表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/116

63 「それぞれのルート」

 ひとまずルークのリクエスト通りに今夜はビーフストロガノフにしたわけだけど、正直こういうのは一人で作る方が案外一番早いかもしれないと思い始めている。

 私の手伝いをしたい、役に立ちたい、料理を覚えたいという生徒が現れて、私は面倒だったけどその意気込みを無碍に出来なかったから、こうして教えながら作る羽目になるという。

 今まで当番に当たった人は、一体何を作ってたんですか? っていうくらい、包丁さばきは絶望的に酷くて、見てるこっちが怖くなる程だった。

 包丁の扱いに慣れていない生徒にはそれ以外の簡単なこと、例えばレタスを水洗いして、水気を切って、手でちぎってお皿に盛るとか。

 几帳面なタイプの人にはいっそのこと調味料の配分を任せてみたり、包丁が使える人には当然野菜やお肉を切ってもらう。

 あれ? これ私が作ったことになるのかな。

 みんなに指示して、教えて、段取りを考えたりしてたら私はほとんど何も作ってない状態になってるんだけど。

 味は私が見てるから、まぁ多分そっちは大丈夫。

 別に「私の手作り料理が食べたい」なんていうリクエストは受けていないから、いいよね。


 そんなこんなで夕食はみんなで賑やかな雰囲気の中、無事に終わらせることが出来た。

 相変わらずエドガー辺りは何をそんなに機嫌が悪いのか、ずっと不貞腐れたような顔でぶつぶつと文句を言いながら完食してたけど。

 私はそれとなく隣に座って食べていたウィルに聞いてみた。

 なんだかんだこの二人は幼馴染同士で、お互いの細かい変化に気付いていたりするから。


「エドガー? うん、実は僕達も気になってはいたんだよ。Eさんを救出してからと思うんだけど、その頃からなんか虫の居所が悪いのか、ずっとカリカリしてるんだよね。サラがそれとなく聞いてみてくれたんだけど、うるさいって言われただけだって。びっくりしたよ、エドガーはサラにだけはそんな口の利き方しなかったからね。……Eさんは何か知らないのかな」

「う〜ん、特に全く心当たりがないとも言い難いんだけど……」


 私を救出してからってことは、レスタトの塔以来ってことよね?

 だとしたらその辺りに私のステータスに【寵愛】が加えられたって考えれば、辻褄は合うかもしれない。

 やっぱり私の意識がない間に、邪教信者の誰かに何かをされたんだ。

 それが可能だと思われるのは……、レオンハルト?

 だからって何をそんなにイラつく必要があるのか全くわからないし、放っておいても問題ないかな。

 

 問題あるとしたらサラの方なのよね。

 私と先生との間柄をすごく疑っていて、嫉妬に燃えた目で睨み付けてくるから怖いのなんの。

 でも本当に問題なのは、来月末にサラが聖女として覚醒する時が来ること。

 今は一学期末で、夏休みに入ってそこでキャンプと称した実地訓練がある。

 その実地訓練の最終日に邪教信者による二度目の襲撃、そこで仲間達が次々に大怪我を負わされて、それでサラは目覚めるんだ。


 聖女覚醒は止めるべきなのか?

 それともシナリオ通りに覚醒させた方がいいのか。


 聖女として覚醒してから、サラの身の回りは目まぐるしく変化する。

 国を上げて聖女を祭り、邪教信者から保護する為に学園生活は出来なくなってしまう。

 邪教信者も聖女抹殺の為に勢いを増して、あちこちで暴動が起きるようになる。

 

 だったらやっぱり、サラは聖女として覚醒するべきではない……?


 覚醒しないルートは存在しなかった。

 ゲーム上どうしても主人公であるサラは聖女として覚醒し、大きな戦いの中に身を投じることになるから。

 そして聖女の運命を巡って、仲間達にも色んな私情が出て来る。

 

 ウィルとの親愛度マックス状態のベストエンドは、世界樹の柱になることを拒んで人として生きることを選択したサラとウィルは、世界に蔓延る魔物を始末する為に一緒に騎士団に入ることに。

 そして危険な任務をこなしながら、二人は結婚の約束をして幕を閉じる。


 エドガーはドラゴン騎士となって、魔物を狩る旅に出る決意をする。

 全ては世界樹の柱となる運命に背いた、サラの心の負担を軽くさせる為に。貴族として跡継ぎになることを断り、エドガーは一人でドラゴンに乗って旅立とうとしたところで、後を追いかけて来たサラに説教されてしまう。

 そして二人でドラゴンに乗って、魔物狩りの旅に出るという終わり方。


 ルークは、兄ヴォルフラムをその手で葬って、王家の侵した罪を償った。

 そして正式に次期国王となったルークは、長男を失って完全に抜け殻になってしまった父親を支えながら、家族と共に……サラを次期王妃として共に国を栄えさせようと約束を交わし、ラストを迎える。


 そしてヴォルフラムとのベストエンドは、どこまでも魔王に心酔し闇に堕ちていくヴォルフラムのことを、最後まで愛し続けたサラ。

 そしてサラは、魔王の天敵となる自分という存在を消し去る為に魔王の器になろうとした。聖女としての自分ではなく、ヴォルフラムが愛する魔王という存在に自分がなることで愛されようとした。

 だけど神に愛された聖女の肉体を魔王が望まなかった為に、儀式は失敗してサラはヴォルフラムの腕の中で生き絶える。でもサラは成功していた。

 ヴォルフラムの心の中にサラはいつまでも生き続けることが出来たからだ。なぜなら自分の腕の中で息を引き取ったサラに、ヴォルフラムは初めて涙したから。

 それはまごうことなく愛する者を失った悲しみで流されたものだったから。サラは自ら死ぬことで、ヴォルフラムに永遠に愛された……という結末。


 レイス先生はサラとの親愛度の高さで、大きくエンディングが変わる。

 最も低い場合は、最終決戦で何人か生徒を失った先生は失意の中、サラが世界樹の柱になってしまうことを許してしまう。残された先生は一人で償う為に、放浪の旅に出るというもの。

 最も高い場合、世界樹の柱となる道を全否定する程にサラを愛してしまった先生は、レオンハルト側につくことで闇堕ちしてしまう。世界の敵になることでサラを守ろうとする先生だけど、結局サラと共に立ち上がった生徒達によって先生は打ち倒されてしまう、という一番見たくない最期を迎えた。


 どれもサラは確実に聖女として覚醒して、それぞれのエンディングを迎えているけど。

 もしゲーム上で先生が幸せになるルートが存在しないのだとしたら、ゲームになかった現象を起こせばいいってことにならない?

 つまり、サラが聖女として覚醒しない未来を選んでみる。

 そうすることで当然、影響は大きい。

 世界樹の力で抑えられていた魔物の出現が大幅に増えて、世界は混沌となる。

 先生一人の命の為に、ここを絶望に満ちた世界に導く選択を、私がしてもいいの?

 

 きっと私が本当に魔王なら、迷わずその未来を選択していただろうな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ