梨郷が考えているものは3
嬉しそうな梨郷に対し、僕は思いの外ショックを受けていた。自信があったわけではないけど、限りなく梨郷の思考を読んだつもりだったのに。
「ふふ。そんなに悔しいのー?」
「……。じゃあ、なんだったんだ?」
「めくっても良いわよ」
そう言って、得意気にアイスティーを一口。調子に乗ってる梨郷ほどイラつくものもないな、ほんと。
僕はテーブルのナプキンを裏返した。
「かかし、か」
「そういうこと。ていうか、なんで藁人形だって思ったのよ?」
「梨郷は付喪神を信じてるんだろ?」
「つくも?」
「簡単に説明すると、どんな物にも魂、神様が宿っているって考え方だ」
前のカーブミラーの時もそんなようなことを言ってたしな。
「だから、最初の質問で物だと思ったんだ。魂が宿ってると信じてても、やっぱり半信半疑なんだろ。だから、生き物だと断言出来なかったんだ」
「うっ……」
図星か。
「それで、人の形をしてるなら、そのまんま人形だろ? でも、お前は単純に人形って答えを設定しないよな、性格的に」
「性格的にって何よっ」
「問題はなんの人形なのかってことだ。僕は怪談話に出てくるような呪われた系の人形に絞って考えてたんだ。素材の質問は的を得ていたよな?」
「ええ、かかしは体が藁だから」
僕はため息を吐いた。
「後二、三の質問でたどり着けたかも知れないな。賭けに乗らなきゃよかった」
「ふふーん、もう遅いわよー!」
うーん、癪だ。
「あ、そうだ。歩けないの質問、あれはどういうことだったんだ? かかしは歩けないし動けないだろ。藁人形もだけど」
梨郷は心底不思議そうな顔をした。
「何言ってるのよ。かかしは瞬間移動能力があるのよ? 背中を向けると、近づいてくるんだから」
「おい。んなわけないだろ。あれは田んぼの鳥避けだぞ」
藁人形より怖いだろ。
「知ってるわよ。でも、かかしを怒らせると怖いのよ?」
かかしに関する怖い話でも読んだか見たんだろうな。多分、実物は見たことないんだろう。
「まぁ、良いや。で、なんのお願いを聞いてほしいんだ?」
「負けたのは尚でしょっ、なんで偉そうなのよ」
頬を膨らませ、不機嫌そうにする梨郷。まったくもって扱いづらい奴だ。
「わかったよ。で?」
梨郷は視線を泳がせた。それからうつむく。
「…………ほしい」
「何?」
聞かせる気がないだろ。声が小さい。
「……お」
「お?」
「おっきいプールに連れてってほしいのっ」
まさかのお出かけ保護者役の依頼だった。




