第9話 翻弄
見ていない方もいるかも知れないので一応言っておきます。私、カメスケは、この話の投稿後書き溜め期間に入ろうと思っています。暫く更新されないと思いますが、みっ、見捨てないでぇ……(;_;)
時間の感覚が狂っている。これは時差ボケなのだろうか。この世界に来てから、別に頭痛などがあるわけではない。が、なんとなくふわふわした感覚が常にある。それこそ、夢を見ているような感覚。
シュミーと話して(見下されて)、映像を見て、またシュミーと話して(馬鹿にされて)、何分経ったのだろう。30分か1時間か……わからないが、アニメを丸々1話余裕で観ることができるくらいの時間は経っている気がする。その時間、ずっと路地で迷っていたというのか?どう考えてもおかしい。あの大通りから、路地に入り、この家まで……確かに入り組んでいた。だが、覚えている限りあの路地は一本道だった筈だ。
「いえ…私も驚きました。ここからあの大通りまで来た道を戻りましたが…路地を抜けて光が見えたと思ったら、またこの家に戻ってきてしまったんです。」
一本道を普通に歩いて、いつの間にか逆方向に向かっていたなんて、普通ではありえないと思うが。
そこで悠来はある答えにたどり着く。
「リアス…まさか君!」
「なっ、なんですか?!」
リアスは悠来が突然に真面目な顔をしたので緊迫した空気になる。。
「まさかとは思うが、極度の方向音痴なので!?」
『なのでは!?』の“は”を発音する前にリアスの拳はフィールの格好をした悠来の頬に直撃していた。
「バカにするのもいい加減にしてください。なめてるんですか?」
コイツら…(バルバスを除く)揃いも揃って…
「こっ……これフィールの体……」
「わかってますよ、まぁフィールの体にこの程度のパンチでは傷1つ付きませんので大丈夫ですよ。」
「な!何が大丈夫なもんか!この体はもうちょっと安静にしてなきゃだめじゃないのか!?」
体に傷がつかないとはいえこっちは痛いんだから……。
この体、リアスの言う通り本当に全く痛みを感じない。何をされても絶好調で超健康な状態な保たれている感じがする。今殴られた時もそうだが、シュミーに殴られた時も、岩に猛スピードでぶつかりに行ってしまった時も、全く痛くなかった。これは、元々フィールが持っている防御力のお陰なのだろうか。
まぁ……痛くないなら……殴られても……良い……
「良いわけないだろー!」
突然立ち上がり叫んだ悠来に冷ややかな視線が集まる。
「ユーキが壊れたー。こわーい。」
「てめ、このやろ!」
悠来はシュミーに襲いかかろうとする、が
「二人とも!」
リアスが怒鳴り、悠来もシュミーも時間がピタリと止まってしまったかのように動きを止める。
「もうおふざけは終わりです。この状況、かなり深刻かもしれませんよ…」
この言葉をシュミーは理解できたようだが、悠来は何が何やらさっぱりだった。
「いやー、あのお婆さんなんか怪しいと思ってたけどまさかねー。」
「あくまで可能性の話ですよ。あのお婆さんに直接聞いてみる他ないですね…」
んー……?あ、まさかとは思うが……
今の路地で迷子になったというのが、あのお婆さんが俺達をここまで連れてきて、出られなくしてしまったという訳?それで……この先……
…
……
………
「俺達どうなっちゃうの!?」
悠来は慌てふためき、騒ぎ立てる。2人はそんな悠来を『フィールになんて顔をさせてるんだ』と言いたそうな顔をして睨む。
「ユーキさん、慌てないで。とりあえずあのお婆さんを……」
「拘束しよう!尋問しよう!」
シュミー、『拘束』やら『尋問』やらという言葉を歓喜の舞を舞いながら楽しげに言っている君のほうがよっぽど“こわーい”と思うんだけど。
「シュミー、確証がない限りそんな事は出来ませんよ。それに拘束して尋問するのであればもっと静かに話してください、気づかれます。」
証拠がないのにそんな事できない、みたいな事を言ってる癖に、やる気満々に見えるのは気のせいだろうか。
シュミーはリアスに「ターゲットは上にいるよ」と、人差し指を上に向ける。リアスはそれを見て頷き、2人は足音を忍ばせ階段に近寄る。
「結局やるんスカ…」
シュミーは痛みかけた階段の1段目にそーっと右足を乗せ、徐々に体重をかける。すると階段が赤子の鳴き声にも似たような音を立てて撓り始める。その音を聞いた2人は歯をむき出し、焦りの表情を見せる。
2人は前もって打ち合わせでもしたかのようなシンクロした動きで胸に手を当てて心拍数を整えている。
何だこれ。まるでコントでも見ているような気分だ。
きっとこの光景をダンジョンかなにかで見ていたらもう少し緊迫した場面になっていたかもしれない。しかし、言ってみればここはお婆ちゃんの家。はっきり言って、久々にお婆ちゃんの家に遊びに来てはしゃいでる親戚にしか見えない。シュールすぎる。
シュミーは階段の先を見つめて、音がならないよう細心の注意を払いながら階段をヌルヌルと登っていく。
背もたれのついた椅子にだらしなく腰掛けていた悠来は、ただただ失笑すまいとその光景を眺めていた。が、その後すぐに起こった奇妙な現象に目の色を変えることになる。
なんと、ゆっくりと2階に行ったはずの2人が、なぜか地下と1階を繋ぐ階段から顔を出したのだ。要するに、上に行ったはずの二人が下から戻ってきたのだ。それを見ていた悠来は思わず、
「え……?どうなってるの?」
と声を漏らす。
地下から顔を出したシュミーもまた、悠来と同じ様な顔をして声を漏らす。
「下にいたんじゃないの……?」
「は?俺はずっとここにいるぞ?お前らこそなんで地下から出てきたんだ?」
「地下?地下なんて行ってないよ。僕達はただ2階に行って……ここって2階だよね?」
「いや、ここは1階……の筈だぞ?」
2人の会話が噛み合わない。
「……あれ、リアスはいるんだよな?」
この奇妙な現象が起きている中、会話に全く入ってこないリアスに違和感を感じた悠来は恐る恐る問う。そしてまたシュミーも恐る恐る振り返る。
シュミーは、つい今の今まで背後にいた“筈”のリアスの存在を確認する。しかしその背後には、下まで続く階段の奥に深い闇があるだけだった。
リアスがいなくなっていることに気づいたシュミーは驚きを隠しきれていない表情でもう一度悠来を見つめる。
しかしすぐにその驚きから一変し、怒りや、不安や、焦りという感情がごちゃまぜになったような複雑な表情になる。
「あのババァ……リアスを……一体……」
「ま、マジか……」
リアスは、さながらマジクックショーの人間消滅マジックのように、一瞬にして消えた。なんの前触れもなく、ただ階段を登っただけであっという間に……
しかし、マジックには必ず種があるものだ。マジックならまだいいのだ。が、この未知の異世界では種を仕掛けなくてもなんとでもできそうなのが恐ろしい。なんたって、魔法やら呪いやらが本当に存在しているのだから。
この状況……まだこの世界に来たのはついさっきの話だが、この世界でこういう状況に出くわした場合、冷静な判断と対処が必要なんだとなんとなくわかるぞ。
「シュミー、今は怒ってる場合じゃないと思うぞ。冷静に…」
「そんなの……そんなの分かってるよ……」
下に続く階段と、上に続く階段の間で突っ立っているシュミーは、ひたすら打開策を考える。
「とりあえずこの階段は確かなヒントが無い限り使わないほうがいいよね、また僕かユーキのどちらかがいなくなっちゃったら、みんな完全に孤立状態になっちゃう。」
「それもそうだけど、行動しみないと何も始まらないんじゃ……」
「そんなのわかってるよ!とにかく君はそこで黙ってじっとしてて!」
「……あ、そう。」
へっ、そうですか、そうですよ。どーせまた俺は邪魔にされるんだ。ここに俺の役目も居場所もないんだ。へっ。
それにしても、いくら余所者だからって邪険にしすぎではあるまいか?……あぁ、もっと頭が良くて役に立つ人間が入れ替わってたらそんなことはないのか。……つまり俺、役立たずなのか。
シュミーは辺りを物色し始める。
悠来はその非倫理的な行為を『ソウイウコトシチャウンスカ』という目で見つめる。
そうだ、ここは年上として叱ってやろう。こんな可愛……こんな年齢から他人の家で物漁りなんて将来が思い煩われるし!何しろ“年下”なんだから!
……さて、なんと言ったものか。
『おいシュミー。それはお前のビジュアル的にどうかと思うぞ。』
『殺すよ?』
いや。これは無理だ。下手すると殺されるかも。
う〜ん……
いっそのことここはシンプルに、
『こら、駄目じゃないかそんなことしたら。メッ。』
『あぁ、そんなに死にたかったの?』
あ、分かった。これ何言っても駄目なやつだ。
このリアスの消失という緊迫した状況では、自分の出る幕はないと察した悠来は言われた通りに黙っていることにした。
しかし、シュミーがタンスでパンツを漁り始めた時つい思ったことが口から出てきてしまった。
「おいおい……お前一応男だろ?持ち主がお婆ちゃんとはいえレディだぞ?タンスの中は流石に……お婆ちゃんのタンスの中漁って楽しい?」
あれ、俺今声に出して……
「ユーキ……」
「あ、ホント、ごめんなさい。」
しっ、死ぬ……ヤバ……
「今はそうは言ってられないでしょ……僕だってあんな糞ババァの糞が付いた様な糞下着が入った糞タンスなんて糞漁りたくないんだから。」
あ、あれ、意外な反応。
っていうかもうわかったから喋らないで!違った意味で焦るから!糞糞言うな……
「ふぅむ……でも多分これ転移系の魔法なんだよな……」
シュミーは顎に手を当ててため息をつく。
「そうとしか考えられないんだよ、一本道の途中で逆方向に進んでしまったのも、この階段でのリアス消失もそれなら説明がつく。」
「なるほど、それがシュミーのたどり着いた答えか!流石ナンバー1チームの一員だけあるなぁ。」
「い、いや。まだそうと決まったわけではないけど?褒められても嬉しくないし?」
とか言いつつも、胸を大きく張り上げて顔を少し赤らめている。もしかしてこの子結構チョロい?
そんな、まんざらでもないような表情のシュミーの背後にあったドアが突然勢いよく開き、鼻を伸ばしていたシュミーは突き飛ばされる。
「ぐへっ!」
「おい老婆ァ!シュミーを、シュミーを何処へやったのだ!」
シュミーを突き飛ばしたのはリアスだった。何故上に登った筈のリアスが1階の部屋から出てきたのか。それはもうなんとなく想像がつく。
それにしても、階段を登った筈の人間が地下から出てきたり、別の部屋から出てきたり……確かに転移系の魔法なら合点がいくが。
「多分シュミーは今君がドアを開けた勢いで突き飛ばしたその子だと思うよ?」
「あれ……?何故ユーキとシュミーがここに?私は2階へ行ったはず……ここは2階ですよね?」
リアスは突き飛ばしたシュミーをそっちのけで驚く。
「1階だよ……それより痛いじゃないか……ドアを開けるときは奥に人がいるかもしれないから勢いよく開けちゃいけないって教わらなかったの……?」
シュミーはウルウルしながら両手で腰を擦っている。なんともデフォルメが似合いそうな顔をしている。
「なっ……すみません……しかし、ドアの前に立ちっぱなしというのも良くないですよ。それよりこれはどうなってるんで……」
「だからそのドアの前に立ってる人がいるかもしれない……から…………待って、ここにドアなんてなかったよ。」
「え、あ、ホントだ。」
確かに。言われてみればそうだ。そこにドアは無かった。気づかないうちに出現していた。これは……転移魔法というのか?好きなところにドアを出現させて転移させる。確かに転移と言えば転移な気がするが。ん……これどっかで聞いたことある気がするけど、なんだったっけ。どこでもド……うん、よく覚えてないけど多分別物だろう。別物ってことにしておこう。ここはもう触れない方がいいな。
シュミーは今あったこと、そしてこの異常現象の今のところの考察を伝える。
「私が階段を登った先には少し長い廊下があって、廊下の一番奥に扉があったので開けてみたんですが、辿り着いたのがここでした……。一度も降りた記憶はありません。」
「もうあのババァ見つかんないし家ごと吹っ飛ばしちゃおうか。」
「シュミー、それは流石に野蛮すぎます……」
「う〜ん…」
お婆さんを見つけ出す為に策を練っている2人の間で、ユーキはある事がしたくてウズウズしていた。
シュミーが今この階段を使った所を見る限りアレができるんだよな……でも何処かに飛ばされちゃうかもしれないし。いや、飛ばされてもリアスみたくここに戻ってくるのか?う〜ん、これ言ったら怒られるかなー……怒られるだろうなー……でもなー……ちょっと見てみたいんだよなー……
「ユーキ、貴方はさっきから何を考えているのですか?」
う〜ん、よし、決めた。殴られる事承知で言ってみよう。
「おいシュミー。」
「へ?」
「その地下行きの階段で、俺達にギリギリ顔が見えるくらいのところに立ってみて。」
「こ、こう?」
床下からシュミーの目が覗く。
「よし、じゃあ顔は俺達に見えるようにしたままそこに寝そべって、できるだけ下まで足を伸ばしてみて。」
「えぇ……寝そべるの……?……はい。」
シュミーはいやいや寝そべり、悠来の言ったとおりにしてみる。
「おぉ!おほ!」
「こ、フッ……これは……凄いですね……」
リアスは笑いを堪えている。
「え!なに!?ちょ、分かんないよ。何が起きてるの?」
「そこからじゃ見えないんですか?ブフッ……」
あ、吹いた。
「シュミー、今お前凄いことになってるぞ。下に続く階段から顔が出てるのに……上に続く階段から足が見えてるんだよ。」
「え……それどういう状況?僕も見たいんだけど。見たいんだけど!?」
消滅マジックに続いて、今度は分裂マジックとは。これは転移と言うより空間そのものを捻じ曲げてしまっているような気がするが。
シュミーが足をパタパタしたり、寝返りをうったりする度に悠来とリアスの歓声が上がる。
ふざけている場合じゃないでしょうとか言われてしまうかもと思ったが驚いたことに2人共食いついている。
「ねぇ、僕にも……」
「しょうがない俺がやってみせよう。」
悠来は現実より少し背の高いフィールの体で同じ事をやって見せる。すると、やはり同じことが起こる。
「えー!何これキモチワルイ!体分裂してるじゃん!アハハハ!」
シュミーよりも背が高いフィールの身体でやると、さらにわかりやすく分裂して見えるようだ。
「ブフッ……ブフフフ……」
リアスはもう笑いをこらえきれていない。
フフフ、これができるという事はやはりアレが出来るな!
「よーし!君たちにもっと凄いのを見せてやろう!」
そう言うと悠来は猛ダッシュで階段を駆け上がる。
「うわ!何これ凄い!」
「ブフ……ブッ……」
多分シュミー達の居るところから見ると、左下から現れて右上に消えていく、というのを高速で繰り返している様に見えるのだろう。これはこれで不思議。
しかし、走ってる本人からは1階にも2階にも3階にも……と、どの階も同じ光景が見える。それはそれで不思議……っていうか気持ち悪くなってくる。
「ユ、ユーキ……私もやってみたいです。」
「お、おぉう……」
悠来は何故か異常にノリの良いリアスに、若干引き気味で場所を代わる。
リアスは階段と階段の間に立ち深呼吸する。そしてそこから素早く、走る構えをする。
「い、行きますよ……?」
「う、うん。」
……そんなに意気込むことか?
リアスは唾を飲み込み、視線を一点に集中させる。
「おりぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
リアスは床を思い切り蹴り飛ばし、猛スピードで駆け上がる。
「はっ……早いな……」
「うわっはー!凄いね!どういう仕組みだろう!次僕もやりたい!」
「おぉ!……どうやら……前方に……走っている……自分の……姿は……見えない……ようです……ねぇ!」
途切れ途切れのリアスの楽しそうな声と階段のメキメキという音が聞こえる。既にキャラが崩壊し始めている気がするが、そんな事より……
口元凄い笑ってるのに目が全く笑ってないのはなんで?!怖いよ!
ってかどんだけ気に入ってるんだよ。
悠来はひたすら出たり消えたりを繰り返すリアスをじーっと見つめていた。
「なんか、変な感じだな……」
自分でやってる時も気持ち悪るくなったけど、見る側もだんだん気持ち悪くなってくるな……地下に続く階段と、2階に続く階段が直線上に配置されてるから余計に不思議な感覚に襲われる。
予想通り、時々ゲームである右画面端から抜けると左画面端から出てくるアレが、完全に再現されている様に見える。まさか現実世界で見れるとは。ん、現実?夢だろ?
「リアス!次僕!僕にもやらせて!」
「駄目で……すよ、も……う25……いや30……周ほど……やらせて……ください……」
「ねぇ、もう十分やったでしょ!それそんなに楽しい?」
「楽しそう……に見えない……ならやら……なくてい……いですよ。」
「楽しいか分かんないからやってみたいんじゃん!」
「何言って……るんですか……全然……楽しく……ないです……よ?」
「説得力無いね!良いから退いてー!」
おぉ……ナイスタックル……
シュミーのタックルが炸裂した直後、取っ組み合いが始まる。
「ウギャー!」
「ウガー!」
なんだこの茶番は。何でコイツらこんなくだらないことに目の色変えて取っ組み合ってんだ?もう完全にキャラ崩壊してるよ?
さっきまで真面目だった空気は一変。これ……コメディじゃん。このボロ家から出ないとヤバいんじゃ無いのか?こんなことしてていいのか?
駄目だよね。うん、良いわけ無いよね。ここは、ビシッと一発決めますか。
「ウギャー‼」
「ウガー‼」
「あ……あのぉ……」
その「ビシッと一発」には程遠い弱々しい声は虚しく散り、悠来は2人に押し倒される。
「ウギャー‼」
「ウガー‼」
「え、ちょ、やめ、痛い痛い、あ、痛くはないけど……ちょ、やめぇ……」
何だよ!この人達正気じゃないよ!おかしいって……って、
「え?!」
2人は突然、フィール(悠来)の着ていた白いジャケットを剥ぎ取る。
「ぅお!お前ら!服を脱がすな!うわー!た、たす……誰か!誰か助けてぇ!」
と、その時だった。
「アッハッハッハッハァ……アハッウッ……ゴホッ、ゴホッ……ゲホッ!オォェ……」
笑いすぎてそのまま何処かに逝ってしまいそうな声が響いた。その声を聞いた2人は、悠来を、いやフィールを?襲う手を止めターゲットをその声の主に変更する。
その声の主は老婆だった。先程の扉の様に、何もなかったはずの所から突然現れた。
「あ……い、いた……へ?」
2人は老婆に襲いかかる。
「ウギャー‼‼」
「ウガー‼‼」
「お前ら!相手は老人だぞ!そんな……襲いかかり方したら……下手したら……死んじゃ……あれ?」
2人の攻撃は1つも掠りもしなかった。というか、殴ったり引っ掻いた所が煙のように靡いて、攻撃がまるで当たらない。体が透けていて質量を持っていないというべきだろうか?
この人、ただのお婆ちゃんじゃないとは思っていたが。だいぶ強いぞ。2人共おかしくなってるし……大丈夫なのかこの状況。
「ホッホッホッホッ……ゲホッ」
老婆は薄笑いを浮かべ、ひたすら無意味に攻撃し続けるリアスとシュミーの首根っこを掴む。すると老婆の腕が青白く光り始め、その光は2人に伝導し身体を巡る。それと同時に2人は藻掻き苦しみ、やがて老婆が手を離し、力なく倒れてしまった。
「うぅ……」
「ぐはぁっ……」
「おっ、おい……!2人に何をした!」
別に洒落ではないが、悠来は勇気を振り絞って強気に振る舞う。
どうやら2人に意識はあるようだ。が、このヨボヨボの老婆に負けたのがよっぽど悔しかったのか、膝をついて顔を上げようとしない。
「な、何が、目的だ……ふっ、2人に何を……」
老婆はシワシワの皮膚に隠れた目で悠来をしっかりと睨みつけ口を開いた。
「お前さん……」
悠来は老婆が言ったことに驚きを隠せなかった。




