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空の夏  作者: 春月桜
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空の夏5

これが最終話です^。<=☆


 いつも特進科の人達から見る普通科の人達は汚らしいと言われている。


 それは、つまり同じ人間を下に見ているということだと俺は思う。


 だけど、俺は普通科の人達が羨ましかった。


 法則から少し外れたり、楽しそうに笑ってサボったりできることがすごく羨ましかった。


 そして、あの子とあってから特進科の奴等が汚らしいと言ってる事がすごく腹が立つ言葉になった。


 いつも特進科の校舎の窓から普通科の校舎で見つけるあの子は楽しそうに友達としゃべったり遊んだりしていて、すごく可愛いと思った。


 何故だか輝いていた。


 俺は人から輝いているように見られているだろうか?


 人から羨ましがられるような人なのだろか?


 あの子を見ているとわざわざ大人の言うことを聞いて、ただ、勉強しているだけの俺らよりもきっと楽しいんだろうなと時々切なくなる。


 何かを感じさせる境界線は大きく壁を造っている。


 俺達は頭がいいとか、運動ができるとか言われてるけど、夢などを追いかけている人は実際には少なくて、ただ単にここに通えればいいという考えしか持っている人がほとんどだ。


 いい会社に入っていい仕事を貰っていい給料を貰ってと。


 一人で生活ができるようになるだけで、何も楽しいことなんてないじゃないような気がする。


 俺には何もかもがつまらなく感じた。


 父さんの会社を受け継ぐのもいい。


 両親の言うこともきく。


 だけど、ただ一つだけあって欲しいものがある。


 あの子が欲しい。


 初めてあんな大声でわがままを言った。


 あの子が隣にいないと、近くにいないと。


 俺は不安でしょうがない。


 情けないと思うときもあるが。


 それでも、あの子がいないと俺は怖くなる。


 あの子も遠くなってしまう気がして。


 いつも一人だった俺にやっと大切な子ができたんだ。


 ここで失ってしまったら俺のこの気持ちはどこへ行ってしまうだろうか。


 やっと心に灯った光を消してしまってはまた振り出しに戻ることになる。


 頼むから、俺の傍にいてくれ!!!!!


 ギュッ


 俺は力いっぱい抱きしめた。


 この子は何でこんなに温かいのだろう?


 夏だから?


 いや、もうわかってる。


 やっと自分にできた自分を吐き出そう。


「好きだ。夏。」


 俺は夏の耳元でそう囁いた。


 頼むから…


 頼むから。


 俺を一人にしないでくれ。


 夏は重い足取りを止めて俺の情けない顔を見て俺の胸に飛び込み、また大きく泣いた。


 ギュッ


 そのときに夏の握り締めた手の力強さから返事はわかった。


 ちゃんと俺に身を預けてくれる夏はとても愛しかった。


 いつか、君からも返事がききたいよ。


・ ・ ・ ・ ・


 怖かった。


 君とつりあわないことなんて知り合ったときからわかってた。


 でも、でもね。


 一緒にいて欲しくなってしまったんだ。


 気づいたらもう、君に恋をしていた。


 ねぇ、赤杉。


 もし、君が私の前に現れなかったら、どんな人生だったのかな?


 君がいなかったら私は幸せだったかな?


 そんなこと、絶対にないよね。


 今この繋いでる手を離したら、私はどうなるだろう?


 君が支えてくれた気持ちはどこに向かっていくだろう?


 この手がいつまでも、私のものであって欲しい。


 ずっとそう、願うよ。


 私達はゆっくり赤杉の家に戻った。


・ ・ ・ ・ ・


 ガチャッ


「ただいま。」


 赤杉は重く言葉を吐いた。


 いつもの声と違うのが一瞬でわかった。


 緊張しているのが震えている手から伝わった。


 私はその手を強く握った。


 赤杉、安心して。


 私は何があっても赤杉を言葉を信じるよ。


「お帰り。待ってたわ。さあ、リビングでちゃんと話しましょう?きっとお父さんはわかってくれるわ。」


 蓮奈さんが廊下をゆっくり歩いて迎えに来てくれた。


 その言葉と笑顔はきっと何よりも勇気を与えてくれたと私は思っている。


 赤杉と私は蓮奈さんの後にくっついてリビングに入った。


 赤く大きな絨毯が迎えてくれるリビングは温かさで満ちていた。


「そこに二人で座りなさい。」


 努さんはそう一言、言った。


 私と赤杉は言われたとおり努さんの向かい側のイスに腰をかけた。


 努さんの顔は無表情の中にも何か温かさがあるのを感じた。


 さっきとは違う何かがあった。


「ちゃんときかせてくれないか?厚木さん。君がどんなことがあったのか。どうしてここにいるのか。」


 努さんの言い方はすごく優しくて驚いた。


 何だかすごく温かい。


 そう思った。


 私はすべてを話した。


 家での悲しみ。


 ここに連れてきてくれた赤杉の優しさ。


 すべてを話した。


 途中、涙がたくさん流れ出たけど。


 赤杉がそのたびに手を握ってくれたから、私は自然に話せた。


 赤杉の目は真剣だった。


 見つめあってわかる。


 赤杉がちゃんと傍にいること。


 必要としてくれること。


 全部伝わってくるから。


 安心して話せた。


 話が終わってから。


「そうか。お母さん。やっぱりお母さんの言う通りだったよ。君によく似ている。」


 努さんは微笑みながらそう言った。


 え?


 似てる?


 私と赤杉は呆然とその話に聞き入った。


「でしょ?やっぱりね。驚いてるみたいだから全部話すけど、私も本当は夏ちゃんみたいに家出をしてね。お父さんに引き取られて、いつしか恋に落ちたんだけど。やっぱりお父さんの両親に反対されたわ、位が違うとか、頭が悪いとかで。でもね、お父さんは諦めなかったの。お父さんのお父さん、つまりはおじいさんね。その人が「お前の力でこの会社の利益を十倍にしてみろ。それができたら付き合うことも結婚もすることも認めてやる。」そう言ったの。そしたらね、本当にお父さんったら十倍にしちゃったの。だから、今ここにいるんだけど。だから、悠もそれに挑むのならお父さんがお付き合いを認めるけど。どうする?」


 蓮奈さんはそう赤杉に尋ねた。


 赤杉は無表情でこう言った。


「やってみせる。」


 赤杉はそう言うとイスから立ち上がってどこかへ行ってしまった。


 私の手も離して。


 私は離された手を見つめた。


 少し寂しくて切なくて。


 どうしたらいいんだろう?


 私はそう悩んだ。


「お父さんの部屋に行ったのね。心配なら見てきてもいいのよ?」


 蓮奈さんはそう言ってくれた。


 私はまっすぐに蓮奈さんを見つめて、赤杉と繋いでいた手の平を握り締めながら言った。


「いえ、信じてますから。」


 私はそう言って席を立ち赤杉の部屋に戻った。


・ ・ ・ ・ ・


「お父さん、あの子本当に私に似てるわ。」


 蓮奈さんは満面の笑みで言った。


 その様子を見て努さんも。


「あぁ、本当に。きっと綺麗になるんだろうな。」


 努さんはそう言って笑った。


 二人の背中は寄り添って支えあっていた。


・ ・ ・ ・ ・


「べろべろばー。おお、笑った笑った。」


「もう、お父さんったら歩香あゆかちゃんにメロメロね。」


 しわが増えた二人の顔はまだあのときと変わらなかった。


「本当にこんな可愛い娘と孫に囲まれて悠も両手に花ね。」


 笑ってそうつぶやく蓮奈さん。


「いえいえ、そんな。」


 私は食器を洗いながら首を振った。


「あら、そろそろ帰ってくるんじゃないかしら。」


 蓮奈さんは円い時計を見て言った。


「ああ、そろそろですね。」


 私は笑いながら言った。


 ガチャッ


「ただいま。って父さん!!歩香に触るなー!!」


 扉を開け慌てて家に飛び込みいきなり嫉妬する人は。


 私の旦那様。


「いいじゃないか、私の孫だぞ!!」


 そして旦那様のお父様は無邪気にそう言う。


 今は毎日が楽しくてしょうがない。


「新聞にもやっぱり載るのね。」


 リビングの机の上に乗っていた一冊の新聞には大きく写真が載り、その横にはこう書かれていた。


『大企業の娘誕生!!』


 私と蓮奈さんは微笑んだ。


 写真には私と悠と歩香三人で幸せそうに笑っている写真だった。



 たとえ位が違ってもきっと一緒にいられるときがくる。


 今でも、信じてるよ。


 焼きもち焼きの旦那様。


 きっとあのときの夏の空はもうくることは無いと思うけど。


 きっと君が夏を連れてきたんだね。


 またこの季節がやってきた。


 生ぬるい風が入ってきて私達の髪をなびかせる。


 















 終わり














最後まで読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけていたら嬉しいです。

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