夜の廊下で足音が3
僕は少し考えて、
「確かにな。この掃除機は夜は電源を切ってあるし」
っていうよりスリープモードにしてあるから誰かが解除しないと動かない。棚も一人でに開いたりはしないだろう。
「やっぱりっ」
誰かが棚を開けて、茶筒を落としてしまい、掃除機で片付けようとしていた……そう考えるのが自然な流れか。
少なくとも僕はやってないし、梨郷がイタズラしたなんてこともないだろう。赤津さんがこっそり戻ってきたのだろうか。いや、彼女はそんな非常識なことはしない。
「梨郷、掃除機が動いたことと、棚が開いてお茶の缶が落ちたことは関係あると思うか?」
「へ? えーと……お茶の缶が落ちたのはわからないけど、掃除機にはカメラがついてて、お茶の缶が落ちるところが見えたから動いたんじゃない?」
「まぁ、カメラはついてるけど、スリープモードの時は勝手に動かないんだ」
僕はキッチンの端の方にある、掃除機用の充電機を指で指した。形としては、スマホ用の充電台を大きくしたような見た目だ。
通常モードの時にバッテリーが減るとあそこに戻って勝手に充電する。スリープモードは解除されるまで充電台のところから動かないはずなのだ。
「わかったわ!」
「え?」
「尚は難しく考え過ぎなのよ。これはもう、掃除機がおかしくなっちゃったんじゃない? えーとほら、ごさど……? ってやつ!」
ごさど?
「だから、間違って動いちゃうことよ」
「ああ、誤作動な」
これも覚えたての言葉っぽいな。
でもそうか、あり得る。機械に不具合は付き物だ。スリープモードが勝手に解除されてしまい、動きだしてしまった、と。
誤作動を起こした原因はあるのだろうか。たまたまか、それとも何か外的要因が?
「なんかわかった?」
さっきまで怯えてたくせにわくわくするなよ。
「考え中だ。掃除機が動いたのは、誤作動だとしても棚の扉が開いてお茶の缶が落ちた原因がわからない」
「んー……。あ、掃除機が動き出して、棚にぶつかって揺れた時に扉が開いてお茶の缶が落ちたんじゃない?」
掃除機にそこまでパワーはないだろ。そう突っ込もうとした僕ははっとした。
「そうか……」
「え!? わかったの!?」
「ああ。今梨郷が言った通り、揺れたんだ」
「棚が?」
「そう。正確にはこの辺り全体がな。お前、夜中になんで目が覚めたんだ? 漏れそうだからか?」
「ほんっと、尚のそういうところ嫌い。でりかしーないっ」
「で、どうなんだ?」
「違うわよ。なんか知らないけど、誰かに揺すられた気がしたの。それで寝られないでごろごろしてたら、変な音が聞こえてきたの」
揺すられた。それは僕もだ。実際に梨郷に体を揺すぶられてたから気づかなかったけど、僕も妙な感覚がして目を覚ました。その辺りの記憶はぼんやりしていて、半覚醒状態になってから梨郷が起こしに来るまでどのくらい時間があったかはわからないけど。
「ねぇ、それがなんなのよ?」
「この辺りで地震があったんだ」
「え?」
「掃除機が誤作動を起こしたのも、棚の扉が開いてお茶の缶が落ちたのも、地震が原因だったんだ」
梨郷は目を見開く。
「あ、そっか。揺れたような感じがしたのはそのせいだったのね」
そろって地震に気づかないのは問題だけど、全部説明がつく。
僕は梨郷を連れて、夕飯の時の客間へ移動した。
「多分、やってるだろ」
リモコンでテレビの電源を入れると、予想通り緊急地震速報が流れていた。
これで解決、だな。




