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りんごの怪談記録メモ~怪談話の謎を解け!~  作者: たかしろひと
第1章
29/91

プールの中の白い手1

 夏休み初日、午前九時。

 切符を買って駅の改札機を通り抜けた。

 すぐに梨郷と手を繋ぐ。


「七番ホームだったよな。乗り換えが二回もあるのか……」


「ちょっと」


「ん?」


 梨郷は不機嫌そうに僕を見上げていた。


「何、自然に手を繋いでるのよ、変態」


「何言ってるんだ。手を繋ぐのはメリットしかないだろ。こうしてれば迷子にならないし、ホームから落ちたり、誰かにぶつかったり、転んだりするのを避けられる」


「そんなことにはならないわよっ」


「なったら大変だろ。今居さん達に頼まれてるんだよ」


「むー」


 これから向かうのは大型プール施設の『ウォータースリーワールド』この夏オープンらしい。流れるプールや波のプール、ウォータースライダーなどもあり、かなり話題になっているのだとか。


「でも、なんで僕なんだ。七恵さんが仕事でも今居さんに連れてきてもらうとか」


「おじいちゃん、プールとか好きじゃないのよ」


 年配の方は確かにそうかもな。そうすると、適任者がいないのか。七恵さんはかなり忙しいキャリアウーマンだし。


「なら、露ちゃんを誘って、霧ちゃんの保護者と一緒に」


「露ちゃんはクラスの友達と今日からキャンプに行くって言ってたのよ。夏休み体験教室ってやつ。……七月はサマーソングフェスティバルライブがあるから、私は行けないの。休みは今日くらいだし」


 サマーソングフェスティバルライブって、有名な歌の祭典か。さまざまなアーティストが舞台に立って、歌を披露する。テレビ放送もされるんだっけな。さすがサクラキリメってところか。

 キャンプっていうことは泊まりだろうし、向こうに誘われたとしても断らなくてはならないだろう。

 梨郷はうつむいた。


「仕方ないのよ。……断ってばっかりだから露ちゃんに気を遣わせちゃってて」


 芸能界での立場はこの前の通りだし、学校でも上手く友達付き合いが出来てないのか。


「あれ、梨郷ちゃん?」


 その声に梨郷ははっとした様子で顔を上げた。


「やっぱり。お兄さんもこんにちは」


 今まさに噂をしていた露ちゃんだった。相変わらず礼儀正しく会釈する。


「こんにちは。どこか行くの?」


 僕が聞くと、梨郷に聞いていた通り、これからキャンプだと教えてくれた。


「二人はこれからお出かけ?」


 彼女の後ろには二人の小学生女子が立っている。皆、子供用のキャリーケースやバックを持っていた。体験教室ってことはこれから指定された駅へ行って、そこからバスに乗るんだろうな。


「あ、えと、うん。結構前から約束してたから」


 ナチュラルに嘘吐いたな。約束したの二日前だろうが。


「今居さんどこ行くのー?」


 そうか、同じクラスだから、顔見知りなんだな。露ちゃんの後ろにいた女子が会話に入ってきた。


「え、あっ、その……プールに行くの」


「もしかして、ウォータースリーワールド? 良いなぁ。お兄さんに連れて行ってもらうんだね」


「う、うん。あの、皆キャンプ気をつけてね」


 梨郷がそう締めくくって、彼女達と分かれた。

 そして、後ろから聞こえてきた会話。


「いいなぁ、お兄ちゃんにプール連れて行ってもらえるなんて」


「うんうん、羨ましい。ママ達、普通の日は仕事なんだもん」


「梨郷ちゃんはお兄ちゃん子だから」


 彼氏とか言われるよりましだけど、兄妹扱いな上に、露ちゃんも否定しないのか……。とはいえ、僕と梨郷の関係は結局のところ他人なわけでその説明がベストなのかもしれない。

 見ると、梨郷がしょぼくれた顔をしていた。


「どうした?」


 七番ホームから停車していた電車へと乗り込む。思いの外空いていたので、座ることができた。


「……良いわよね。ああやって皆でワイワイしながらお泊まりに行くとか」


「修学旅行はまだなんだな。学校の行事でないのか? お泊まり」


「……私、放課後は仕事があるから遊びに誘われても断らなきゃならないし、だからクラスの子とあんまり話さないのよ。そういうイベントも休むことが多いし」


「ん? でも臨海学校行くんだろ? 仲の良い子と一緒の班になったって」


「仕事入ったから。……それに話すって言っても露ちゃんと仲が良い子達ってだけ」


 難儀だな。僕には強気でくる癖に。

 やがて、電車が動き出した。梨郷は暗い気分を引きずったままらしく、体の向きを変えて外を見ている。

 

「あ」


「ん?」


 梨郷が流れる景色に目を細めた。


「今、例のトンネルの近くの林を少し入ったところに変な建物が見えたわ!」


 何故か興奮気味に。


「それがどうしたって?」


「廃墟って感じのところだったの! 何かありそうじゃない?」


「余計な詮索をするな」


 梨郷は座席に座り直して、スマホをいじり始めた。


「そういえば、これから行く赤鹿原駅の近くに何かないかしら? 変な噂とか」


 梨郷が水を得た魚のように生き生きし始めた。

 僕はつい呆れ顔に。


「止めとけって」


「ああっ」


「静かにしろ」


 あー、引率って大変なんだな。学校教師の苦労が知れる。


「ウォータースリーワールドの噂。一番奥の深いジャングルプール。真ん中の岩型の足場のそばにいると、白い手にプールの底に引き込まれる……だって!」


 オープンして何日も経ってないのに妙な噂が流れ出すとか。秋を待たずに潰れそうだ。

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