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空の夏  作者: 春月桜
1/5

空の夏1

「あつーい。こんな日に勉強なんてやってられないー。」


 こんなことを言って一日ダラダラしてるナマケモノのような女は。


 厚木あつき なつ


 高校二年生。


 私はバカで、今は夏休みなのにわざわざ学校に来て夏期講習中。


 サボろうと思えばサボれるんだけど。


 サボったらサボったで、またややこしくなるから、がんばって通っている。


 この日は気温三十度。


 ダラダラしたくなるのも無理はないはず。


 髪の毛は綺麗に手入れをしている金髪。


 眉毛を隠すくらいの前髪。


 頭の天辺で黒地にピンク色のハートがいっぱい飛んでるシュシュをつけて一つ結んで緩く巻いている髪。


 いわゆるフワユルって奴?


 耳には大きなピンクのハートのピアス。


 黄土色で整えた眉毛。


 長くてぱっちりくっきりした目。


 グロスで艶やかな桃色の潤った唇。


 首には大きなピンク色のハートのネックレス。


 手首には小さいハートの腕時計。


 Tシャツは薄く桃色。


 ピンクとハートが大好きなの。


 第一ボタンは常に開いている。


 赤のチェックの短く折ったスカート。


 見た目は不良。


 このなりだから当たり前って思うかもしれないけど。


 家族の中だけは、どうも慣れない。


 でも、それには理由がある。


 その訳は親が子供がいる人と勝手に決めて再婚して。


 いきなり知らない人が家に来て。


「これからよろしくね。それと、この子は今日から君の弟だから。」


 そう言って生活することになったから。


 私は息苦しくてしょうがない。


 私だけ、話についていけないから。


 三人でいつも楽しそうに話しているところを見ると。


 私っていらないのかな?って時々行き詰る。


 誰かが支えてくれるならまた別なんだろうけど。


 今の私にはいないから。


 なんてゆーか、何にも考えたくない感じ。


 友達には困ったことは無い。


 女友達はたくさんいるから、結構楽しい。


 だけど、やっぱり家に帰ると誰も私に気が付かなくて。


 お帰りの一言も聞こえない。


 私が音を立てていないから?


 それとも私にみんな気が付いていないの?


 私はいつも一人で生活しているようなもの。


 寂しい。


 私は一人屋上でため息を深くついた。


 私は出会いを探してる?


 それとも、好きな人?


 それとも……落ち着けてありのままの私がいれる居場所?


 何を探して生きてるんだろう?


 私は一人頭をぐるぐると回した。


 そのときだった。


「何してんの?ここ、立ち入り禁止だよ?」


 いきなり目の前に男子が現れた。


 ネクタイをしているから特進科だ。


 ↑特進科はネクタイをしないといけません。


 ん?


 私は首を傾げた。


「どうして、特進科の人が普通科の校舎に?」


 私は目を丸くして尋ねた。


 こんなところに人なんてこないし、しかも、頭がよくてスポーツ万能の何でもできる特進科の人が、この頭が悪くて柄が悪い普通科の校舎にいるなんてそもそもおかしいことだ。


 ↑特進科と普通科の校舎は別々です。


 すごく驚いてしまった。


 目を丸くした。


「見回り。屋上とかに入ってる人がいないか確かめにきたの。はじめてきたけど。本当に立ち入り禁止って書いてあるのに入ってくる人っているんだね。」


 その男子は嫌そうな顔をしながら私のことを細目で見つめてきた。


 ムカッ


 私は腹が立った。


 どうせ、普通科と特進科は違いますよ。


「悪かったわね。」


 私はムスッとしながらつぶやいた。


 だから、特進科って嫌い。


 平等な人間なのに、勝手に人のことを下に見て。


 腹が立ってしょうがない。


「いいの?単位とれなくても。」


 この男は人を怒らせる名人らしいな。


 私はそう確信した。


 人を見た目で判断しやがって。


 そりゃ、私は勉強はできないけど。


 運動なら、できるもの。


「別に。夢なんて無いし。」


 私はそっぽを向きながら言った。


 きっと、あなた達より断然頭は悪いけど。


 性格ではきっと普通科のほうがいいに決まってる。


「ふーん。そうなんだ。でも、普通科っていいよね。のんびりできて。俺らなんていつもぴりぴりしてるやつらがいるから、注意しないといけないんだよねー。面倒くさいったらありゃしないよ。」


 その男は大きく深くため息をつきながら話してくれた。


 私の隣に来てゆっくりと聞きやすいくらい丁寧に話してくれた。


 何故か、とても聞き入ってしまった。


 何故だか、この人に引き付けられる。


 この人は引力を持ってるんじゃないかと思えるほどだった。


 綺麗な整った黒髪。


 少し茶色がかった瞳。


 少し高い鼻筋。


 薄っすら桃色の唇。


 きりっとした輪郭。


 緩く着崩している特進科の征服。


 声変わりしている低い男の人の声。


 すべてが人を引き付ける何かを持ってる気がした。


 まるでブラックホールのよう。


 ああ、熱い。


 きっと夏だから。


 そうだよね?


 きっと…


 そう…


 信じよう。


 こんなにつりあわない人はいないから。


・ ・ ・ ・ ・


 私とその男子は少しの時間だけ話した。


「あ、そろそろ、行かなくちゃ。じゃあ、バイバイ。」


 その男は教室に帰ろうとした。


 私は、それを止めた。


 行かないで。


 一瞬そう思った。


 え?


 今の何?


「何?」


 その男子は首を傾げながら私に尋ねてきた。


 私はアタフタとしながら。


「名前……なんて言うの?」


 私は頬を赤らめながら尋ねた。


 あなたに引かれていく。


 がんばって地面にしがみついてるつもりなのに。


 私とこの人がつりあうわけ無いのに。


 ねぇ、もっと話したいよ。


 もっと君の隣にいたいよ。


 私はこのときそう願っていた。


「あ、そういえば自己紹介してなかったね。俺は特進科の二年二組。赤杉あかすぎ ゆう。よろしく。君は?」


 赤杉と名乗った男子は私に尋ね返してきた。


 私は頬を赤くした。


 あまり名乗ったことが無かったから。


 ちょっと緊張した。


「厚木 夏。」


 私は恥ずかしがりながら言い放った。


 ちょっとくすぐったい。


 そんな感じがした。


 手汗なんていつもはかかないのに少しかいてしまうほど。


「そっか。じゃあ、夏でいいよね。バイバイ。」


 赤杉はそう言い残して手を振りながら行ってしまった。


 トクン。


 軽く心が鳴った。


 この感じ。


 なんだか懐かしい。


 生暖かい風が全身を包む。


 ああ、熱い。


・ ・ ・ ・ ・


 帰るの嫌だなと思っていた。


 何でかって?


 帰ったって私の居場所が無いからだよ。


 重い足取りで歩いていると…


「おい、ちょっと待て厚木。」


 いきなり先生に止められた。


 やったー。


 私は目を輝かせた。


 これで道草少しできる。


「はい!!!」


 私は元気よく心を弾ませながら振り返った。


 先生は少し驚いたが、また普通の顔に戻った。


「頼みにくいんだが…特進科の二年二組の赤杉に資料を届けて欲しいんだが…」


 先生は苦笑いしながら私に頼んできた。


 え?


 特進科の校舎にわざわざ行くの?


「何故、私なんですか?先生が行けばいい話しなんじゃないんですか?」


 私は顔を引きつりながら先生に言い放った。


 私は特進科の校舎に行くのが嫌い。


 何故かというと、特進科は普通科のことを下に見ているため、特進科は普通科のことを汚いばい菌みたいな扱いにするから。


 何もしてないのに。


 何でここにくんの?っとか、あんな格好よくできるよね。っとか。


 色々聞きたくも無い話し声が聞こえてくるため。


 とても嫌な思いをすることになる。


「それがさー、俺結構忙しくて。これから出張に行かなくちゃならないからさ。頼むな。」


 先生はそう言って手を振りながら行ってしまった。


 こんなことってあり?


 最悪なんだけど。


 私はその頼まれた茶色い大きな封筒を眺めた。


 特進科はまだ授業があるはず。


 後二分で休憩時間だから、今から特進科のほうに行けば間に合うな。


 私はお気に入りのピンクに光るハートの腕時計を見つめながら歩き出した。


・ ・ ・ ・ ・


 特進科の校舎…


「何で普通科がこんなところにくるの?」


「だよね?あんな格好してここにくるなんて汚らしい。」


 相変わらずこりない奴らが私のことを睨みながらひそひそ話で話しているのが聞こえた。


 こっちに聞こえてるっつーの。


 私はその言ってる奴らに腹を立てながら歩いていた。


 そう思っている間に二年二組に着いた。


 私は教室を覗いたら何故かショックを受けた。


 赤杉が一人の女子と色々話してるのが見えた。


 何だ。


 全然ぴりぴりなんてしてないじゃん。


 何それ。


 見せ付けたいの?


 そんなに特進科と普通科て差別されなきゃいけないの?


 私は何故かむしゃくしゃしてきた。


 私がうつむいて立っていると…


「は?何この汚ねぇーの。何?まさか、普通科が特進科の男でも狙ってるのか?わー止めとけって。絶望するぜ?」


 何この男ら。


 何かすごく嫌な空気。


 少し。


 怖いかも。


 私は目を逸らした。


「は?普通科が調子乗ってんじゃねぇぞ?」


 パンッッ!!


 いきなり頬を叩かれた。


 やっぱり。


 こいつらおかしいと思った。


 頬がジンジンと痛む。


 痛い。


 こっちが調子に乗ってんじゃねぇぞって言ってやりたいよ。


 普通科と特進科で何でこんなに差別されなきゃならないんだよ。


 グッ


 私は拳を握り締めた。


 悔しい。


「今の音は何だ…よ…??君夏じゃん。」


 聞き覚えのある声が耳に染み込んできた。


 温かくて、優しくて。


 私の求めてるこの声。


 赤杉。


「おい、今の音ってまさか。お前らか????!!!!」


 いきなり赤杉の顔が変わり。


 鳥肌が立つほど迫力がある顔だった。


 え?


 赤杉?


「お前ら、特進科が暴力をふるってどういうことかわかってんだろうな?」


 赤杉は目を鋭く光らせた。


 前見た赤杉とは全然違った。


「あ、赤杉。いや、これには訳があって…」


 私に手を出した奴らはアタフタしながら言い訳をしようとしていたとき。


「今日から一週間、外出禁止。一ヶ月トイレ掃除を一人でやってもらう。もちろん監視付きで監視の人がOKを出すまで掃除をやり続けてもらい。しかもそれで授業に遅れでもしたら単位を減らす。わかったな。」


 赤杉はスラスラと言葉にし、私に手を出した奴らを睨んだ。


 え?


 どういう意味?


 何そのちょっとした小さい罰。


「ありえねぇー何でそんなに今回厳しいんだよ。」


 奴らの一人が言ってきた。


 何か特進科ってよくわかんない。


 私はそのおかしな光景を細目で眺めていた。


「今回は暴力をふるったってことかな?」


 赤杉は軽く言っていたが。


 私には軽くショックだった。


・ ・ ・ ・ ・


 君にはまだ言えない。


 確信はしたくない。


 確信なんてしてしまったら…


・ ・ ・ ・ ・


 次に続く…












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