雨の日の置き傘5
その女性には見覚えがあった。あれ、誰だっけ。知り合いというかどこかで見たことがある顔だ。それと同時に襲ってくる悪寒。
僕はぶるりと体を震わせた。
「久しぶりね、茅部尚君」
「……!」
あ、ヤバイ。思い出した。
この人は一週間前のサマーソングフェスティバルで会った……。
「尚の知り合い?」
僕は息を飲み込んだ。
「多分、お前も知ってるぞ」
「へ?」
彼女はにっこりと笑って、僕達に歩み寄ってきた。
「茅部君、約束守れてる?」
笑顔が、怖い。目は笑ってない。
「……バラす相手なんかいませんよ」
「ふーん?」
大賀いづみさん、この前の殺気立った感じはないけど、凄い圧力だ。
「ほ、ほんとです。ていうか、なんでこんなところにいるんですか?」
彼氏と浮気相手への復讐のために一芝居打って、それを知った僕に脅迫まがいの口止めをしてきた彼女。あれから身内の揉め事は解決したのだろうか。
「あたし、塾講師だからね」
「え、職業が……?」
あの殺気は一人二人殺ってると思うのだが。
ギロリと睨まれる。
「なんで疑うのかしら?」
僕は目をそらした。
「なんでもないです」
この人苦手だ。
「そっちの子は確か今居梨郷ちゃんだったわよね。よろしく」
「えっと……はい。よろしくお願いします」
僕にしがみつく。安定して人見知り発動。
「で、傘を調べに来たの?」
「! なんでわかるんですか!?」
どうやらこの塾全体に広がってる噂らしい。
「もう有名なのよ。あまりにも子供達が騒ぐから、一本残った置き傘を当番の先生が職員控え室に保管したこともあったの」
梨郷が息を飲んだ。
「そ、そしたら?」
「朝にはなくなってたそうよ」
「えっ」
傘立て以外の場所に置いてあっても朝には消えるってことか。
「ほんとに調査に来たのね。こういうことに首突っ込むのが大好きなのね?」
大賀さんはわざわざ僕と同じ目線で首を傾げてみせた。顔、近いんだけど。
「ただ、頼まれたから来たんですよ。こいつに」
「でも乗り気じゃなきゃ来ないでしょ」
まぁ、それは……まぁ。僕はいつの間にか梨郷に甘くなってしまったのだと思う。
「まぁ、いいわ。ロリコン君に協力してあげる」
「はぁ!?」
思わず僕は声を荒げた。
「止めてくださいよ。こいつは」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。
「付き合ってるようにしか見えないもの」
それはないだろ。良いとこ兄妹だ。
「あのあの、どの傘かわかりますか?」
梨郷は完全に気弱な小学生になってるし。
「えーっと」
大賀さんは傘立てを覗き込む。
「見当たらないわね」
傘を持ってきた人物はまだ来てないってことか。
それにしても。傘立て以外の場所に置いておいた場合でも朝には消えてるのか。独りでになくなるはずないから誰かが侵入しているのは間違いない。でもセキュリティシステムが厄介だな。
開けることができる人物が怪しいけど。侵入する方法も考えないといけない。
いや待て。本当に侵入したのか? 当番が鍵を締める時に中にいることが出来れば、それは侵入とは言わないのではないだろうか。




