貴方の色に染まった私
身に纏うのは白ではなく、黒のウェディングドレス。ここまで自分の色に拘る旦那様に顔が引き攣った。
「姉ちゃん、なんで一瞬でもあの兄ちゃんから逃げられると思ったの?」
「アレを好きな自分を認めたくなかった……」
好きな男が独占欲の塊だった。
そんな事実を改めて実感する。
……そういえば、前世では黒のウェディングドレスには「もうあなた以外には染まりません」とかいう意味合いがあったような気がする。
「でも、白よりも黒の方が似合うのよね」
悪役令嬢顔だからだろうか。
首を傾げると、ダイヤのネックレスが揺れる。
私達は冒険者・錬金術師・鑑定士としてそれぞれ割と稼いでいるから、ちょっと豪華な結婚式なんてできるのだけど、それはそれとしてこのドレスは身内内でも「喪服作るの?」と言われてしまっていた。まぁ、サミュエル元々いいとこの三男坊だからちょっと豪華な結婚式自体はおかしくはないけれどこのドレスはいいのか。
サミュエルいわく、「俺の色を着て立っているだけで世界で一番の花嫁だから、気にしなくていいよ。何なら、二人きりの結婚式にしたっていいんだし」とのことである。流石に、うちのエリオットがキレて二人きりの結婚式は回避された。
……再会後に一回逃げてから執着度が増した気がする。あの時何故かゲイリーにプロポーズされてたからかもしれない……。
「あの小さかったレオノアがこんなに綺麗に……」
「はいはい、泣かないのアンタ」
大きな身体を震わせて号泣しているお父さんの背中をお母さんが撫でた。それにしても、他の人が自分より泣いてると涙ってひっこむなぁ。
「お父さん、お母さん。私を拾って育ててくれてありがとう。おかげでお嫁にいく歳まで生きられました」
「私達もレオノア、あなたに救われてきたわ。あの子が亡くなったところで沈み込んでいたところへ、あなたという天使に出会ったのだもの」
「やっぱり嫁に行くのは早いんじゃないか?」
「父ちゃん、適齢期だよ」
呆れたように言うエリオットは、軽くお父さんを叩いた。
やっぱり、愛されて育てられたんだなぁと実感する。
「レオノア、そろそろだよ!」
エヴァに言われて、お父さんと一緒に移動する。
お父さんはやっぱりまだ泣いていた。
教会の扉の前に立つと、あの日、鑑定をお願いしようとギルドの彼の部屋を訪ねた日のことを思い出した。
お父さんに手を引かれて、彼の元へ行くと「やっぱり、君にはその色が似合うよ」と満足そうに頷くので、「サミュエルだって赤が一番似合うわよ」と返す。
……バカップルか!?
「君達、本当に昔っから仲がいいよねぇ」
「再会した時あからさま過ぎて、もう割り込もうと思う気持ちすら失せたからな」
冒険者の時の姿をとって参列した現国王と現騎士団長は呆れたように言った。
……おそらく、ルースの横でニコニコと笑っているのはキャロル様だろうなー。
「汝サミュエルは、この女レオノアを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「死が二人を分かつとも、君だけに添うことを君に誓おう」
「いえ、神に誓ってください。新郎」
神父様のツッコミが入るものの、サミュエルは微笑むだけ。……神様、アストラ様はともかく女神様はアレだったもんね……。
「汝レオノアは、この男サミュエルを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
これ以上神父様に心労かけるのもかわいそうなので、素直に答える。
誓いのキスを交わす前に見た彼の顔が本当に幸せそうで、ずっとこの顔でいてくれるようにできればいいな、なんて思うのだった。




