女キャラ? 妹キャラ?
私達なんかより超年上で、どう見ても幼稚園児みたいでコロコロしてて、どうしようもないくらい可愛いのにどうしてゲーム内で登場しなかったんですか!?
学園長だけで男性ファン増やせただろ!
「モブディラン君。キミ今、心の中でとても失礼なことを考えていたね?」
「……っ!?」
「そんなに構えなくても、儂は別に人の心が読めるわけではないから、安心したまえ」
「はっはっはっ! これは一本取られたなぁ、モブちゃん!」と、これはジークフリート。
「え、モブちゃんて……」
「これは失敬、ソレイユ君が君のことをモブちゃんって呼ぶものだから、私もその呼び方が移ってしまったようだな! はっはっはっ!」
「静かにしてくれませんかね」
先生から容赦ない文句が飛び出した!
なんかそれが大ダメージみたいで、伝説的大英雄のジークフリートが落ち込んでる!
そしてそれを微笑ましそうに目を細めて静かに笑っている学園長かわよ。
……じゃない!
なんかいつの間にか学園長のペースにはまってしまってる?
気付けばもはや仮病を言い出せる状況じゃ無くなってるんですけど!
「さて、早速だが本題に入らせてもらおうか。まずはキミ、こっちに来たまえ」
「はい」
そう指されたのはギル。
あぁ、これは……ダメなやつだ。
それでも学園長は続ける。
「まずは解説と行こうかね。ギルバート君」
「はい、学園長」
ギルは学園長の指示通りに、一歩前に出て自分のスキルの説明を始めた。
それを黙って聞く、……しかない。
「俺は普通科を希望しましたが、必要とされるなら俺はいくらでも力を貸そうと思っています」
ギルは自分の右手をグーパーと、握ったり開いたりしているのを見つめながら話し、そしてキッと私の方を見る。その瞳は獲物を確実に仕留める、という強い意志さえ感じられた。
私も覚悟を決める。
「俺のスキルは、質問した内容に対して正確に自白させる力を持っています。つまり、相手が何を隠していようと本人の口から真実を語らせる強制力があるんです」
ギルのスキル『自白』……。
今の私が最も会ってはならない人物、ナンバーワン!
ギルのスキルを私に使われたら、私は自分のことを包み隠さずみんなの前でペラペラと喋ってしまうことになる。
……終わった。
ていうか……、完全に詰んだ!
Eのステータス画面にある親愛度リストに、ギルの名前ちゃんとあります。
やっと出てきました。
そしてEのピンチです。
次回もよろしくお願いします。




