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りんごの怪談記録メモ~怪談話の謎を解け!~  作者: たかしろひと
第1章
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二階へ続く血痕4

僕はカウンターの前、梨郷はカウンター席。いつものように向かい合う。

 梨郷は僕がカフェオレを半分近くまで飲むと、息を吐いた。


「ニュース、見たでしょ?」


「昨日のだろ? ちらっとな」


「ちらっとって。かなり情報が出てたわよ? ちゃんと聞いたの?」


「今朝は遅刻しそうになってたからな。天気予報しか聞いてない」


 梨郷はわざとらしくため息を吐いた。


「仕方ないわね。新しい情報が出てたから、話してあげる」


「お前、それを僕に話して何しようっていうんだ」


「黙って聞きなさいよ」


「だから、なんで」


 と、店のドアが開いてサラリーマンらしき二人組が入ってきた。二十代と四十代だろうか。上司と部下と言う感じ。さて、梨郷よりお客様優先だ。


「いらっしゃいませ」


 そう声をかけると、


「ブレンド二つ」


 若い方の男性がピースサインの形を作った。


「ありがとうございます。少々お待ち下さい」


 さて、注文品を用意しないと。


「仕事しながら聞いて」


「少し待てないのか?」


「時間がもったいないでしょ」


 そう言って梨郷は何やらメモ帳を取り出した。

 僕は棚からコーヒーカップを取り出す。ひいた豆を使うか。


「まず、亡くなった女の人だけど、大学病院の看護師さんだったらしいのよ」


 看護師か。路地で刺されるイメージがない職業だな。完全に偏見だけど。


「少し前からストーカーに悩まされてたみたいなの。で、関係あるか分からないけど、看護師さんの働く病院で医療器具が盗まれる事件があったんだって」


「盗まれた?」


「そう。まだ見つかってないみたい」


 それ関係あるか?


「ちなみに何を盗まれたって?」


「詳しくは報道されてないのよ」


 まぁ、梨郷が調べたわけじゃなくて、テレビの情報だからな。


「それで気になったのが、刺されちゃった女の人の腕に注射器の針の痕があったらしいってこと」


「注射? 針を刺した痕ってことか?」


「当たり前でしょ? だからね、その痕は盗まれた注射器を使われたんじゃないかしら? 体の中から睡眠薬が検出されたらしいし!」


「注射器……」


 僕は少しだけ思考を巡らせる。


「なあ、あの血痕……落ちてた血は誰の血だったんだ? ニュースでやってたか?」


「そうそう! 刺された女の人の血だったらしいのよ。だから犯人確定!」


 興奮した様子で身を乗り出す梨郷。


「犯人は捕まってないんだよな?」


「だから、捕まってたらこんな話しないわよ」


「犯人について、ニュースで何か言ってたのか? 誰かに事情を聞いてるとか」


「ううん。何も」


 警察はまだ見当もついてないってことか? あれだけ証拠があるのに。まあ、ニュースの情報だからな。公表してないことも多いだろう。


「何? 何かわかった?」

 

 梨郷はまたしても興奮した様子で椅子を立った。まったく、ガタガタ音を立てるな。客がいるのに。


「それだけでわかるわけないだろ?」


 僕はドリッパーにペーパーをセットし、挽いた豆にお湯を注いでいく。

 見ると、梨郷はにやりと笑った。


「尚は気づいてないかもだけど、考えてる時、必ず視線を下の方に固定するわよね。さっき、何か考えてた?」


「固定なんて言葉、どこで習ったんだ?」


「話をそらさないで!」


「はあ……」


 僕はブレンドコーヒーをお盆に乗せて、サラリーマン二人組の奥のソファ席へ。


「お待たせ致しました」


 会話をしていた彼らは同時に僕を見上げてきた。


「ああ、ありがとう」


 会釈をして、カウンターへと戻る。客がいるのに物騒な話を続けるのもどうなのか。


「ねえねえ、尚」


「なんだよ。どうした」


 僕は使ったペーパーフィルターを捨てて、ドリッパーを洗う。


「やっぱり犯人はストーカーなのかしら? 付き合ってる男の人と一緒にいるところを見て、怒っちゃったとか?」


「だから、わかるわけが……もしかして、その女性は彼氏と一緒のところを襲われたのか?」


「ええ。救急車と警察を呼んだのはその彼氏さんらしいわよ」


「なら、その彼氏は犯人がわかるんだよな?」


「お店の防犯カメラに映ってた男で間違いないって言ってたらしいわ。犯人は血まみれで逃げたって」


「血まみれ……血まみれ」


 僕は男が二階へ上って行った時のことを思い出していた。あの時、客の女性が悲鳴を上げて、多馬崎がイートインスペースに来てから驚いて固まっていたっけ。

 なんで、あの時、客より先に気づかなかったんだろうか。だって、血まみれで逃げた男は店に入って来てレジカウンターの前を通ったんだ。気づかないはずがない。黒い服だったからわからなかったのかもしれないが、床に血痕は落ちていたはず。


「尚―?」


 僕ははっとした。梨郷が目の前で手を振っていた。


「何かわかった?」


「……ああ、まあな」

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