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翌朝。
入院中の母の看病のために、一週間ほど休むと学校に連絡を入れた。
そして病院へ向かう。
もう一度、母の顔を見たかった。
これから犯そうという罪に怖気づく自分を、奮い立たせるために…。
もちろん直接会うつもりはない。
こんな平日の朝に母に会える訳がない。すぐに学校を休んだ事がバレてしまう。
・・・
「ユイちゃん!」
母の病室へ向かっている途中、廊下の後ろの方から声がした。
「片岡先生…」
誰にも会いたくなかったのに。
こういう時に限って、必ずと言っていいほど、会ってしまうものみたい。
「昨日はあれきり、姿が見えなくなってしまったから…。心配していたんだよ?」
私が黙り込んでいると、先生が続ける。
「ユイちゃん、学校はどうしたんだね」
「ちょっと、ね」仕方なく、歩き続けながら答える。
「お母さんの事だったら、僕が付いてるから。ちゃんと学校に行きなさい」
私の前に立ちはだかった先生。
「付いてるだけじゃ治らないでしょ!もういいから。別の先生に頼んだから」
そう言い返して再び歩き始める。
「新堂の事か。あの男はやめなさい!」
ついに先生が、私の肩に手を置いた。
「片岡先生に、とやかく言われる筋合いはないわ!」
「ユイちゃん。あの男に関わるな。警察沙汰に巻き込まれたくなかったら…」
「上手くやるからご心配なく!」
法外な手術代を請求された事を言っているのだと思った。
ところが、そうではなかったみたい。
「知らないだろうが、奴は無免許だよ」
「え?」一瞬、何を言われたのか分からなかった。
無、免許…?
「それって、医者じゃないって事?お母さん、助けられないの?でも、超一流の腕って」
「いや、まあ…。何とも言えないんだが…。とにかく!あいつだけはやめるんだ」
先生の答え方は曖昧だった。
「意味が分からない!なぜダメなの?助けられるなら文句はない。免許なんて、なくてもいい」
あの時、ナースが何を言おうとしたのかが、これで分かった。
でも、そんな事は私にはどうでも良かった。母さえ救えれば…。
例えあの男が闇の世界からやって来た悪魔だろうと、契約を交わす決意を変える気はなかった。
私は母に会うのを諦めて、先生を振り切って病院を後にした。
・・・
向かった先は、とある怪しげな組織。
昨夜こっそり、父親の会社に忍び込んで闇求人を閲覧した。
そこで見つけた、〝血液高価買取〟の文字。
私の血液型はB型RHマイナス。
中里さんも言っていたように、日本で二百人に一人しかいないとされている。
つまりこの血液は、通常よりは高く売れるという事になるのでは?
リスクばかりを唱えられて来たけれど、特殊な血も役に立つ!
とは言え、五千万には到底及ばない。また神崎社長に借りる他ないのか…。
様々な議論が、私の脳内で繰り広げられていた。
とにかく時間がない。行動に移さなければ。
そんな焦りの中で行なわれた交渉にて。
自分がどんな人間であるのかを、改めて思い知った。
何せ値を吊り上げるための交渉劇は、まるで父の様だったから…!
私が朝霧家の人間だとほのめかすと、途端に相手の態度は急変した。義男の存在が、こんなにも絶大だという事も初めて思い知る。
結果的に私の血液は、四百五十万という額になった。
初めての交渉事に成功した上に、予想外の展開で倍以上の収入に!
けれど。
出足好調だったのも束の間。
極度の貧血のせいもあり、次の手は全く浮かばず。すぐにその勢いは消え去った。
「やっぱり、お金を稼ぐのって簡単じゃないや…」
お金を手に入れる事の厳しさを思い知るのだった。
遠い過去、実際に血液売買はされていたようですが。あくまでフィクションです。




